いよいよネットワークの網の目が細かくなり、電子機器のスマート化が進む中で、バッテリの性能と持続時間のバランスがかつてないほど重要になってきました。どのアプリケーションを使用している場合でも、「バッテリ低下」の警告が表示されると、使い勝手が非常に悪くなります。消費者は、ジムで着用するワイヤレスヘッドフォンから、スマートフォンに記録した買い物メモまで、毎日、バッテリ電源デバイスを使用しています。さらに、そのようなデバイスを1回の充電でできるだけ長く使用できることを望んでいます。つまり、エンジニアは電子機器のバッテリ持続時間を延ばすことを常に求められています。
バッテリの持続時間を延ばすための主要要件の1つは、デバイスの総消費電力を正確に測定できることです。これについては、総負荷電力が、電源オン時の定常状態での動作に限定されず、複数の動作状態での測定を必要とする点が主な課題となります。スリープ状態や過渡状態などの低電力状態では、測定が必要な低電圧 (通常、ナノボルト (nV) を単位とするレンジ) が原因で、不正確なデータが読み取られることがあります。また、一部の電力イベントは短時間で終了する場合があります。これは、高確度の計測器が必要となるだけでなく、高速のサンプリングレートも重要な考慮事項となるということです。
電子デバイスの消費電力を正確に測定するには、各種の計測オプションと適切な測定設定について理解する必要があります。例として、図1のデバイスについて考えてみましょう。この図は、有効電力モードと低電力モードの2つの状態を持つ簡単な回路を示しています。V1は、測定されたソース電圧です。バッテリは時間の経過とともに電力が失われるため、この測定値は考慮事項として重要です。消費電力を測定するには、もう1つの電圧測定値として、図でR1とラベル付けされた電流センス抵抗の両端間電圧も測定する必要があります。R2とR3は検査対象デバイスの代表的な負荷を示し、R3は有効電力モードを、R2は低電力モードを表します。
図1:アクティブ状態とスリープ状態での電圧測定用のサンプル回路
V1 = 電圧源 (1 VDC)
R1= 電圧測定用の100 mΩの電流センス抵抗
R2= 10 kΩの有効電力モード抵抗
R3 = 1 Ωの低電力モード抵抗
S1およびS2= 負荷を適用/シミュレーションするためのスイッチ
シャント抵抗の重要性
外部のシャント抵抗 (電流センス抵抗) は、消費電力の測定において重要な要素です。デジタルマルチメータ (DMM)、データ収集 (DAQ) デバイス、オシロスコープなどの電圧計測器でデバイスの消費電流を測定するには、シャント抵抗のサイズ設定と許容範囲に注意する必要があります。このシナリオでは、シャント抵抗は、電圧降下を測定して電流に変換するために使用されています。この抵抗のサイズを適切に設定することで、高確度な測定を行うことができます。
図1の抵抗R1 (100 mΩ、許容範囲0.1%) は、計測器で測定する必要がある電圧降下を表しています。ここで、オームの法則を使用して、センス抵抗の両端間の予測電圧を計算できます。この抵抗は、誤差を低減できる程度に小さく、電圧降下の高確度な測定を実現できる程度に大きくなければなりません。この例では、100 mΩを選択することで、測定抵抗によって消費される電力を最小限に抑えて、高確度な電流測定を実現しています。
有効電力モードと低電力モードの両方に対するモデルに基づき、以下の式を使用してシャント抵抗の両端間での予測電圧降下を推定できます。これらの計算は電圧測定の前提であり、さまざまな計測器の確度を理解する上で不可欠です。
R2: 低電力モード条件
予想消費電流 = 1 VCD/10 kΩ = 100 μA
シャント抵抗の予想電圧降下 = 100 μA x 100 mΩ = 10 μV
予想消費電力 = 10 μV x 100 μA = 1 nW
R3: 有効電力モード状態
予想消費電流 =1 VCD/1 Ω= 1 A
シャント抵抗の予想電圧降下 = 1 A x 100 mΩ = 100 mV
