ハードウェアの欠陥生成は、組込制御装置の信頼性に関わるテストシステムにおける極めて重要なポイントです。このチュートリアルでは、欠陥生成の実行方法や、PXIハードウェアで作成したHIL (hardware-in-the-loop) テストシステムに欠陥生成ユニット (FIU) を組み込む方法を解説します。NIの欠陥生成用製品の詳細については、FIUの選び方のページをご覧ください。
多くのHILテストシステムでは、ハードウェア欠陥生成を行って、電子制御装置 (ECU) とシステムの他の部分との間に信号欠陥を組み込み、特定の故障条件下でのECUの動作をテスト、特性評価、検証しています。欠陥生成は、特定のECUで故障状態に対し既知の許容可能な応答をすることが絶対的に求められる場合によく使用されます。例としては、自動車、航空機、宇宙船、機械などがあります。欠陥生成ユニット (FIU) をテストシステムのI/OインタフェースとECUの間に挿入して、バッテリ消耗や短絡、開回路などの故障状態と通常操作の切り替えができるようにします。
図1は、HILテストシステムのFIUの一般的な組込方法を示しています。欠陥生成はI/OとECUのゲートの役割を果たしている点に注目してください。
図1.動的テストシステムの欠陥生成ユニットの一般的な配置
FIUの一般的な構成は、1つまたは複数の欠陥バスへのそれぞれのチャンネルを開いたり閉じたりできる「欠陥バストポロジ」です。この構成では、各FIUチャンネルに3つの単極単投 (SPST) リレーが含まれます。チャンネルの最初のリレーはパススルーとして動作します。デフォルトの操作モードの間このリレーは閉じられ、FIUはECUにとってもテストシステムにとっても透過的に動作します。
図2.デフォルトの動作モードにおけるFIU – すべての信号が通過する
開回路または割り込み欠陥をシミュレーションする場合、テストアプリケーションとテスト対象デバイス (DUT) の間の信号線は開いたままとなって、信号の割り込み後のDUTの動作を決定します。このリレーを開いてハードブレーキをシミュレーションしたり、特定の時間間隔で開閉して断続的な接続や接合のゆるみをシミュレーションすることができます。
図3. チャンネル1に開回路シミュレーションを追加したFIU
グランド短絡または電源短絡をシミュレートするには、信号線を外部の欠陥ラインまたは欠陥バスからDUTに接続します。欠陥バスは、電源ライン、システム接地、その他システム内の電源をシミュレーションするように構成することができます。
図4. チャンネル1に電源短絡障害のシミュレーション機能が追加されたFIU
最後に、ピン間短絡のシミュレーションには、DUT信号線を1つまたは複数の別のDUT信号線に接続します。
図5.チャンネル0と1の間でピン同士が短絡されたFIU
トリガや同期などの機能を備えたPXIは、FIUに最適な環境です。HILテストシステムは一般にPXIベースのI/Oで設計されているため、PXIは切り替える信号にも極めて類似しています。そのようなシステムは通常NI VeriStandのような組込リアルタイム処理ソフトウェアで制御しますので、PXIベースのFIUを使用すると、モデルやテストのシーケンスを実行している同じインタフェースから、欠陥をプログラムで簡単に選択し制御することが可能です。
NIでは、当社初のFIU、NI PXI-2510を発売しました。これは、HILアプリケーション用に開発された150 Vの68チャンネル2A FIUです。各モジュールには、1つまたは2つの欠陥バスを開いたり短絡できるフィードスルーチャンネルが68チャンネル搭載されています。さらに、各欠陥バスには4x1入力マルチプレクサが備わっていますので、ソフトウェア制御で注入できる欠陥の種類と数をさらに柔軟に設定することができます。
図6. NI PXI-2510 68チャンネル2 A FIU
NI PXI FIUは、HILテストシステムに簡単に統合できるほか、安全性や信頼性や接続性など、ハードウェアに関連する利点も備えています。
欠陥生成は高電圧・高電流をしばしば伴うもので、HILアプリケーションには信頼性が不可欠であるため、NIではFIUの安全性には万全を期しています。具体的には、すべてのNI FIUはIEC 61010-1国際規格に準拠しており、ULのような第三機関による設計の検証が行われています。最後に、各ユニットは、出荷前にテストを実施し、機能面と安全面両方の検証を行っています。
