ここでは、基本的な振動の概念、加速度計の仕組み、およびアプリケーション内でセンサの仕様の違いが加速度計の性能にどのような影響を与えるかについて説明します。センサを決定すると、マイクロホン測定の適切な調節、収集、視覚化に必要なソフトウェアとハードウェアを検討することができます。また、センサに必要な追加の信号調節を検討することもできます。
振動とは、機械や部品の均衡位置の周囲における運動、あるいは機械的な揺れのことを指します。振動には、振り子の動きなどのように周期的なものと、砂利道を走る車のタイヤの動きなどのようにランダムなものがあります。振動は、メートル法の単位 (m/s2)、または重力定数の単位「g」(1 g = 9.81 m/s2) で表すことができます。物体の振動には、自由振動と強制振動の2種類があります。
自由振動は、物体または構造物が動かされたり、衝撃を与えられたりした後、自然に揺れることができる場合に発生します。たとえば、音叉を叩くと音が鳴り、その音は最終的に止みます。多くの場合、固有振動数とは、構造物が衝撃を受けたり、動かされたりした後に揺れる必要のある周波数のことを指します。共振とは、系が特定の周波数において、他より激しく揺れる傾向を指します。物体の固有振動数、あるいはそれに近い振動数における強制振動は、構造物内のエネルギーを高めます。時間が経つにつれ、加えられる強制振動が非常に小さくても、振動がかなり大きくなることがあります。構造物の固有振動数が標準的な環境振動に一致する場合、構造物はより激しく振動し、早期に崩壊します。
強制振動は、変容を促す力が加えられたことで構造物が揺れて発生します。回転したり、往来する動きは、物体に対して、固有周波数ではない振動を強制的に発生させることができます。この動きの例が、洗濯機内に生じる不均衡です。洗濯機は洗濯槽の回転に等しい周波数で振動しています。状態監視において、振動計測は、コンプレッサ、タービン、ポンプなどの回転機械の状態を示すものとして使用されます。こうした機械にはさまざまな部品が含まれており、各部品が独自の振動パターンや特性によって機械を構成しています。時間の経過とともに変化する振動特性の傾向を把握して、機械の故障時期を予測し、適切に保守をスケジューリングすることで、安全性の向上とコストの削減を実現できます。
振動は通常、圧電型セラミックセンサや加速度計を使用して計測されます。特定の種類の圧電性結晶に圧力がかかると、電圧が生じます。これは圧電効果と呼ばれ、ほとんどの加速度計に利用されています。テスト構造物の加速度は、比例した力を圧電性結晶上に生成する加速度計内のサイズモ質量に伝達されます。結晶への外的応力によって、適用された力に比例した (つまり加速度に比例した) 高インピーダンスの電荷が発生します。
加速度計には、一般的に2つのタイプがあります。圧電 (電荷モード) 加速度計と統合電子圧電 (IEPE) 加速度計です。
加速度計は通常、回転素子ベアリング、ギアボックス、スピニングブレードなどの高周波素子に直接取り付けられる、接触トランスデューサです。これらの多用途センサは、衝撃計測 (爆発/障害テストなど) や、より低速な低周波数振動計測にも使用されます。加速度計のメリットとして、広い周波数レンジと大きなダイナミックレンジにわたる線形性があります。
電荷モードの加速度計は、生成した電荷を増幅したり、計測デバイスに対応させるために出力インピーダンスを低くしたり、外部ノイズソースおよびクロストークの影響を最低限に抑えるために、外部アンプやインラインチャージコンバータを必要とします。
IEPEの加速度計には、内蔵型の電荷感度の高いアンプが装備されています。このアンプは定電流ソースを受け入れ、圧電性結晶の電荷の変動に応じてインピーダンスを調整します。こうしたタイプの加速度計向けに作成された計測ハードウェアは、アンプ用に電流励起機能を内蔵しています。このインピーダンスの変化は、加速度計の入力全体で電圧の変化として計測されます。