予想消費電力 = 100 mV x 1 A = 100 mW
上記のように、低電力モード状態ではシャント抵抗での電圧降下が最小になります。このような状況での消費電力の測定は通常より難しいため、ここで低電力状態での確度計算について説明します。
シャント抵抗を使用して消費電力を測定した場合、総合的な測定誤差はデバイス誤差と構成誤差の合計となることに注意してください。説明を簡単にするために、シャント抵抗R1と電圧源V1に接続されている配線やフィクスチャでの電圧降下は無視できるものと仮定します。ただし、以下の式を使用して、抵抗の許容範囲による測定誤差を計算することができます。この例では、有効電力モードの測定値は100 mVで、低電力モードの測定値は10 μVです。
R1センス抵抗値 = 100 mΩ、0.1%
センス抵抗R1誤差 (V) = 10 μVv*0.1% = 10 nV
センス抵抗電流誤差 (A)=10 nV/100 mΩ= 100 nA
電圧/電流測定の探求を始めるにあたって、電圧、電流、抵抗の関係を理解することは不可欠です。計測器は通常、電圧または電流を測定するので、ICレベル、電源レール、回路、システムレベルでの消費電力を求めるにはオームの法則を使用します。低電力を測定する方法はいくつかありますが、それぞれにトレードオフがあります。電圧測定に最も一般的に使用されるデバイスは、DMM、オシロスコープ、DAQデバイスです。
DMMは、低レベルの電圧測定に最もよく使用される計測器の1つです。通常、さまざまな機能を利用して電圧の不確かさを補正します。この計測器の確度を決定するために、7½桁の精度と±1,000 Vの最大入力範囲を備え、1.8 MS/sのオンボード絶縁デジタイザを搭載したDMM (PXIe-4081) について検討してみましょう。表1は仕様書から抜粋したものです。ここでは、オートゼロ、ADCキャリブレーション、オフセットヌルなど、DMMの確度を向上させる高度な機能は無効になっています。DCオフセットヌルを有効にすると、DMMの総合確度を2 μV高められることを把握しておく必要があります。DCオフセットヌルは、さまざまな注意点やトレードオフがある高度なトピックです。センス抵抗の両端間の測定電圧は最悪ケースで10 μVであるため、この説明ではDCオフセットヌルを無視しても問題ありません。
DMMは電圧と電流の両方の測定モードで使用できますが、ここでは外部シャント抵抗を使用した電圧測定モードでのユースケースを評価します。このモードはシャント抵抗の値をカスタマイズできるため、通常、消費電力測定に適しています。
DC電圧 ± (読み取り値のppm + レンジのppm)
レンジ | 入力抵抗1 | 24 HR2 TSELFCAL ± 1 °C | 90日 TSELFCAL ± 5 °C | 2年 TSELFCAL ± 5 °C | Tempco/°C | |
---|---|---|---|---|---|---|
セルフキャリブレーションなし | セルフキャリブレーションあり | |||||
100 mV | 10 MΩ ± 2%、>10 GΩ | 6 + 5 | 27 + 7 | 28 + 8 | 3 + 2 | 0.3 + 1 |
1 V | 4.5 + 0.8 | 15 + 2.5 | 18 + 2.5 | 2 + 0.2 | 0.3 + 0.1 | |
10 V | 2 + 0.5 | 10.5 + 0.5 | 12 + 0.5 | 0.3 + 0.02 | 0.3 + 0.01 |
表1: PXIe-4081 DMMの仕様
次の式を使用して、最悪のシナリオでのDMMの確度を計算できます。
確度 = ± (A/1,000,000) x 読み取り値 + (B/1,000,000) x レンジ
A = 読み取り成分のppm
B = レンジ成分のppm
注: ヌルを使用しない場合は、2 μVを加算
