5G以降地上ネットワーク (NTN)

概要

このホワイトペーパーではNTNの現況を概観し、研究段階にある最新アプリケーションのいくつかを取り上げるとともに、この市場が現実のものとなるまでに解決すべき重要な技術的課題を確認します。最後の章では、衛星通信の設計、開発、実装において重要な役割を担うことになる効果的で効率的なテストを実現するために、NIが取り組んでいるNTN関連の製品およびソリューションについて、その概略を説明します。

内容

NTNとは

非地上ネットワークは、低地球軌道 (LEO)、中地球軌道 (MEO)、静止軌道 (GEO) の衛星、高高度プラットフォーム (HAPS)、ドローンを含む、地球の表面上空で動作する無線通信システムです。はじめに、いくつかの衛星通信用語について明確にしておきましょう。NTNは衛星通信の一形態であり、軍事、防衛、調査、プライベート航空宇宙分野などで利用されるアプリケーション全体の一部分を構成するにすぎません。本ホワイトペーパー中で「NTN」という場合、さまざまな商用ワイヤレスのユースケースを指しており、ブロードバンドデータネットワーク、ナローバンドデータ拡張 (モノのインターネット [IoT]-NTN/SOS)、新たな非地上系セルラーネットワークなど、NTNで最近開発された成果のほとんどが含まれます。

特定の商用アプリケーションにNTNが適しているかどうかは、それによって解決すべき課題によって決まります。大体において、こうした課題は実装先の場所と人口密度によって左右されることから、既存のインフラストラクチャの影響も受けます。たとえば、十分に発達した地域では、NTNを利用して人とデバイスを広範なセルラーネットワークに接続することはありません。他方、NTNによってIoTデバイス群に大規模の接続を用意したり、緊急時の接続性を確保したりすることができます。

デバイスの利用場所ユースケース
都会
  • オーバーレイとトラフィックの過負荷
  • オンデマンドのホットスポット
  • ネットワークの復元力と緊急事態
  • 固定ワイヤレスアクセス
農村
  • ネットワークの復元力と緊急事態
  • 固定ワイヤレスアクセス
  • 広域接続性
  • 公衆保護と災害復旧 (PPDR)
遠隔地
  • ネットワーク復元力
  • バックホール
  • PPDRと緊急事態
  • 広域接続性
隔絶した場所
  • 航空
  • 海事
  • リモートホットスポット
  • PPDRと緊急事態

 

表1: デバイスの利用場所で分類したNTNユースケース

これらのユースケースの多くは、特定アプリケーションのニーズを最適化するために、異なる衛星軌道を必要とします。軌道が異なることで技術的な課題も異なるため、性能と能力のトレードオフが発生する場合があります。たとえば、軌道が遠くなるとレイテンシが高くなり、スループットが低下して、より大きな出力が必要となりますが、サポート対象の地表面積は格段に広がって、ほとんどの遠隔地に接続を提供できるようになります。低いスループットで高いレイテンシという状態は、低帯域幅の接続では接続が皆無となるより良いため、許容されることもありますが、常にUL/DLトラフィックが発生する通信では低遅延が必須であることから、数百の同時接続をサポートするネットワークでは困難な局面が出てくるかもしれません。このような場合にLEOは、すぐれた代替手段となり得ますが、広範な地域を対象とするために、さらに多くの衛星が必要になるというトレードオフがあります。各軌道タイプの詳細を表2に示します。

軌道ビームフットプリント (KM)往復遅延 (MS)軌道距離軌道時間衛星寿命必要な衛星の数ドップラー、2 GHz、45゚の仰角 (kHz)速度 (KM/S)
LEO50~10002~20300~3,000 km1.5時間5~7年30~6072.9~61.56.5~7.7
中軌道 (MEO)100~1,00047~1677,000~25,000 km2~8時間5~10年10~2051.5~33.64~5
静止地球軌道 (GEO)半球全体 (200~3,500)23935,786 km24時間10~15年3~600

 

表2: 軌道のタイプ

一見したところ、GEOにはドップラーシフトが存在せず、相対速度がゼロであり、その長寿命や広大なサービスエリアはいずれも魅力的です。ただしGEOの場合、遅延および経路損失が大きくなり、軌道距離を達成するための衛星単価もMEOやLEOより高くなります。軌道上の全衛星中、GEOの占める割合は約12%です。その上、ターゲットとするIoTの各ユースケースは低データレート/低帯域幅であり、遅延に影響されません。

