Dr. David Keeling、リーズ大学機械工学部
動物実験なしで新しい心臓補助装置の進歩および改善を可能にする、現実的で信頼性に優れた再構成可能なテスト環境を開発する。
NI CompactRIOを活用することで、人工心臓と循環血流モデルを組み合わせたスタンドアロン型のHIL (Hardware-In-the-Loop) テスト環境を構築し、生体モデルを物理的および血行動態的に複製する最終ソリューションを実現する。
Dr.David Keeling ― リーズ大学機械工学部
Mr Ali Alazmani ― リーズ大学機械工学部
Prof. M. Levesley ― リーズ大学機械工学部
Dr. P. Walker ― リーズ大学機械工学部
Dr. K. Watterson ― リーズ総合病院
Dr. O. Jaber ― リーズ総合病院
心臓疾患は、先進国における死因のほぼ半数を占めています。心臓移植は現在心臓病の最も有効な治療法ですが、ドナー臓器の需要は供給をはるかに上回っています。こうした不均衡への対処として、機械的心臓補助装置を使用する研究を行いました。リーズ大学で開発中のこのような新しいデバイスの1つに、インテリジェント心室補助装置 (iVAD) があります。このデバイスは、心臓の心室の外面の周りに、本来のリズムに同期した圧縮力を加えることによって、機能不全の心臓を補助する人工筋肉ラップとして機能します。この周期的な「収縮」動作が心筋収縮力を補強するため、疾患のある心臓の血液拍出量が改善されます。
このiVADを物理的に心臓シミュレータに適用して、収縮力を測定する必要があったため、本物に近い人工的な体内モデルのテスト環境が開発には不可欠でした。他の心臓補助装置に用いられた従来の方法では、大型の機械的な模擬循環システムを使用するまたは、他の動物の血流によって動く摘出心臓を使用する必要がありました。私たちはどちらの方法も好まなかったため、リアルタイムソフトウェアによる血流モデルを物理的な3D人工心臓と組み合わせて、独自のHIL心臓シミュレータを作製しました。NI LabVIEWグラフィカルプログラミング環境とCompactRIOを使用して、テスト環境をより強化したことで、心臓シミュレータをスタンドアロン型システムとして動作させ、より長期にわたって確実に駆動させることができました。
私たちはこの心臓シミュレータを再構成可能なものにしたいと考えました。そうすれば、異なる患者グループ、疾患、および動物モデルを物理的かつ血行動態的に複製できるからです。こうした適応性によって、動物実験の必要性を減らすことができます。心臓シミュレータによって、iVADの試作版を長期にわたって検査できるうえ、iVADの生理学的効果に関する情報も得ることができるからです。
iVADのような補助デバイスでは、補助デバイスと心臓の表面の相互作用が極めて重要です。このような相互作用は、反動や非線形摩擦など、モデル化が難しい物理的特性に依存する場合が多いため、心臓シミュレータには、iVADを適用でき、その未調整の収縮力を監視できる物理的対象物が必要でした。
心臓シミュレータの設計は、産業界で普及しているテスト技術であるHILシミュレーションに基づいて行いました。HILは、テストを必要とするシステムの部品をソフトウェアによってシミュレーションし、これらの部品を同じシステムの指定された物理的なハードウェア部品と関連付けます。心臓シミュレータの要件を満たすため、私たちはシミュレーションした血流モデルループ内でハードウェアとして機能する人工心臓に対して、HILシミュレーションを用いました。両者の間で連続的なフィードバックループを使用して、補助装置が体内に埋め込まれた場合、心臓と血流にどのような影響があるかを評価しました。
人工心臓の形状は、締め金が付いた2つの変形可能な半円形の圧延鋼板によって決定されます。これらは両端が接続されており、境界部分の調節が可能です。私たちは、カスタム仕様のNIビジョンプログラムを開発して、基準となる心臓モデルに対して各圧延鋼板の断面を一致させるのに必要な境界条件を定義しやすくしました。2台の線形アクチュエータを使用して、周期的に圧鋼板を収縮させ、心臓の右心室と左心室を本物のごとく動かします。血流モデル内のアクチュエータの動作を制御して、ソフトウェア上でシミュレーションした心臓を模倣することで、シミュレーションした心臓に対するいかなる体積変化も物理的な心臓にすぐさま反映されます。心臓の形状一致のほか、こうした調整は、圧延鋼板の特性 (厚さなど) を個々に変更することによって、人工心臓の周囲の部分的な剛性を変化させる可能性があります。圧延鋼板は薄いゴム状皮膚で包んで、iVADを適用しました。