測定する電圧降下 (10 μV) に基づいて、100 mVレンジの仕様を検討します。上記の式を使用して、DMMの電圧測定確度を見積もることができます。測定前90日以内にDMMをセルフキャリブレーションしたと仮定すると、以下の数値を使用できます。
読み取り値の = 27
レンジのppm = 7
レンジ = 100 mV
予測される信号 = 10 μV
確度 = 700 nV + 2 μV = 2.7 μV
計測器の確度が±2.7 μVであることがわかったので、オームの法則、計測器の確度、およびセンス抵抗誤差を使用して電流読み取り値の確度を計算できます。
オームの法則 = I =V/R
測定誤差 = ±2.7 μV/100 mΩ= ± 27 μA
総合誤差 = 計測誤差 + センス抵抗誤差 = ± 27 μA + 100 nA = ± 27.1 μA
消費電力誤差 = 2.7 μV x 27.1 μA = 73.17 pW
上記の式からわかるように、許容範囲1%の抵抗を使用すると、センス抵抗誤差が無視できるようになります。その結果、このシステム設定では、DCヌルを使用しなくても、低電力状態で100 μAの消費電流を27 μA以内の確度で測定することができます。この方法を適用するだけで、確度を向上させることができます。
電力測定でよく使用される2番目のタイプの計測器は、オシロスコープです。オシロスコープは、帯域幅が広くサンプリングレートが高速であることから、デバイスの消費電力の動的変化を評価するのによく使用される計測器です。例として、1 GS/sのサンプリングレート、200 MHz、14ビットの分解能を持つNI PXIe-5163オシロスコープを使用します。
確度 | |
---|---|
分解能 | 14ビット |
DC確度4,5 | |
50 Ω | ± [(0.5% x |読み取り値|) + (FSの0.2%)]、(保証) |
1 MΩ | ± [(0.65% x |読み取り値 - 垂直オフセット|) + (FSの0.2%) +0.15 mV]、(保証) |
DCドリフト6 | ± 0.0013 dB/°C (50 kHz時) |
AC振幅確度4 | ± 0.225 dB (50 kHz)、(保証) |
表2: PXIe-5163オシロスコープの仕様
オシロスコープの最悪ケースでの確度計算には、入力レンジと垂直オフセットが関係してきます。この計算では、低電圧の測定に適している1 MΩの内部抵抗を使用します。この例では、低電力モードにおいてセンス抵抗の両端間での電圧降下を10 μVの電圧読み取り値で評価します。この測定では、垂直オフセット0、フルスケール入力レンジ0.25 Vを使用します。確度を計算する式は、図3に示す仕様書に記載されたものをそのまま使用しています。
確度 = ± [(0.65% x |読み取り値 - 垂直オフセット|) + (0.4% x |垂直オフセット|) + (FSの0.2%) + 0.15 mV]
確度 = ± [(0.65% x |(10 μV - 0 V)|) + (0.4% x |0 V|) + (0.2% x .25 V) + 0.15 mV] = ± 650.01 μV
仕様書に記載されているように、前回のキャリブレーション時からデバイスのボード温度が±3℃を超えた場合は、DC/DCドリフトも考慮する必要があります。温度はデバイスによって異なるため、ここでは考慮せず、±3℃未満と想定しています。垂直オフセットについては、表3の仕様に記載されています。
計測器の確度が±650 μVであることがわかったので、オームの法則、計測器の確度、およびセンス抵抗誤差を使用して電流読み取り値の確度を計算できます。
オームの法則= I =V/R
測定誤差 = ±650.01 μV/100 mΩ= ± 6.5 mA
合計誤差 = 測定誤差 + センス抵抗誤差 = ± 6.5 mA + 100 nA = ± 6.5 mA
消費電力誤差= 650 μV x 6.5 mA = 4.23 μW
