世界の公共インフラの安全性、保全性、居住性の確保は、構造テスト/構造健全性監視 (SHM) アプリケーションにかかっています。一般に、構造テストの期間は短く、こうしたテストは研究環境内で実施されるため、何らかの刺激信号が必要になります。これに対して、構造健全性監視とは、現場に設置された構造物を実際の動作条件下で継続的に監視することをいいます。このページでは主にSHMについて重点的に紹介しますが、これらの2つのアプリケーション分野には共通する7つの原理やテクノロジがあり、このページで説明する概念は構造テストにも該当するものです。
構造健全性監視とは、さまざまな物理的センシング/計測テクニックと連続的なリモート処理機能を組み合わせて、リアルタイムデータをキャプチャし、履歴データとして記録して、継続的に解析を行うことをいいます。監視する構造物の規模が大きく複雑なため、構造ヘルスモニタリングを行うには、センシングテクニックやマルチシステム同期、構造力学、データの管理/解析など、さまざまな分野に精通していることが求められます。このページでは、構造テスト/構造健全性監視で使用する4つの主要なテクノロジ、およびNIがそれらをソリューションにどのように導入したかについて説明します。
センサテクノロジは、構造のテストや監視に関する研究と技術的進歩において、最も注目される分野の1つです。SHMシステムにはさまざまなセンサが組み込まれており、センサテクノロジのオプションは拡大を続けています。今日のほとんどのSHMシステムでは、歪みゲージ、振動または加速度センサ、変位センサなどのセンサを使用して、構造物の応力や動きを追跡します。また、一般に環境監視や気象観測用のセンサなども搭載されています。多くの新しいセンサテクノロジでは、アコースティックエミッションなどの非破壊テスト (NDT) 方式を利用して、構造物内の欠陥を直接検出します。光ファイバーテクノロジをベースにしたセンサも、技術の進化に伴い広く採用されるようになってきています。構造技術者の中には、交通の様子を撮影したビデオ画像を構造監視システムに取り入れることが有効であると考えている人もいます。
SHMシステムがこれらの計測タイプやセンサテクノロジのいくつかに対応することができれば、構造技術者にとって有益です。また、システムがモジュール式であることも重要です。これは、要件の増加に合わせ、計測機能を追加してシステムを拡張できるためです。さらに、システムの拡張性が高いほど、研究室でソリューションを設計し、短期的なポータブル計測に使用して、最終的に現場にデプロイすることが容易になります。
図1. 構造監視に採用されるセンサテクノロジ
NIデータ収集プラットフォームは、優れた計測品質のほかにも、さまざまなセンサや信号に対応する広範な計測機能を備えています。計測機能を加えたり、取り除いたりすることができれば、特に将来ニーズの変更が必要になったときに大きなメリットとなります。すべてのプラットフォームはNI LabVIEWを使用してプログラミングされるため、ソフトウェアを研究室から現場へと拡張することができます。
構造の監視とテストで最もよく行われる計測は、歪みと振動です。通常、歪み計測はフル/ハーフ/クォータブリッジ構成に配置された抵抗箔歪みゲージを使用して行われます。電荷アンプ内蔵の圧電型加速度計は、一般にIEPE加速度計と呼ばれ、通常、動的な振動収集に使用されます。サーボ加速度計 (力平衡加速度計) は、多くの場合、地震波記録アプリケーションで使用されます。構造監視システムに通常組み込まれているその他のセンサには、変位/傾き/亀裂センサ用の線形電圧差動変圧器 (LVDT) やストリング式ポテンショメータ、温度計測用の熱電対や測温抵抗体 (RTD)、湿度/風速/風向きを計測するための環境センサなどがあります。
最高品質の計測を実現するためには、センサ計測に必要な数種類の信号調節と、A/D変換器 (ADC) などの計測器に使用される数種類のアナログコンポーネントについて検討する必要があります。
図2. センサ計測での信号調節
ADCはアナログ信号を取り込み、2進数に変換します。したがって、ADCからの2進数は、特定の電圧レベルを表わしています。ADCは、アナログ信号の実際の電圧レベルを超えない範囲で、可能な限り最高のレベルを返します。分解能とは、信号を表すためにADCで使用できるバイナリレベルの数のことです。分解能に基づいて使用可能なバイナリレベル数を特定するには、2Resolutionで計算します。したがって、分解能が高ければ高いほど、より多くのレベルで信号を表すことができます。図3は、12、16、24ビットの各ADCによる信号のデジタル表現を示しています。24ビット技術が利用できるようになった現在は、静的アプリケーションでも動的アプリケーションでも極めて精度の高い計測が行えます。
図3. 16ビット分解能と24ビット分解能