GEOとLEOの中間で妥協点を用意してくれるのがMEOであり、GPS衛星はここを周回しています。ドップラーシフトと大きな経路損失があるものの、どちらも対応可能なレベルです。GEOに比べると低コストですが、通常、これでも商用アプリケーションを運用するにはまだ高すぎます。

この比較でGEOの対極にあるのがLEOです。ドップラーシフトはかなり大きいとはいえ、レイテンシはずっと低くなり、経路損失はすべての軌道タイプ中最も小さく、相対的に考えると、LEOに衛星を配置するコストは低いと言えます。実際、今日打ち上げられる衛星のほとんどがLEOを利用しています。多くの商用アプリケーションにとって、LEOが持つ特性は魅力的です。商業的に大きな関心を集めているLEOですが、解決すべき技術的課題は多く残されており、後ほどこれらについて考察します。

軌道タイプとは別に、NTNの実装で検討すべきもう1つの要素は、運用する際の周波数です。すべての周波数が異なる軌道タイプに最適であるとは限りません。また、地域や国の規制によっては使用できない場合もあります。こうした理由から、NTNの周波数はLバンドからKaバンドにまたがり、潜在的にはEバンドまで包摂します。

 ダウンリンクアップリンク
 周波数レンジ帯域幅周波数レンジ帯域幅
Lバンド1,525 MHz~1,559 MHz34 MHz1,626.5 MHz~1,660.5 MHz34 MHz
Sバンド2,170 MHz~2,200 MHz30 MHz1,980 MHz~2,010 MHz30 MHz
Kuバンド10.7 GHz~12.7 GHz2 GHz12.75 GHz~13.25 GHz、13.75 GHz~14.5 GHz500 + 750 MHz
Kaバンド17.3 GHz~20.3 GHz3 GHz27.0 GHz~30.0 GHz3 GHz
Eバンド71.0 GHz~76.0 GHz5 GHz81.0 GHz~86.0 GHz5 GHz

 

表3: NTNの周波数と帯域幅―ULとDL

地上系の通信と同様に、変調方式、アンテナ、RFトランシーバ、その他の要素は、低周波数とミリ波では大きく異なる可能性があります。表3で留意しておきたいこととして、NTNの周波数は広い範囲にわたっていますが、往復の時間が長いため、NTNで運用されるのはFDD (周波数分割複信) のみです。

上記の表では、あらゆる種類の衛星通信で使用される周波数がまとめられていますが、3GPPからは標準仕様の商用ワイヤレスアプリケーションで利用するためのバンドが提案されています。

3GPP提案のバンドバンドアップリンクダウンリンク二重化方式
3GPP NTN FR1 (LバンドとSバンド)n2551,626.5 MHz~1,660.5 MHz1,525 MHz~1,559 MHzFDD
n2561,980 MHz~2,010 MHz2,170 MHz~2,200 MHzFDD
3GPP NTN FR2-0/FR2-1 (KバンドとKAバンド) VSATn51017.7 GHz~20.2 GHz27.5 GHz~30 GHzFDD
n51117.7 GHz~20.2 GHz28.35 GHz~30 GHzFDD
n51217.7 GHz~20.2 GHz27.5 GHz~30 GHzFDD

 

表4: 3GPPが提案するNTN通信用のバンド

地上ネットワークメリット

非地上系ネットワーク (NTN) は、衛星通信初期の頃から利用されてきました。GPS、衛星TV、衛星通信専用装置、または軍事/防衛アプリケーションのいずれの場合でも、相互に接続された衛星間ネットワークによる地球規模の接続は、長く存続してきた実証済みのコンセプトです。ただし、これを実現するには複雑なインフラストラクチャと専用のRFテクノロジおよびシステムが必要であり、的確に運用するにあたっては多大な労力と高額の維持費を伴います。このため、商業化が進んだのは最近です。