上記の式から、オシロスコープを使用したシステムの電流測定の確度は6.5 mAにしかなりません。これは、低電力状態で100 μAの消費電流を正確に測定するには不十分です。しかし、オシロスコープはアクティブ状態にあるデバイスの消費電力をある程度の確度で正確に測定でき、アクティブデバイスの過渡電力消費動作を評価するためによく使用されます。
DAQデバイスは、複数のチャンネルで電圧やデータを収集するためによく使用されます。DAQデバイスを安価な測定ツールと考える方もいるかもしれませんが、ハイエンドモデルのいくつかは高いDC測定確度を実現できています。例として、2つのDAQデバイスを見てみましょう。1つ目のPXI-6289は、32 AI (18ビット、625 kS/s)、4 AO、48 DIOモジュールです。これまでの例と同様に、以下の確度計算では、最悪のケースを想定して、デバイスの低電力モードでの消費電力を測定しています。表3を使用すると、仕様書から抜粋した式に基づき、DC確度を計算できます。
公称範囲 (正のフルスケール) | 公称範囲 (負のフルスケール) | 残留ゲイン誤差 (読み取り値のppm) | 残留オフセット誤差 (レンジのppm) | オフセット温度係数 (レンジのppm/℃) | ランダムノイズ (UVRMS) | フルスケールでの絶対確度 (UV) | 感度 (UV) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10 | -10 | 40 | 8 | 11 | 60 | 980 | 24 |
5 | -5 | 45 | 8 | 11 | 30 | 510 | 12 |
2 | -2 | 45 | 8 | 13 | 12 | 210 | 4.8 |
1 | -1 | 55 | 15 | 15 | 7 | 120 | 2.8 |
0.5 | -0.5 | 55 | 30 | 20 | 4 | 70 | 1.6 |
0.2 | -0.2 | 75 | 45 | 35 | 3 | 39 | 1.2 |
0.1 | -0.1 | 120 | 60 | 60 | 2 | 28 | 0.8 |
表3: 仕様書から抜粋したPXI-6289確度表
絶対確度 = (読み取り値 x ゲイン誤差) + (レンジ x オフセット誤差) + ノイズの不確定性
絶対確度を使用した場合、「読み取り値」はセンス抵抗 (10 μV) での電圧降下となります。さらに、最小入力レンジ (0.1 V) を使用します。ゲイン誤差およびオフセット誤差を求めるには、さらに計算を追加します。ゲイン誤差とオフセット誤差の計算では、前回のキャリブレーションとの差が5℃、ゲイン温度係数が17 ppm/℃、基準温度係数が1 ppm/℃、INL誤差がレンジの10 ppmと想定します。
ゲイン誤差 = 残留AIゲイン誤差 + ゲイン温度係数 x 前回の内部キャリブレーションからの温度変化 + 基準温度係数 x 前回の内部キャリブレーションからの温度変化
オフセット誤差 = 残留オフセット誤差 + オフセット温度係数 x 前回の内部キャリブレーションからの温度変化 + INL誤差のノイズの不確かさ
ノイズの不確定性 = ランダムノイズ x 3/√100
ゲイン誤差 = 120 ppm + (17 ppm x 5) + (1 ppm x 5) = 210 ppm
オフセット誤差 = (60 ppm + (60 ppm x 5)) + 10 ppm = 372 ppm
ノイズの不確定性 =9 μV x 3/√100= 2.7 μV
絶対確度 = 0.1 V x (210 ppm) + 0.1 V x (372 ppm) + 2.7 μV = 60.7 μV
発生しうるすべての誤差を合計すると、この計測器のDC確度は60.7 μVとなります。これで、オームの法則、計測器の確度、センス抵抗誤差を使用して電流読み取り値の確度を計算できます。
オームの法則= I =V/R
測定誤差 = ±60.7 μV/100 mΩ= ± 607 μA
合計誤差 = 測定誤差 + センス誤差 = ± 607 μA + 100 nA = ± 607 μA