振動を計測できるもう1つのセンサとして、近接プローブがあります。加速度計測から振動を判断する加速度計とは異なり、近接プローブとは、ターゲットまでの距離を計測する非接触トランスデューサです。これらのセンサは、ほぼ回転機械のみで使用され、シャフトの振動を計測します。一般的なアプリケーションの例として、ターボ機械などの機械システムを対象とした機械監視や保護計測が挙げられます。柔軟な流体膜ベアリングと重厚なハウジングにより、振動が外ケーシングに伝達しにくいため、加速度計ではなく、近接プローブを使用してシャフトの動きを直接計測します。
加速度計は多用途のため、さまざまな種類の設計、サイズ、範囲から選択できます。計測しようとする信号の特性と環境的制約を把握することで、加速度計のさまざまな電気仕様や物理仕様を見分けて、最適な加速度計を選ぶことができます。
振動振幅
計測している振動の最大振幅または範囲によって、使用できるセンサの範囲が決まります。センサの範囲外の振動を計測しようとする場合、応答が正しく伝わらなかったり、クリップされたりします。通常、感度と質量が低い高振動レベルの監視には加速度計を使用します。
感度
感度は、加速度計にとって最も重要なパラメータのひとつです。感度は、160 Hzなど、基準周波数における振動と電圧間の変換を表します。感度は、mV/gで表されます。通常の加速度計の感度が100 mV/gで、10 Gの信号を計測した場合、1000 mVまたは1 Vの出力が予測されます。正確な感度はキャリブレーションによって決まり、通常、そのセンサに同梱される校正証明書に記載されています。感度は周波数にも依存します。感度が周波数によってどのように変化するのかを特定するには、有効な周波数レンジ全体に対して完全なキャリブレーションを実行する必要があります。図4は、加速度計の通常の周波数応答の特性を表しています。一般的には、高振幅信号の計測には感度の低い加速度計を使用し、低振幅信号の計測には、感度の高い加速度計を使用します。
軸数
加速度計の軸は2種類から選ぶことができます。最も一般的な加速度計は、単一の軸にのみ沿って加速度を計測します。このタイプは、機械的な振動レベルの計測で使用される場合があります。2つ目のタイプは、3軸加速度計です。この加速度計は、加速度の3Dベクトルを直交成分の形式で作成することが可能です。このタイプの加速度計は、平振動、横振動、回転振動といった振動のタイプを特定する必要がある場合に使用します。
重量
加速度計は、監視対象の構造物より大幅に軽量である必要があります。構造物に質量が加わると、構造物の振動特性が変わる場合があり、不正確なデータや解析につながる可能性があります。加速度計の重量は、一般的に、テスト構造物の重量の10パーセントより大きくなってはいけません。
取り付けオプション
振動計測システムについては、加速度計をターゲットの表面にどのように取り付けるかということも考慮する必要があります。4種類の標準的な取り付け方法から選択できます。
スタッドマウントは最も優れた取り付け技術ですが、ターゲット素材に穴を開ける必要があり、一般的にはセンサを常設する場合に適しています。その他の方法は、一時的な取り付けに向いています。さまざまな取り付け方法がありますが、これらはすべて、加速度計の計測可能な周波数に影響します。一般的に言えば、取り付け方が緩いほど、計測可能な周波数限界が低くなります。接着剤や磁石の取り付けベースなど、質量を加速度計に追加した場合、共振周波数が低くなり、加速度計の有効な周波数レンジの確度および限界に影響する可能性があります。加速度計の仕様を参考にして、各取り付け方法がどのように周波数計測の限界値に影響するのかを確認してください。表1は、100 mV/g加速度計の一般的な周波数限界を表しています。
表1. 100 mV/g加速度計の取り付け方法による周波数限界。
図5は、スタッドマウント、接着マウント、磁石マウント、および三軸ブロックマウントの各取り付け方法におけるおおよその周波数レンジを示しています。
環境的制約