NTNは、商業分野において転換期にあります。3GPPによるNTNの標準仕様や研究はRel-15まで遡りますが、Rel-17およびRel-18 (5G Advanced) の5G向けNTN仕様の標準化が重要な動機付けとなって、実用化に向けて強い関心を呼び起こしています。多くのセルラーユーザ機器 (UE) は、何らかの形でNTN機能が有効になっていて、商業と防衛でのユースケースが増えるにつれて、その費用対効果が向上しています。過去数十年間で、軌道上に物体を配置する際のキログラムあたりコストが劇的に低下したことと、通信機器がより多くの機能を少ない重量で搭載できるようになったことに、セル通信運用業者、UE製造業者、衛星コンステレーションの運用業者をはじめ、衛星通信のサプライチェーンで一定の役割を果たしている民間企業および防衛関連企業のほとんどが注目しています。

図1: ペイロード1 kgをLEOに送り込むコストは、この20年間で1/100に減少

キログラムあたりのコスト低下と高機能化により、商用宇宙船市場においてその実用性が高まっています。1960年代、1キログラムを地球低軌道 (LEO) に送り込むためのコストは約10,000米ドルでした。2006年には、その金額は1,000ドルでしたが、今後数十年で1 kgあたり50ドルになると予測されています。1その低下は、約60年間で1/200に相当します。さらに、チップセットと半導体は、小型化すると同時にその機能はより高度になるため、衛星に搭載される機能のコストは、さらに大幅に低下するでしょう。

宇宙空間の商業利用に影響を与えるもう1つの要因は、軌道に向けて発射される衛星の数です。現在では、規模の経済が効果を発揮し始めているため、毎年より多くの衛星が打ち上げられています。設計、製造、保守、その他のコスト要素は、衛星の打上げ数が増加することでメリットを享受します。全体の打上げコストが衛星の数だけ分散されて、機体ごとの費用が下がるからです。

各年に現役で稼働する衛星の数

図2: 各年に現役で稼働する衛星の数

NTNのテクノロジは、今後数十年にわたって予測される成長により、この商業化を促進するのに役立ちます。市場の成長予測では、2030年に40兆ドルまで増加すると見積もられています。2

2030年におけるNTNの市場規模予測

図3: 2030年におけるNTNの市場規模予測

 

NTNユースケース

NTN市場では、さまざまな企業がNTNインフラストラクチャのサプライチェーン、運用、開発に関与しています。扱う専門技術や主なニーズはさまざまですが、すべてが宇宙の商業化に関係しています。こうした企業同士の関係が、コンポーネントやサブシステム、デバイスレベルにおけるテストの実行方法に影響を与えています。

多彩で多岐にわたるNTN市場ですが、これを単純化して概括するために、NIではNTNのユースケースを3つのカテゴリグループに分けています。この一般化がすべてのアプリケーションに当てはまることはありませんが、ここでは最も一般的なユースケースについて検討し、それぞれの概略を述べます。 

ブロードバンドデータネットワーク―このアプリケーションには、閉じたネットワーク上で自社独自の装置を使用する民間のブロードバンド接続プロバイダが含まれます。通常、これらのネットワークは、接続用に専用のターミナルや地上設備を必要とします。

ナローバンドデータ拡張 (IoT-NTN/SOS)―このグループには、より多数のユーザに多くのサービスを提供する既存のネットワークが含まれます。地理的に広範な地域からの接続を実現する大規模でデータ駆動型のデバイスがサービスの主体です。気象学/気候学および農業用データの収集、インフラストラクチャの監視や遠隔地にある産業設備の状態監視のほかに、おそらく今日最も利用価値の高いものとして5G UEへの緊急 (SOS) 接続を提供します。

新興の非地上系セルラーネットワーク―このアプリケーションは、商用UEのアンテナや設計に最小限の変更を施すか、あるいはほとんど変更を施すことなくこれらを利用し、大規模な地球規模通信ネットワーク上で音声とデータの接続を実現します。

このようにカテゴリ分けすることで、NTNエコシステムを取り巻く状況全体に影響を与える特定の (技術的、運用上、政治的) 課題を包摂します。これらについては、後続のセクションで検討します。

ブロードバンドデータネットワーク

このカテゴリに属するネットワークの特徴として、何らかの形で専用であることと、特定用途向けに独自の地上ターミナルによる接続性が求められることです。さまざまな商用かつ専用の衛星コンステレーションで、過去数年間に目覚ましい進歩があり、ブロードバンドデータ接続をどこからでも、いつでもユーザに提供できるようになりました。