NI Cシリーズの小型計測モジュールやI/Oモジュールでは、接続、信号調節、A/D変換を組み合わせて、構造センサーに直接接続します。こうした機能は、NI CompactDAQ、CompactRIO、Wi-Fiデータ収集 (DAQ)、USBなど、いくつか計測プラットフォームで使用できます。Cシリーズモジュールは動的計測の要件に対応しており、高確度で低ノイズの24ビットA/Dテクノロジを使用して、各入力チャンネルにつき最大50 kS/秒で歪みや加速度の収集を行うことができます。これらのモジュールは、歪みと振動の他にも、変位センサ、熱電対、RTDなど、構造物のテストと監視に必要なほぼすべてのセンサで使用することができます。CシリーズI/Oモジュールの全製品リストについては、「Cシリーズモジュール互換性チャート」を参照してください。
図4. 構造物の監視センサやテストセンサに直接接続できるCシリーズモジュール
構造物の性能データをリアルタイムで継続的に監視することは、橋梁、建築物、スタジアムなどの大型構造物を長期的に保守する場合の重要な手法として注目されています。こうした手法を利用する場合、離れたところにある無人の場所で確実に動作し、計測性能や汎用性を犠牲にすることなく、信頼性の高い正確なセンサデータを提供する堅牢なインテリジェントデータ収集システムが必要です。
NI CompactRIOは、高い性能と信頼性が求められるアプリケーション用に開発された、高度な組込データ収集/制御システムです。オープンな組込アーキテクチャを採用した小型で堅牢かつ柔軟性の高いシステムを使用すれば、要件の厳しい構造監視アプリケーションに適した信頼性の高いシステムを簡単に実装しデプロイすることができます。LabVIEWで動作するCompactRIOは、さまざまなCシリーズセンサ通信機能を統合することができます。
図5. CompactRIOシステムを使用すると、構造物を長期間監視する場合に適した堅牢な組込データ収集/制御ソリューションを構築できます。
長期連続監視アプリケーションには、スタンドアロンで長期間確実に稼働するシステムを導入する必要があります。そのためには、センサデータを収集し、そのデータをローカルで記録して、定期的にホストシステムに送信できるリアルタイム組込システムが必要です。スタンドアロンで無人稼働できるシステムを採用することで、ネットワークの中断やPCのシステム障害から重要なセンサデータを保護することができます。CompactRIOには、信頼性が高くスタンドアロンでの稼働が可能な組込リアルタイムプロセッサが搭載されています。またローカルデータストレージ用に、内蔵の不揮発性フラッシュストレージ (最大2 GB)、取り外し可能なSDメモリカード (NI 9802 Cシリーズモジュール経由)、USBフラッシュドライブなどの複数のオプションがあります。LabVIEWグラフィカルプログラミングツールを使用してプログラミングされているため、CompactRIOシステムを簡単にカスタマイズして、SHMアプリケーションで必要となる特定のデータ収集やインラインデータ解析/処理、データ保存、通信を行うことができます。
橋梁などの監視対象となる構造物は、通常、通信やネットワークなどのインフラを備えていないため、監視システムにはリモート通信機能が必要となります。リモート通信方式として最も一般的なものに、Wi-Fi (ホストPCが近くにある場合) とセルラーデータ (CDMA、GSM/GPRS、EDGEなど) があります。その他のオプションとしては、専用の長距離無線や衛星通信などもあります。CompactRIOを使用すると、各種通信プロトコルや通信機能が利用できるため、他社製の通信デバイスやモデムとの統合が簡素化されます。CompactRIOでは、プログラム通信用にTCP/IP、UDP、Modbus/TCP、シリアルなどのプロトコルのライブラリを搭載しています。また、HTTPおよびFTP用サーバも内蔵されていますので、Webブラウザやインターネットへのアクセスも簡単です。
構造物の健全性を監視するには、大量のセンサを広範囲に設置する必要があります。ネットワーク接続された複数のデータ収集デバイスを、それぞれセンサのクラスタに接続した分散計測システムでは、センサの接続に必要なケーブルの量が劇的に減るため、設置が大幅に簡素化されます。ただし、ほとんどの健全性監視システムではシステム全体にわたる信頼性の高い時間基準が必要であるため、分散システムには、構造物全体を通してセンサ計測を正確かつ確実に時間同期できる機能が求められます。ほとんどの通信ネットワークにはそのような同期機能はありませんが、より高度なシステムでは、GPSや確定性に優れた新しいネットワークテクノロジを使用してシステム全体の同期を行うことができます。たとえばCompactRIOでは、GPS受信機を使用して橋梁やスタジアムなどの大型構造物全体にわたり計測を同期することができます。
ソフトウェアは、SHMシステムの重要なコンポーネントです。構造物のポータブルテストを実施する場合でも、長期監視システムをデプロイする場合でも、インラインやオフラインでのデータ解析、操作性、データの後処理と管理など、ソフトウェアアプリケーションのニーズについて検討する必要があります。
