商用宇宙ビジネス市場投入まで期間短縮

概要

市場投入までのスケジュールが短く、予算も厳しいため、宇宙プログラムごとに安価なテストシステムを購入または構築したいという要望が高まっています。適切な解決策は、複数のタスクをコスト効率よく実装する能力に投資することです。そのためには、再構成可能性が鍵となります。次の2つのテストシステム戦略を併用することで、再構成可能性を実現できます。それらは、(1) 信号を個別に扱い、各信号を完全に独立して実装できるようにする信号ベースのエンジニアリング、および (2) まとめてテストされた標準の商用オフザシェルフ (COTS) コンポーネントを採用したモジュール式ハードウェアです。 

 

モジュール式テストシステムは、最新の小型衛星打ち上げ機に関する短いスケジュールと厳しい予算に対して、より効率的に対応することができます。アジャイル開発プロセスとともにテストされたCOTSコンポーネントを使用することで、変化する要件、さまざまなライフサイクルフェーズ、完全に新しいプログラムに適応する柔軟なシステムを実現できます。 

 

航空宇宙の未来は、現状維持では築くことはできません。新しいビジネス領域で成功するには、新しいアジャイル開発戦略を補完するテストアプローチの適応が必要となります。

 

内容

はじめに

最近、商用宇宙ビジネスは変革を遂げつつあります。以前は単体の大型衛星が業界の主流でしたが、小型衛星のコンスタレーションにシフトしています。こうしたコンステレーションを動作可能な状態で維持するには、より短い時間で開発できる低コストな衛星が多数必要になります。また、打ち上げ機についても、打ち上げの頻度を高めてコストを抑えることが求められ、同様の制約が課せられています。

市場投入までの時間はこれまで以上に重要になっていますが、既存のプロセスは、現代社会で求められる迅速性や適応性を考慮して設計されていません。

順を追った意思決定を基本とする従来のウォーターフォール型のプロセスで、タイムラインの短縮を押し通そうとすると、プログラムの予算が超過するか、打ち上げ日が遅れるか、どちらかの結果しか生みません。どちらの結果も望ましいことではありません。また、どの参入企業も宇宙市場で長続きすることができず、成功を収めることができないという問題が発生します。

この問題に対処するには、個々のプログラムを修正するのではなく、考え方を根本的に変える必要があります。そのためには、意思決定の方法や宇宙製品の開発方法の変更が必要になります。業が盤石な既知の要件に頼らず、プログラムに関して最もリスクの高い意思決定を下すことができれば、技術的な不確実性の高い状況であってもプログラムを進めることができます。同様のプロセスは、こうした打ち上げ機や衛星などの宇宙製品について、これまで以上に複雑なシステムをテストする際にも適用することができます。 

このような変化は、今日、現実のものとなっています。信号ベースのエンジニアリングによって開発された、柔軟で再構成可能なテストシステムの使用を戦略として採用する企業は、テスト時間を短縮することができます。その結果、プログラムがより複雑なものになっても、市場投入までの期間が短くなり、競争力を高めることができます。 

このホワイトペーパーでは、テスト業界のリーダーであるTech180社が行った、小型衛星や打ち上げ機のプログラムに関する現在の課題の調査と、再構成可能性、アジャイルプロセス、および信号ベースのエンジニアリングを対象としたソリューションの検証について紹介します。 

 

図1:小型衛星のエレクトロニクス/制御システムについて機能テストおよびHIL (Hardware-In-the-Loop) テストを行うための代表的なシステム

衛星テスト課題

​衛星についてはさまざまな変更がありますが、いくつかの点は同じままです。衛星は、これまでと同様にペイロードをサポートするコンポーネント (ソーラーパネル、燃料、通信デバイス、スラスタ) で構成されています。また、衛星、特に小型衛星間のI/Oは、各プログラムでほぼ同じです。 

図2:代表的な人工衛星

ただし、現在の衛星の生産にかかる想定期間、および衛星の開発 (およびテスト) に利用できる予算は変わってきています。フラット型衛星のラボを構築する場合、開発に何年も費やし、検証テストにさらに何年も費やす1回限りの製品を作成するわけではありません。大きな衛星コンスタレーションを構成できるよう、何十機も同じものを生産できる衛星を開発することになります。また、テストの目的を検証に限定するのではなく、製造テストも考慮する必要があります。

代表人工衛星コンポーネントI/O

  • ソーラーパネル
  • バッテリ
  • コマンドおよびデータ処理システム
  • 電力システム
  • 推進装置
  • 高度制御システム
  • 誘導システム、制御システム、ナビゲーションシステム
  • LVDS
  • RS422

​テストシステムが一体型の場合に製品要件の変更が認められないと、ウォーターフォール型のプロセスと遅延が発生します。衛星および打ち上げ機のどちらのプログラムも、アジャイルプロセス (設計、失敗、繰り返し) に移行しています。アジャイルプロセスがないテストシステム計画を使用している企業は、すでに遅れをとっています。 

現代の宇宙市場では、設計から構築、検証テストに至るまで、製造に関するすべての段階でアジャイルプロセスに移行することが不可欠です。

「商用航空宇宙ビジネスは、旧来の方法では運営できません。新しい宇宙市場では、レイテンシが長すぎる状況です。」  
―Greg Sussman、ビジネス開発マネージャ、Tech180

打ち上げテスト課題

​「スケジュール、重量、コストから2つを選べ」という時代は終わりました。 現代では、これら3つすべてを目標とする必要があります。つまり、予算内で市場投入までの期間を短縮するには、すべて設計を簡素化することにかかっているのです。