オペレータ衛星システム (デプロイ済み)スペクトルテクノロジー稼働状況サービスの種類
SpaceX (Starlink)12,000超 (3,580)Kuバンド独自運用中ブロードバンド
OneWeb648 (542)Kuバンド独自未定ブロードバンド
Kuiper3,236 (0)Kaバンド独自2024年に予定ブロードバンド
GalaxySpace1,000 (7)Q/V帯独自未定ブロードバンド
BoeingNGSO衛星147基 (1)Vバンド独自未定未定
InmarsatGEO衛星14基 (14)未定独自未定loT用ブロードバンド
Telesat188 (2)C、Ku、Kaの各バンド独自未定ブロードバンド
EchoStarGEO衛星10基 (10)Ku、Ka、Sの各バンド独自運用中ブロードバンド
HughesNetGEO衛星3基 (2)Kaバンド独自運用中ブロードバンド
ViasatGEO衛星4基 (4)Kaバンド独自運用中ブロードバンド

 

表5: NTNブロードバンドデータプロバイダの概略 (出典:5G Americas)

これら独自のネットワークが強固で信頼性の高い接続を提供する一方で、その閉鎖的なインフラストラクチャによって既存のUEやセルラーネットワークとの統合が困難または不可能になっています。この統合の欠如は、地上系と非地上系ネットワーク間のリンクと、共有接続によるユビキタス接続の実現がより困難になる、または不可能になることを意味します。クローズドネットワークでは拡張性が制限されるため、これらのネットワークの潜在的なコスト削減も制限されます。さらに、こうしたネットワークは専用かつ独自の地上ターミナルを必要とするため、運用、開発、保守のいずれのコストも増大することになります。

どのようにブロードバンドデータネットワークを既存の地上系/非地上系ネットワークに接続するかについては、現時点で見通すことができません。にもかかわらず、これらのブロードバンドネットワークは成長を続けており、近い将来NTN通信の一部になると考えられます。実際、3GPPのRel-18 (5G Advanced) にはKaバンドのサポートが含まれていて、将来の3GPP NTNによるブロードバンドデータネットワークのサポートにつながるかもしれません。

ローバンドデータ拡張 (IoT-NTN/SOS)

おそらく、市販/無改造のUEをNTNに接続するためには、これが最初のステップとなるはずです。過去数年間にこのカテゴリにおける研究および開発には目覚ましい動きがありました。工業用監視、気象データの収集、農業資産の相互接続など、多くのアプリケーションがIoT-NTNの範疇に入りますが、セルラー通信に最も大きなインパクトを与えるものとして、最新のフラッグシップスマートフォンからの緊急対応 (SOS) 機能が考えられます。事実、最新世代UEの多くが何らかの形式で緊急対応ショートメッセージサービス (SMS) 機能または音声通知機能を備えており、どこでも、いつでも (ほとんど) 市販/無改造のUEから接続が可能です。

オペレータ衛星システム (デプロイ済み)スペクトルテクノロジー稼働状況サービスの種類
各サービス特化プロバイダ
SpaceXLEO衛星2,016基 (0)MNOスペクトル/2 GHz MSS3GPPのPre-Rel-172024年メッセージング、音声、ブロードバンド
AST SpaceMobileLEO衛星243基 (1)MNOスペクトル3GPPのPre-Rel-172024年メッセージング、音声、ブロードバンド
LynkLEO衛星5,000基 (3)MNOスペクトル3GPPのPre-Rel-172023年第2四半期メッセージング、LDR (低データレート)
SateliotLEO衛星250基 (1)2.0 GHz MSSRel-17 NB-loT (NB-NTN)未定NB-loT
IridiumLEO衛星66基Lバンド独自運用中LDR/メッセージング
ORBCOMMLEO衛星31基137~150 MHz独自運用中資産トラッキング
GlobalstarLEO衛星24基L/Sバンド独自運用中資産トラッキング
LigadoGEO衛星1基LバンドRel-17 NB-loT (NB-NTN)未定NB-loT
パートナーシップ
T-Mobile/SpaceXLEO衛星2,016基 (0)MNOスペクトル3GPPのRel-122024年メッセージングデータ、音声、ビデオ
AT&T/ASTLEO衛星243基 (1)MNOスペクトル3GPPのRel-122024年メッセージングデータ、音声、ビデオ
Verizon/Kuiper3,236 (0)Kaバンド独自未定地上局のバックホール―LTEおよび5G
Apple/GlobalstarLEO衛星24基Lバンド、Sバンド独自2022年第4四半期緊急対応メッセージング
Qualcomm/IridiumLEO衛星66基Lバンド独自2023年第4四半期メッセージング
MediaTek/Skylo/BullittGEO衛星6基 (Inmarsat)Lバンド3GPPのNTN2023年第1四半期メッセージング
Skylo/Ligado/ViasatGEO衛星1基 (Ligado)Lバンド3GPPのNTN2023年下半期NB-loT、メッセージング、LDR