加速度計を選択するとき、最大動作温度、有害な化学物質への暴露、湿度といった重要な環境パラメータに注意を払う必要があります。ほとんどの加速度計が危険な環境で使用できるのは、その構造の堅牢性と信頼性が優れているためです。さらに保護性を高める場合、ステンレス製の工業用加速度計であれば、腐食や化学物質からセンサを保護することができます。
システムが極端な温度環境で動作する必要がある場合は、電荷モード加速度計を使用します。このような加速度計は、電子機器を内蔵していないため、動作温度は、構造物に使用されている検出要素と素材によってのみ制限されます。ただし、電荷モード加速度計は、調節機能および電荷増幅機能を搭載していないため、環境的干渉に影響されやすく、低ノイズケーブルを使用する必要があります。環境にノイズが多い場合、インラインチャージコンバータ、または内蔵電荷アンプを備えたIEPEセンサを使用します。
湿度仕様は、加速度計のシール剤のタイプによって決まります。一般的には、気密シール剤、エポキシ樹脂系シール剤、環境保護シール剤などがあります。これらのシール剤の大部分には、高レベルの湿度に対する耐性が備わっていますが、浸水や、長時間にわたる過剰な湿度への露出に対して、NIは気密シールの使用を推奨します。
コスト
電荷モード加速度計とIEPE加速度計のコストはあまり変わりません。ただし、IEPE加速度計は特殊な低ノイズケーブルや電荷アンプを必要としないため、大規模なマルチチャンネルシステムの場合、大幅にコストを下げることができます。また、IEPE加速度計のほうが使いやすいという特徴があります。手入れ、配慮、操作や保守にかかる労力が少なくてすむからです。
NIは、PCB社のICP® (Integrated Circuit-Piezoelectric) センサを提供しています。ICP®はPCB Piezotronics, Inc.の商標で、同社が製造するIEPE (Integrated Electronic Piezoelectric) 加速度/振動センサのことを指します。センサは、汎用、工業用、3軸、インパクトハンマーの各フォームファクタでご用意しています。
DAQデバイスで加速度計による計測が正しく実行できるようにするには、以下の点を考慮して、信号調節の要件をすべて満たしていることを確認してください。
加速度計計測の調節、収集、解析、および表示方法の詳細については、「高確度のセンサ計測を実現するためのテクニカルガイド」をダウンロードしてください。
センサまたはテストのニーズを把握したら、次の重要なステップとして、そのデータを収集するためのハードウェアを決定します。収集ハードウェアの品質によって、収集するデータの品質が決まります。
NIが提供している幅広い音響/振動ハードウェアは、振動データを収集し、さまざまなIEPEセンサと互換性があります。
NI音響/振動デバイスとIEPEセンサ、加速度計などの互換性を確認するには、「NIデバイスでIEPEセンサに対する励起と適合性電圧」を参照してください。プリアンプを使用した場合でも、NI音響/振動ハードウェアは動作しますが、信号特性が変化する可能性があります。プリアンプの出力が音響/振動ハードウェアの入力範囲内であることを確認します。同様に、IEPE以外のセンサでは、センサ出力がデバイスの入力機能に適合していることを確認します。
シンプルなハードウェアのセットアップ
CompactDAQ音響/振動バンドルを使用すると、加速度計または振動センサを人気のある各種の音響/振動モジュールやCompactDAQシャーシに簡単に接続できます。
以下の製品は、加速度計と接続して振動信号を測定します。これらの製品は、オーディオテスト、機械状態監視、NVH (騒音/振動/ハーシュネス) のアプリケーションで使用します。これらの製品は、音響/振動計測の両方に対応します。適切なセンサを選択してNI製品と使用するために、マイクロホンを使用して音響を測定する詳細についてご覧ください。
方法 | 周波数限界 |
ハンドヘルド | 500 Hz |
磁石 | 2000 Hz |
粘着式 | 2500~5000 Hz |
スタッド | > 6000 Hz |