アプリケーション開発の最新方式であるグラフィカルプログラミングは、テキストベースコードに比べ直感的なグラフィカル表現で設計を行うため、使い方の習得が非常に簡単です。対話式のパレット、ダイアログ、メニュー、またはVI (仮想計測器) と呼ばれる多数の関数ブロックを使用して、LabVIEWの各種ツールや関数を利用することができます。これらのVIをダイアグラム内にドラッグアンドドロップで配置し、アプリケーションの動作を定義します。このように、マウスで選択してクリックするタイプの設定方法によって、初期設定から最終的なソリューション開発までの期間を短縮することができます。
LabVIEWは、エンジニアや科学者がテスト、制御、計測に関する各種アプリケーションを開発できるように設計された実績のあるグラフィカルプログラミング環境です。また、マルチスレッド/並列プログラミング、対話式の実行/デバッグ、アプリケーションに特化した高度なツールが基本的にサポートされているため、LabVIEWを使用すると、SHMアプリケーションでより多くの機能を実現できます。図6は、同期された画像とともに複数の波形を収集し表示するLabVIEWアプリケーションを示しています。
図6. LabVIEWグラフィカル開発環境には、プロフェッショナルなユーザインタフェースを短時間で開発できる高機能なグラフィック/可視化ツールが用意されています。
LabVIEWグラフィカルプログラミング開発環境は、CompactRIOをはじめとする組込コントローラなど、複数のコンピュータプラットフォームと互換性があります。そのため、LabVIEWの豊富な機能を活用することで、LabVIEW Real-TimeモジュールやCompactRIOを使用した高性能なカスタムの組込監視システムを開発することができます。
また、LabVIEWはプログラミング不要なステップやウィザードとして機能するExpress VIを備えており、計測や高度な解析の実行、ディスクへのデータ保存のプロセスが簡素化されます。
SHMアプリケーションでは、3つの重要なステップがあります。まず収集したデータを後処理し、次に数値計算法や数値アルゴリズムを適用してデータ解析を行い、最後に開/閉ループシミュレーションを実行して実世界のデータに基づいてモデルの検証を行います。
LabVIEWに組み込まれている、フィルタ処理、サンプリング、窓関数用のVIを使用することで、データを簡単に処理することができます。 振動解析用のツールキットや上級信号処理用のツールキットも用意されているので、LabVIEWでは、SHMに対して最新の数値計算法や数値アルゴリズムを利用できます。
また、LabVIEWは、より多くのシミュレーションや出力専用パラメータによるオンライン推定法に対して高まっているニーズにも対応しています。疑似スタティック信号/ダイナミック信号の収集と解析を1つの統合されたステップで行う他のアプリケーション分野でも、このような傾向になっています。LabVIEWでは、閉/開ループシミュレーションおよびHIL (hardware-in-the-loop) シミュレーションをサポートしているため、共通の方法でデータの収集と解析を行うことができます。
図7. 高度な解析アルゴリズムはさまざまなNIソフトウェアパッケージで利用できます。
NIソフトウェアには数多くの信号処理および解析アルゴリズムも組み込まれているため、構造エンジニアリングのさまざまなニーズに対応できます。構造/地震監視アプリケーション用の解析アルゴリズムには、以下のようなものがあります。
また、NIソフトウェアには、高度な処理をすばやく表示し解析できるレベルの高い可視化技術が採用されています。
技術者や科学者は、30年以上前からNIのハードウェアとソフトウェアを使用して技術データを生成していますが、データのその後にはあまり注意を払ってきませんでした。収集したデータは、とりわけ構造/地震アプリケーションでは貴重なものです。構造物や地震を監視する場合、地震現象のように記録が必要となる一時的な現象は、簡単に再現することはできません。そのためNIでは、柔軟性がある整理されたファイルストレージ、包括的な検索機能、対話式の後処理環境という3段階からなるデータ管理ソリューションを提供しています。
図8. NIテクニカルデータ管理ソリューションには、データファイル、NI DataFinder、そしてNI DIAdemが含まれています。
3つの要件を満たすため、NIテクニカルデータ管理 (TDM) ソリューションには3つのコンポーネントが含まれています。テストファイルとともに記述的な情報を保存するためのTDMデータモデル、ファイル形式に関わらずテストデータを検索/マイニングするためのNI DataFinder、そして解析とレポート作成のためのNI DIAdemソフトウェアです。
図9. DIAdemは大量のデータセットを後処理するための対話式環境で、自動レポート生成、高度解析、データ可視化などの機能を備えています。
このページでは、構造テスト/構造健全性監視で使用する4つの主要なテクノロジ (マルチモーダルセンサシステム、高精度な信号調節機能、分散型計測システム、およびソフトウェア) を紹介し、NIがそれらをソリューションにどのように導入したかについて説明しました。
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