 

表6: 2023年時点のIoTサービスプロバイダ (出典:5G Americas)

NB (ナローバンド)/NTNは、今後ますますグローバル通信インフラストラクチャにおいて重要な部分を占めていきます。NB/NTNは、3GPPで標準化された次世代NTNに必要な基礎を築き、重要な技術を開発しています。

新興地上セルネットワーク

新興の非地上系セルラーネットワークに向けたテクノロジと方法論の研究では、2種類の取り組みが同時に進行しています。これらの3GPPを中心とした取り組みは、従来の2つのカテゴリ (ブロードバンド用3GPP Rel-18とIoTユースケース用3GPP Rel-17) および非3GPPの開発にも影響を与えました。

3GPP取り組み

このカテゴリのNTNのユースケースは、一般的な用途やアプリケーションの標準化が困難なため、おそらく普及にはほど遠いものですが、グローバル通信には最大の効果をもたらす可能性があります。この形態のNTNは高スループットであり、ほぼ無改造の5G商用UEからNTNネットワークへのユビキタス接続が提供されます。さらに、それを地上基地局によって補完してサービスエリアが拡大することで、接続性の向上と有用性の増大という恩恵がユーザにもたらされます。標準仕様が作成されるまでのタイムラインと導入時期は、現時点で不明です。デプロイメントの難しさから、3GPPのRel-19、Rel-20、またはそれ以降のリリースで大きく取り上げられるトピックになる可能性があります。課題にはたとえば、地球規模でスペクトル配分することや、ネットワークインフラを宇宙空間という過酷な環境で利用するためにデプロイすること、そしてNTN通信に最適化または特化されていないUEアンテナへの接続方法を開発することなどがあります。

このカテゴリに属するネットワークのほとんどがLEO衛星の担当範囲になると予想されます。LEOであれば、比較的高いスループットと低いレイテンシを実現できるからです。このことは、ほぼ無改造のUEから多数のUL、DL、サイドリンク同時接続をサポートするネットワークにとって利点となる反面、LEOはより多くの衛星が必要となり、その平均寿命も短くなる可能性があります。

3GPP以外取り組み

新たな非地上系セルラーネットワーク用の衛星インフラストラクチャについては、それを導入するための基準が未だ明確ではありませんが、これまでに大型のフェーズドアレイアンテナを衛星本体に取り付けることが数多く試みられています。このインフラストラクチャを利用するネットワークは数百ものエレメントを擁して、何百平方フィートにも広がるため、その開発と保守、デプロイは難しい課題です。

このようにアンテナアレイが大きな理由は、市販/無改造のUEを使用する必要があるためです。現世代のUEのアンテナはNTN通信用に最適化されていませんが、企業には広く普及している市販のUEを使用する強力なビジネスケースがあります。既存の市販/無改造UEを利用することで、普及と導入の負担が大幅に軽減されるからです。

図4: 大型フェーズドアレイアンテナによって、NTNと市販/無改造UEとの接続が可能になる (ただし、スケールすることはない)

このタイプのアンテナコンポーネントは市販/無改造のUEを使用するため、NTNのエコシステムを劇的に変化させる可能性があります。ただし、課題もあります。

テスト対象コンポーネントの数が多くなると、エンジニアは各コンポーネントで一連のテストを繰り返す必要があるため、テストケースの数もさらに増加します。これらの衛星には非常に多くのアンテナ素子が組み込まれており、それぞれが独自のテストケースを備えているため、自動化、データ解析、効率的なテスト開発は、費用対効果が高く、オンタイムで洞察力のある製品開発にとってさらに重要になります。