消費電力誤差 = 60.7 μV x 607 μA = 36.85 nW
この計算を図1の回路に適用すると、このDAQデバイスは実際の消費電流の±1 mA以内の電流確度で測定できることがわかります。そのため、このデバイスはアクティブ状態 (1 A) のときに消費電力を十分に評価できますが、低電力モード (100 μA) で消費電流を測定するための確度は不十分です。
対照的に、上記のマルチファンクションDAQデバイスの性能を、より高い性能のモデルと比較できます。DAQデバイスのこの2番目の比較では、NI PXIe-4309の性能を評価します。このデバイスは、最大2 MS/sのサンプリングレート、28ビットの可変分解能、32チャンネル、±15 Vの入力レンジを備えています。
DMMと同様に、NI PXIe-4309はオートゼロ、チョッパー、オフセットなど追加の確度技術を使用してDC測定確度を改善します。PXIe-4309の追加機能の利点を最もわかりやすく説明するために、「オートゼロを有効にし、収集の開始時にはオフセットヌルを考慮していない場合」を見てみましょう。この場合、オートゼロサンプリングが低電圧の読み取りにおいて最も顕著な改善を示し、オフセットヌルは低電圧を読み取る際の最大の誤差原因である4.5 μVのオフセット誤差を除去します。今回の読み取り値は10 μVなので、オフセットヌル機能は必要ありません。ここでは引き続き、表4の最小レンジ (0.1 V) を使用します。
レンジ | 絶対確度*, **, †† | 温度係数†† | ||
---|---|---|---|---|
24時間†, ‡ TEXTCAL± 1℃、TSELFCAL± 1℃ | 2年 TEXTCAL± 5℃、TSELFCAL± 1℃ | 2年 TEXTCAL± 10℃、TSELFCAL± 5℃ | 0 °C - 55 °C | |
± (読み取り値のppm + UV) /℃ | ± (読み取り値のppm + UV) /℃ | |||
0.1 V | 33 + 0.3 | 60 + 4.7 | 165 + 5.1 | 25 + 0.1 |
1.0 V | 28 + 0.5 | 55 + 9.3 | 140 + 9.7 | 20 + 0.1 |
10 V | 23 + 2.7 | 50 + 55.4 | 115 + 55.8 | 15 + 0.1 |
15 V | 28 + 4.0 | 55 + 156.1 | 140 + 156.5 | 20 + 0.1 |
*ソースインピーダンス ≤ 50Ω †外部キャリブレーションソースを基準とする ‡オフセットヌルを想定 **サンプリングレート ≤ S/s
††温度係数は、絶対確度値への加算値であり、記載されたセルフキャリブレーション温度の範囲外で動作していない限り適用されません。
記載されたセルフキャリブレーション温度範囲においては、温度係数は絶対確度値に含まれます。
表4: 仕様書から抜粋したPXIe-4309確度表
前述のように、DAQデバイスの誤差の最大原因の1つがオフセット誤差です。この場合、キャリブレーション周期が2年 (電圧レンジは0.1 V) のシナリオを検討してみましょう。この例では、仕様書から抜粋した表5を参照することで、確度の想定値をすばやく決定できます。合計誤差のオフセット部分は、2年ごとのキャリブレーションでは4.7 μVです。オフセット誤差の式は、仕様書 (表6) にある線形性、ノイズ、残留オフセットを使用して計算できます。デバイスの総合確度を計算するには、以下の式を使用します。
オフセット誤差 = 残留オフセット + 線形性
直線性誤差 = 5 ppm (100 mVレンジ) = 5/1,000,000 = 0.0000005 V
残留オフセット = 4 μV
ノイズ = ノイズ (RMS) x √2 = 0.00000054 V
ゲイン誤差 = 60 ppm = (60/1,000,000 = 0.00006)
確度: オフセット誤差 + ノイズ + ゲイン誤差