安全性と似ていますが、信頼性も長期テストの整合性を実現する上で重要な要素です。 数百万サイクルの定格を持つメカニカルリレーは、通常の負荷条件下では寿命が有限で比較的予測可能です。長期的信頼性を確保するため、PXI-2510にはオンボードリレーカウント追跡機能があり、各リレーのサイクル数を表示させることができます。これにより保守や交換の時期を確実に知ることができます。PXI-2510には、指定の寿命に達した際の通常のリレー故障時のために、ユーザが交換できるリレーキットが付属されています。またNIでは、使用するうちに過電圧/電流など予期せぬ状況が発生し、リレーが損傷を受けることも想定しています。そのような場合、交換リレーキットは大変重宝します。 さらに機械的な信頼性については、各FIU設計にはHALT (Highly accelerated life test) スクリーニングを実施し、高振動環境での機械的健全性を確認していますので、過酷な現場環境での長期使用にも耐えることができます。
多くのチャンネルを使用し高い電圧/電流を用いることの多い欠陥生成アプリケーションでは、ケーブリングと接続性も見過ごされがちですが重要な要素です。PXI-2510には、ネジ留め式端子、裸線、DINコネクタという3つの接続オプションがあります。それぞれのオプションは安全性、信頼性、シールド機能を保証する設計で、完全な接続性を備えたソリューションとなっています。これによりシステムのエミッションが低減できるだけでなく、ノイズとクロストークも改善されます。
PXI-2510のケーブリング/接続オプションの詳細については、「How to Connect Signals to the PXI-2510」チュートリアルを参照してください。
欠陥生成専用に開発された製品以外にも、NIではカスタム欠陥生成トポロジを作成できる汎用のスイッチ製品を各種ご用意しています。例えばNI PXI-2586は、こちらのチュートリアル (英語) で説明するように、3チャンネル/2バスFIUや9チャンネル/1バスFIUなど、複数の欠陥生成トポロジの作成に使用できる10チャンネル12 A SPSTモジュールです。
FIUを選ぶ際に考慮すべき重要ポイントの最後は、ソフトウェアを含むシステム統合性です。Windows環境では、NI-SWITCHソフトフロントパネル (SFP) というスイッチのデバッグ用グラフィカルユーティリティを使って、PXI FIUを対話式に構成しテストすることができます。自動制御には、NI-DAQmxハードウェアドライバを使用することで、LabVIEW Real-TimeとWindows OSを介しモジュールの全機能をプログラムによって利用することが可能となります。
HILテストシステムの制御に最もよく使用されているのは、リアルタイムテストアプリケーション構成用のソフトウェア環境、NI VeriStandです。NI PXI FIUはNI VeriStandで簡単に制御できますので、リアルタイムI/Oや刺激信号プロファイル、データロギング、アラームの構成、制御アルゴリズムやシステムシミュレーションの実装、実行時に編集可能なユーザインタフェース用のテストシステムインタフェースの構築などと同じ環境で管理することができます。
図7.NI VeriStandによるFIUの制御
より高度な高速制御の場合、各FIUモジュールはPXIバックプレーンを介してトリガを送受信できます。入力トリガは、FIUハードウェアにロードされた定義済みリストにある次の欠陥位置までスイッチを進ませることができます。出力トリガを使用すると、PXIシステム内の他の計測器で計測を開始することができます。また、リアルタイムシミュレーションからトリガを送信して、欠陥状態を逐次的に実行する自動テストを行ったり、より複雑なシーケンスや動的欠陥制御が求められるアプリケーションには、PXI FPGA (field-programmable gate array) モジュールを使用して、PXIバックプレーン経由で1つまたは複数のFIUとの間でトリガを送受信することが可能です。
ECUの高い信頼性が不可欠な場合は、FIUの使用を検討してください。NIでは、FIUをHILテストシステムに組み込んでデバイスの安全性と信頼性を高めることのできるソフトウェア/ハードウェアアーキテクチャを開発しました。