テスト要件とテストケース数の増加は、市場投入までの時間とテストの総コストに影響を与える可能性があり、テストケースの増加とそれに伴うテスト時間は、生産されるすべてのユニットで増大します。これまでは、これはさほど問題になりませんでしたが、現在では製造される衛星がずっと多くなり、以前の民間/政府SATCOMアプリケーションと比べると、新しいNTNユースケースにとって市場投入までの時間が市場シェアとユーザベースの拡大における重要な鍵を握るようになっています。

大規模なアンテナアレイとNTNシステム/コンポーネントをまとめてテストすることは複雑な作業であり、テスト組織の要求を満たすには、ハードウェアとソフトウェアを上手に組み合わせて利用するしかありません。

トレンド:地上ネットワーク地上ネットワーク統合する

NTNにおける最近の開発の多くは、既存の地上系ネットワークやインフラストラクチャとあまり関係のない形で進展しています。一方で、携帯電話事業各社とパートナーシップを結ぶ新進NTNプロバイダの数が増えてきて、両者がサービスの提供で合流するという傾向が強まっています。こうした連携によって世界中どこからでも緊急対応メッセージングを提供したり (AppleとGlobalstar)、市販/無改造の携帯電話に対して音声/データサービスを提供したりする (AST Space Mobile、SpaceX/T-Mobile、Lynk) という事例があります。

3GPPによって標準化された世界の到来はもうすぐです。その目標は、すべての必要なプロセスの発展を促進してオープンでアクセス可能なネットワークを形成し、今日地上系セルラーネットワークが運用されている状況と同じ状態にすることです。

NTN機能技術課題

NTNでは、地上系ネットワークにはない技術的課題が浮き彫りになっています。NTNの長距離、高ノイズ、過渡通信の性質は、安定した信頼性の高い通信を確保するために、特定の技術的要素に特に注意を払う必要があることを意味します。これらの課題を解決することは、地上系セルラーネットワークと統合された、真にユビキタスで地球規模の接続を実現し、導入するために不可欠です。

ドップラーシフト

地球の表面に静止しているUEと通信する際の衛星の相対速度の大きな変化は、NTN通信でドップラーシフトを考慮する必要があることを意味します。衛星の速度は30,000 kphを超えることがあり、それによって送出信号の周波数が大幅に変化します。この変化が顕著になるのは、衛星が近付いてきて遠ざかる場合、つまりドップラー効果が正から負に変わるときです。

さらに、この高速性によってアンテナビームが速く移動するため、アンテナが担当する地表の対象地点の位置とビームフットプリントが絶え間なく変化します。

衛星が地球を周回する際の相対速度と仰角の変化

図5: 衛星が地球を周回する際の相対速度と仰角の変化

UEと安定した通信を保つには、相対速度と地表のビームフットプリントを把握する可動ビームが必要です。衛星はこれらの変数を考慮しつつ、次に控える衛星に接続を引き継ぐ必要があります。さもないと、UEを見失ってしまいます。ドップラーシフトを補正するために、デバイスも衛星も互いの位置と速度を認識し、周波数を調節する必要があります。

絶え間なく変化するビーム対象範囲とドップラー効果

図6: 絶え間なく変化するビーム対象範囲とドップラー効果

レイテンシ (往復遅延)

低レイテンシは、現代の高速セルラーネットワークの柱となるものです。顧客は、高密度の都市環境におけるセルラーネットワークが、ビデオ通話、ストリーミング、ゲーム、XRなどの高スループット、低レイテンシのユースケースをサポートすることを期待しています。

図7: 異なる軌道距離 (ソース:5G Americas)

地上系ネットワークでは通常、UEから地上局までの距離が非常に短いため、低遅延がインフラストラクチャの最適化、二重化技術、高機能UEにおいて当然のこととされます。しかし、NTNでは超長距離であるため、往復の送信信号の伝播時間は地上波ネットワークのようなマイクロ秒単位ではなく、LEOでは数十ミリ秒、GEOでは数百ミリ秒になります。1秒の数十分の1や数百分の1といっても、往復時間としては地上系の1,000~10,000倍の長さです。その違いは、多数の同時UE接続およびバックホールリンクに影響を与えるだけでなく、ユーザはビデオまたは音声リンクでその違いに気づきます。