測定する電圧降下 (10 μV) に基づいて、前と同じ100 mVレンジの仕様を検討します。測定前2年以内にPXIe-4309をキャリブレーションしたと仮定すると、以下の数値を使用できます。
オフセット誤差 = 4.5 μV (5℃未満ではこれにヌルで対応)
直線性 = 0.1 V x 5 ppm = 500 nV
残留オフセット= 4 μV
ノイズ= 20 nVrms x 1.414213562 = 28 nVピーク-ピーク
ゲイン誤差= 10 μV x 60 ppm = 600 pV
確度 = 4.7 μV + 28 nV + 600 pV = 4.73 μV
10サンプル/秒でのサンプリングの場合、すべての誤差を加算した後のPXIe-4309のヌルなしのDC確度は4.73 μVです。これまでの例と同様に、オームの法則、計測器の確度、およびセンス抵抗誤差を使用して、電流読み取り値の確度を計算してみましょう。
オームの法則= I =V/R
測定誤差 = ±4.73 μV/100 mΩ= ± 47.3 μA
総合誤差 = 計測誤差 + センス抵抗誤差 = ±47.3 μA + 100 nA = ±47.4 μA
消費電力誤差 = 4.7 μV x 47.4 μA = 222.78 pW
上記の計算に基づいて、PXIe-4309 DAQデバイスは、オフセットヌルを補正することなく、±47.5 μA以内の確度で消費電流を測定できると判断することができます。DCオフセットが測定誤差全体の大部分を占めることに注意してください。したがって、基本的なヌル手法を使用した場合でも、この測定の確度を大幅に改善できるので、上記の測定構成を使用すれば±1 μAよりも高い確度性能を実現できます。
前述のように、確度は、ダイナミック信号の高速サンプリングレートのデータキャプチャなどの機能とともに低電圧測定用の計測器を評価する際に最も重要な考慮事項の1つです。さらに、チャンネルを追加すれば、複数の電源レールを測定できるようになります。ほとんどの計測器は電圧読み取り機能を備えていますが、結果全体を見ると、確度に大きなばらつきがあります。まず、DMMは有効電力モードと低電力モードの読み取りを正確に行うことができます。次に、オシロスコープはサンプリングレートが高いため、ダイナミック信号のキャプチャに最適です。そして、DAQ PXI-6289は有効電力モードの読み取りには十分ですが、低電力モードの測定には十分ではありません。最後に、PXIe-4309は、図1で必要とされている有効電力モードと低電力モードの両方の読み取りを正確に行うことが可能です。
計測器 | 計測確度 |
---|---|
DMM (PXIe-4081) | 73.17 pW (2.7 μV) の計測器確度での高精度低電圧測定 |
オシロスコープ (PXIe-5163) | ± 4.23 μW (650 μV) の計測器確度での低電圧測定 |
DAQデバイス (PXI-6289) | ± 35.45 nW (60.7 μV) の計測器確度での低電圧測定 |
DAQデバイス (PXIe-4309) | ± 222.78 pW (4.74 μV) の計測器確度での低電圧測定 |
表5: 低電力測定要件による各計測器の性能の比較
低電力の測定に最適なツールを選定することで、より高確度の電力検証が可能となる結果、製品の性能を高めることができます。消費者は1回の充電で、より長く電子デバイスの電源が持続することを期待しています。PXIe-4309のような高性能計測器を選定することで、デバイスの消費電力をすばやく効率的に検証できます。PXIe-4309アナログ入力モジュールは、オシロスコープや他のDAQデバイスよりも総合的に高い性能を示しています。さらに、本稿で触れたような低抵抗のシャント抵抗に流れる電流の測定においては、7½桁確度のDMMと同等の性能を示します。PXIe-4309は多数のチャンネルを備えているため、現代の複雑な電子設計における電力検証の要件を十分に満たす測定密度を実現しています。