衛星と同様に、打ち上げ機のプログラムにも、これまでと同様なコンポーネントが組み込まれています。I/Oは各プログラムでまったく同じというわけではありませんが、使用できるオプションには限りがあります。各プログラムでは相当数のI/Oが同一になっており、一般的な信号タイプの標準化を可能にするには十分です。これは、テストカバレッジを加速し、市場投入までの期間を短縮するための重要なステップです。

図3:プログラム選択のための三角形   

 

 

   

                                                                                                                               図4:代表的な打ち上げ機のコンポーネント    

 

代表打ち上げI/O

  • ソレノイド負荷
  • Ethernet
  • LVDT
  • サーボモータ
  • 入力電流 (4~20 mA)
  • アナログI/O
  • ディスクリートI/O
  • CANバス
  • 熱電対

打ち上げ機の場合、打ち上げまでの期間を短縮して市場シェアを獲得することが重要です。スケジュールを先送りすると、競争の激しい市場においては、他の企業が食い込む隙を与えることになる可能性があります。

スケジュールを管理し、設計を簡素化して、いち早く市場に投入しましょう。 

「スケジュールは極めて重要です。あなたが打ち上げを行わなければ、他の企業が打ち上げを行ってしまいます。」  
―Chris Bakker、CEO、Tech 180

市場投入まで期間短縮する

​商用宇宙ビジネスの業界で市場投入までの期間を短縮する鍵は、設計スペースの縮小にあります。信号ベースのエンジニアリングによって可能になった標準化とモジュール化は、市場投入までの期間を短縮する再構成可能なシステムへの道を開くものです。以下のセクションでは、市場投入までの期間を短縮する戦略のそれぞれが、効率を最大に高めるために他の戦略にどのように依存しているかを調べます。 

構成可能性 

再構成可能なテストシステムは、市場投入までの期間を短縮する戦略の中核です。従来、要件が変化した場合は、テスト環境でのアジャイルな意思決定に関して問題が発生していました。テストシステムの設計後に要件が変更されると、遅延や再作業が発生し、スケジュールが先送りされます。再構成が可能であれば、要件の変化に応じてテストシステムを簡単に変更でき、この問題を解決できます。これを実現するには、標準化されたコンポーネントと信号ベースのエンジニアリング方法論を利用するモジュール式システム設計を使います。これについては後で説明します。

堅牢なテスト戦略のもう一つの重要な要素は、従来よりも大規模な製造に対応した再構成可能性です。ライフサイクルテストの異なるフェーズでも再利用できるテストシステムには、従来の単一ライフサイクルフェーズテストシステムでは得ることができないメリットがあります。これまで、企業では開発する衛星の量が少ない場合には製造戦略は必要ありませんでしたが、現在ではその量が数百に及ぶため、製造戦略に対する必要性が非常に高まっています。 

再利用可能なテストシステムを使用することで、検証テストから製造テストへ、最小限の時間と労力で柔軟に移行することができます。ライフサイクルフェーズを再構成できることだけがメリットではありません。再構成を利用することで、テストシステム自体を次のプログラムに使用することも可能になります。

標準コンポーネント使用したモジュールシステム設計

前述のとおり、再構成可能性は、標準の商用オフザシェルフコンポーネントを使用したモジュール式システム設計の戦略の影響を受けます。こうしたコンポーネントは、互換性に関するテストをまとめて受けています。

再構成可能なテストシステムを構築する場合、重要な要素となるのは、商用オフザシェルフコンポーネントを標準化することです。 

NIのPXIおよびSLSC (Switch Load and Signal Conditioning) プラットフォームに用意されている一連のCOTSコンポーネントをシステムに組み込むことで、柔軟性に優れた最新のテスト戦略で必要となる再構成可能性を確保することができます。Tech180社では、これらのプラットフォームをシステムのベースとして使用し、互換性に関するテストをすべてまとめて受けた一連のCOTSコンポーネントからテストシステムを作成できるようにしています。

図5:NI PXIおよびSLSCのシャーシ

信号ベースエンジニアリング役割

信号ベースのエンジニアリングは、より高速で高度なモジュール式テストシステムの手法を実現する際に最も重要な要素となります。信号ベースのエンジニアリングを利用すると、個々の信号に関する設計をまったく別々に行うことができるため、ある信号と別の信号の実装を独立して行うことが可能になります。モジュール式ハードウェアと信号ベースのエンジニアリングを併せて活用することで、テストシステムの設計を順を追って行う必要がなくなります。代わりに、要件の変更に応じて、システムの各部分を個別に設計、構築、検証することができます。変更が生じた場合、システムの他の部分に影響を与えることなく、システムの一部を再構成して調整することができます。

コストタイムライン

再構成可能なテストシステムにかかるコストと時間は、テストする必要がある信号の複雑さと量によって異なりますが、Tech180社のような企業は約12週間でシステムを提供できます。ライフサイクルの各フェーズや各プログラムでの再利用を目的とした再構成可能なフルターンキーシステムは、約40万米ドルで利用できます。こうしたシステムは柔軟性に優れており、変化する要件を取り込むことができると同時に、スケジュールされたテスト日までに準備を整えることもできます。Tech180社では、基本的なプラットフォーム構成からフルターンキーシステムに至るまでのテストソリューションを提供し、お客様のスケジュールと予算を維持します。 

Tech180について

Tech180社は、航空宇宙産業に再構成可能なテストシステムを提供している企業です。これらのテストシステムを利用することで、複雑さによる負担を軽減することができ、テスト装置だけを重視するのではなく、未来に向けたイノベーションにも注力することが可能になります。モジュール式テストシステムによって、製品要件をテストシステムの仕様に反映させるのに必要な時間と労力が削減され、高品質のシステムを早期に利用することができるようになります。高度な航空機、宇宙船、またはまだ想像もされていない乗り物など、現在構築している製品だけでなく、将来開発する製品のテストも可能になります。