周期的に圧延鋼板を収縮し、心臓の右心室と左心室の本物に近い動きを作り出すために、2台の線形アクチュエータ (LinMOT PS01-23x1 60H) を使用しました。2台のアクチュエータの動作は、CompactRIOバックプレーン内のFPGAで実行されているアルゴリズムに従って、40 kHzでPID (比例/微分/積分) 制御しました。PIDに対する位置的な要求は、血流モデル内の心臓の体積の変化から導き出されます。これによって、物理的な心臓の動きはシミュレーションした心臓を模倣することになります。
前述のとおり、心臓血管系に対するiVADの補助を評価するのに、フィードバックループを使用します。4つの適合する圧力センサを人工心臓の周囲に等間隔に配置し、iVADの補助 (収縮) データを得ます。4つの圧力センサからの信号は50 kHzで集録し、FPGA上で平均値を算出して、ノイズを軽減します。DMA (ダイレクトメモリアクセス) およびFIFO (先入れ先出し法) を使用して、この平均値の情報がFPGAから、CompactRIOコントローラ上で実行されているリアルタイムモデルに渡され、各心室に対する補助圧力に変換されます。これによって血流にもたらされる影響が計算され、あたかも心臓が同様の物理的な相互作用を受けて反応したかのように、デバイスの補助に対する人工心臓の反応が定義されます。CompactRIOがWindowsを搭載したコンピュータに接続されている場合、圧力データはTCP経由でLabVIEWのユーザインタフェースに送信され、そこで、3Dの心臓表面へSTL形式の画像としてマッピングされます。これによって、人工心臓の周囲における補助デバイスの性能に関する重要な視覚情報が得られます。
血流モデルは、電気回路に基づいた、閉ループ集中パラメータモデルとして機能します。この類推においては、血流に対する抵抗、キャパシタンス (血管コンプライアンス) 、およびインダクタンス (血流の慣性) の観点から、コンパートメント圧が定義されます。作成される数値モデルは、各領域が別々にモデル化された、血液を蓄えた6つのコンパートメント (図2) から構成されています。これによって心臓血管系に対する部分的な制御が可能になり、3つのモデル条件を一致させることで特定の疾患や状態を実装できます。私たちは主な目標の1つを達成するため、WindowsホストのLabVIEW VI内で別のステートを作成しました。これにより、レーベンバーグ・マルカート法の非線形最小二乗関数を扱った専用のパラメータ推定アルゴリズムを使用して、血流モデルが自動的に実際の生理的な圧力波形に合致できるようになります。一度実行すれば、最も合致するパラメータを即座にリアルタイムモデルにロードでき、心臓シミュレータはいかなる患者グループ、循環器疾患、または生体内モデルの血行動態でも正確に反映できるようになります。
私たちはCompactRIOを使用することで、人工心臓の制御を行い、シミュレーションを実行し、データの表示と保存のためにTCP経由でWindowsホストへデータを送信します。リアルタイムコントローラは2つの並列ループを実行します。優先度の高い血流モデルの制御ループと、キューに入ったTCPデータをWindowsホストとの間で送受信する、優先度の低い通信ループです。優先度の高い血流モデルループは、500 Hzで実行され、2つの心室体積を校正された位置的な電圧に変換して、FPGA I/Oに送信し、各線形アクチュエータが追跡できるようにします。FPGAは、CompactRIOのすべてのI/Oに対応し、加熱器のPI (比例/積分) 制御を行うように構成されています。加熱器は心臓シミュレータのケースを常に37 ℃ (体温) に保つために使用します。
CompactRIOは、心臓シミュレータを構築する上で、信頼性が高く堅牢なスタンドアロンのプラットフォームとして機能しました。これを採用したことで、私たちのチームは、新たな心臓補助装置について長期にわたる試験を実施することができました。従来のコンピュータ機器を使用したのでは、これと同じことは達成できなかったはずです。このシステムのコンパクトさと、プラグインモジュールの多様性によって、ソリューションの作成が成功しました。
Dr. David Keeling
リーズ大学機械工学部