図8: NTNでの往復伝送時間は、地上系ネットワークより4桁から5桁大きい

レイテンシの高さが、5Gネットワークでは一般的になっているテクノロジの一部に対して制約となります。つまり、地上系セルラーネットワークとは異なり、NTNの場合、こうした制限や制約の中で運用しなければなりません。たとえば、NTNではFDDに限定されます。長い伝送時間のためにTDDは実行不可能だからです。この制限により、ネットワークがネットワーク要求の変化に対応する柔軟性が制限され、DLおよびULトラフィックの優先順位付けおよび対処方法が制限される可能性があります。この制限を克服することは不可能ではありませんが、この他にもNTNには、対処しなければならないことがあります。

雨、雲、シンチレーションによる減衰

UEから衛星へとRF波形が辿るパスは、距離や方向だけでなく、天候や時刻によっても一様でなくなります。こうしてUEまたは衛星に届く前に多くのノイズに遭遇し、信号の劣化が進みます。ノイズを克服して信号整合性の損失を防ぐ簡単な方法は、低次の変調方式を用いて不確実性を許容し、信頼性の高い接続を維持することです。低次の変調方式にはこのような利点がある一方で、どの時点においてもネットワークのスループットは制限されます。

パス損失

ここまでの説明で、NTNにおいて軌道距離とそれに関連付けられる地表との相対速度によって生じる、多くの固有の技術的課題を取り上げてきました。NTNを導入する上でもう1つの課題は、衛星からUEまでの圧倒的に長い接続距離に伴う多大なパス損失です。LEOの軌道距離は最低でも300 kmあり、それだけで接続距離が地上系ネットワークのそれより数倍の長さになります。300 kmの場合、自由空間パス損失 (FSPL) は1 kmの場合より約50 dB高くなります。これに加えて問題となるのが、衛星/UE間接続のFSPLは50 dBが理想とされることです。この理想的な接続は、ビーム角度またはビーム内のUEの位置を考慮します。これら2つが要因となってさらに信号受信電力の劣化につながることがあります。

距離に応じたFSPL

図9: 距離に応じたFSPL

この問題を解決するには、より高い送信出力電力および/またはより高いTXやRXアンテナゲインが必要です。コスト、設計上の影響、すでに市場にあるUEの数量を考慮すると、UEがこれよりも大きなアンテナを使用することは実行不可能になる可能性があり、既存のUEアンテナはそのフォームファクタと設計のために性能が低下する傾向があります。さらに、製造メーカーはコストと短いバッテリ寿命により、一般的にはバッテリ駆動のハンドヘルドUEの消費電力を増やすことはできず、約23 dBmを超える送信電力は不可能です。UE製造各社に設計を変更する気がないか、変更することが不可能である、または既存のUEを使い続けることがその方針であるのならば、他に残されたソリューションとして、衛星にもっと大きなフェーズドアレイアンテナを取り付けてゲインを増大させるか、または地上局コンポーネント側で送信電力を大きくすることです。あるいは、これら2つの方法を取り入れることも考えられます。地上局側の送信電力を大きくすることはコストの増大を招くほか、そこに技術的・法令的な課題が出てくるため、送信コンポーネントの設計と検証を検討する必要があります。

高出力とパス損失の克服の必要性は、NTNの開発における大きなハードルです。ただし、製品のパフォーマンスを向上させるテストツールやソリューションを使用することで、ある程度は解決できます。

NTN向けNIソリューション

PXI VST

PXIベクトル信号トランシーバ (VST) は、RF/ベースバンドベクトル信号アナライザと発生器に、ユーザがプログラム可能なFPGAおよび高速シリアルおよびパラレルデジタルインタフェースを組み合わせたものです。PXI VSTは、NTNテストに最適です。送信および受信機能を備えたPXI VSTは、ULとDLの両方をテストできるだけでなく、特定のDUTに刺激信号を提供することもできます。これらの機能をベースバンドからミリ波までの周波数帯域および優れたRF性能と組み合わせることで、NTNデバイスおよびインフラストラクチャの設計、検証、製造に必要なすべてのツールを使用できます。

最新のPXI VSTであるPXIe-5842は、2 GHzの即時帯域幅と最大26.5 GHzの周波数帯域を提供します。これは、提案されている3GPPおよび3GPP以外のNTNチャンネルのほとんどをカバーするのに十分です。これらの周波数仕様と優れたRF性能により、PXIe-5842はNTNの3GPP規格が開発を続ける中で、現在および将来のNTNテスト要件に対応できます。

図10: PXIe-5842およびRFmxソフトウェアによって、ベースバンドからミリ波までの信号生成解析が可能になる

PXIベクトル信号トランシーバに関する詳細情報

RFmx

RFmxは、互いに連携してNIのRF計測器を最適化する複数のソフトウェアアプリケーションをセットとしてまとめた製品で、汎用、セルラー、接続性、および航空宇宙/防衛分野の各テストアプリケーションで利用されます。RFmxでは、インタラクティブなソフトウェアフロントパネルで測定とデバッグをすばやく簡単に実行することができます。また、RFmx Waveform Creatorによってロックされていない開いた波形を作成および再生できるほか、パフォーマンスが最適化されたAPIで自動テストを高速化することもできます。RFmxには汎用の復調ツールが用意されており、カスタムタイプの変調をテストすることもできます。RFmx製品には、3GPP Rel-17のNTNの現在のLTEおよび5G NRバージョンをサポートするオプションが含まれています。RFmxのLTEは拡張されて、eMTC (Enhanced Machine Type Communication) およびNB-IoT (Narrow-Band IoT) のNTN向けユースケースをサポートしています。 

RFmx NB-IoT/eMTCは、NB-IoTおよびeMTCセルラー信号の生成および解析用にNI RF計測器の機能を拡張します。このソフトウェアを使用すると、エラーベクトル振幅 (EVM)、隣接チャンネル漏洩電力比 (ACLR)、スペクトル放射マスク (SEM) をはじめとする標準規格準拠の物理層測定によって、LTE Cat-NB1/NB2およびLTE Cat-M1/M2の各アップリンク信号を解析できます。 

RFmxの詳細を確認するか、NIに問い合わせて詳しい情報を入手し、関連する最新のアプリケーションノートを参照してください。

図11: InstrumentStudio™ソフトウェアのRFmxインタラクティブソフトフロントパネル

USRPハードウェア

NIのUSRP (Universal Software Radio Peripheral) ソフトウェア無線デバイスは、高度なワイヤレスアプリケーションを迅速にプロトタイピングおよび実装できるRFトランシーバです。SDRはワイヤレス通信に使用されるほか、シギントシステムのデプロイに使用されます。また、複数チャンネルテストベッドの基本的な構成要素にもなります。小さなフォームファクタで高チャンネル密度のデバイスですから、大規模NTN用テストベッドのフェーズドアレイやビームステアリングなどの無線プロトタイピングアプリケーションの作成に最適です。

Ettus USRP X440

図12: Ettus USRP X440

NI USRPデバイスの詳細

衛星リンクエミュレータ (SLE)

将来の衛星通信システムの開発を担当するエンジニアは、システムの動作を評価および予測するために、打上げ前に現実世界のシナリオをシミュレート、構築、評価する必要があります。さまざまなチャンネルエミュレータ設定を確認する際に、問題が発生することがよくあります。確実で一貫性のある結果を得るには、モデルベースのシミュレーションとHIL (Hardware-in-the-Loop) テストを組み合わせることが効率的であることが実証されています。

衛星リンクエミュレーションブロック図

図13: 衛星リンクエミュレーションブロック図

衛星リンクエミュレーションの実行とテストの詳細

NTNしたNIプラットフォームテスト手法

NTNテストですぐに利用できるツールは数多くありますが、要件とテスト方法は、市場のニーズや技術要件の変化に応じて進化し続けます。NIの特定アプリケーション向けソフトウェアと汎用性の高いハードウェアは、要件の変化に適応できる新しいテストシステムを拡張および作成するための基礎となります。

まとめ

NTNは広範なトピックから構成されるため、各トピックとそのテスト要件を完全に理解するには、このホワイトペーパーで概説できる範囲を超えた内容が必要です。どのようにしてNIが、NTNのテストでお客様をお手伝いすることができるか、その詳細について技術担当者にお問い合わせください

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1 出典: Futuretimeline.net

2 出典:Boston Consulting Group