James Underbrink, Boeing Aero/Noise/Propulsion Laboratory
商用ジェット旅客機の離着陸時と持続飛行時に生じる騒音を低減させる新技術の評価用に、拡張性に優れた低コストのシステムを構築すること。
NI PXIのコントローラとシャーシ、ダイナミック信号アナライザ、NI LabVIEWソフトウェアを使って、高精度のタイミング/同期により飛行試験の位相配列データの集録が行える拡張性の高い分散型テストシステムを開発することができました。
ボーイング社では、QTD2 (Quiet Technology Demonstrator 2) プロジェクトの一環として、航空機によって発生する騒音の低減を目的とした新技術の評価を行うため、飛行試験を実施しました。これらの技術の効果を測定するには、試験中に位相アレイの音響イメージングなどを行うための、柔軟性と拡張性に優れた高精度なテストシステムが必要でした。チャンネル間の正確なタイミングと同期を保ったまま、1,000チャンネル以上にまで拡張できる分散型のシステムアーキテクチャが必要だったのです。
騒音低減の新技術を評価する飛行試験を行うために、モンタナ州グラスゴーにある施設で研究を行いました。マイクロフォンアレイを用いて騒音データを集録し、そのデータから騒音の発生源と周波数、音量をノイズレベルでマッピングするという作業を行いました。
ノイズレベルのマップを実画像と重ね合わせることで、騒音低減技術の効果を評価したり、騒音の発生をさらに減らせそうな新たなポイントを特定したり、エンジンと機体のどちらから騒音が発生しているのか、騒音の発生源を区別することが可能となりました。
NIのツールを使用することで、エンジンの排気ダクトに施されたギザギザ (シェブロン) やエンジン吸気口に施された新しい吸音処理、空気力学の原理を応用した主着陸装置 (MLG) 用フェアリングなど、様々な先進的な騒音低減のコンセプトも検証できました。
2001年に行われたQTDプロジェクトの第1段階では、VXIテストシステムを導入しましたが、これはチャンネル数にもチャンネル帯域幅にも制限がありました。このシステムでは一元化されたデータアーキテクチャが必要とされ、同期するVXIシャーシをすべて同じ場所に配置しなければならなかったため、マイクからデータ収集システムまで100チャンネルのデータ収集あたり約16kmという長距離のケーブルが必要とされていました。
また、チャンネル数とアーキテクチャの問題以外にも、複数のVXIシャーシ間で装置を同期する際の遅延の長さ、チャンネルあたりのコストの高さ、データ検索に要する時間の長さという課題もあったため、プロジェクトの第2段階 (QTD2) では、こうした課題を解決する新しいシステムの導入が求められていました。
そこで、PXIの柔軟性とモジュール性を活用することで、ボーイング社は使用するチャンネル数に制限のない拡張性に優れたシステムを構築することができました。また、NIのタイミング/同期カードを利用することでデータ収集ハードウェアをマイクロホンアレイに分散配備し、チャンネル間の位相差を1度未満に抑えつつ、80%近くもケーブル量を削減することに成功しています。
データの収集には、最大204.8 kS/sの集録レートを提供するNI PXI音響/振動モジュールを使用しました。8つのPXIシャーシを使用し、それぞれに音響/振動モジュール、PXIタイミング/同期カード、および光ファイバコネクタを搭載しました。タイミング/同期カードによって、システム内のすべてのデータ収集チャンネルに集録クロックと開始トリガが分配されています。
各光ファイバカードは、WindowsおよびNILabVIEWを実行するNI PXIコントローラサーバクラスマシンにPXIシャーシをリンクします。光ファイバーケーブルを使用することで、シャーシと制御コンピュータを最大200メートル離すことができました。ボーイング社では、PXIコントローラと中央にあるホストコンピュータをギガビットイーサネットで接続することで、集録後のデータを高速でホストコンピュータに保存できるようにし、他のシステムを使ってデータの処理と解析を行いました。既存のシステムと比較して、性能の向上が実現できただけでなく、チャンネル数の上限をなくし、分散型アーキテクチャを導入することによって、チャンネルあたりのコストを50%以上も低減することに成功しました。
位相アレイ飛行テスト
ボーイング社は、実験施設の滑走路の端に、幅76.2m長さ91.4mにわたって600個以上の地上マイクを螺旋状に並べました。777-300ER機が上空を飛行する際の騒音を集録し、そのデータをただちに取り込んで処理することによって飛行機の音響イメージを得ることに成功しました。ギガビットイーサネットを介してホストコンピュータに接続されているデータ処理用コンピュータクラスタで、リアルタイムにデータを解析しました。
典型的なテストサイクルでは、およそ6分に1回の頻度で航空機がマイクの上空を飛行しています。このシステムでは、この間に集録されたデータをアップロードし、同じウィンドウ内で次のデータ収集に備えることができました。一連のテストにおいて、ボーイング社は300回以上のデータ収集を行い、合計で78分にも及ぶ飛行試験データを得ることができました。これは1 TB以上のデータ容量に相当します。
1,000チャンネルまで拡張できるシステムの構築には、PCベースのコントローラ複数台とPXIシャーシを利用します。このアーキテクチャでは、マスタシャーシがタイミングとトリガを制御し、スレーブシャーシがクロックの分配、ローカル取得の制御、ディスクへのデータの保存を行います。ホストコンピュータはPXIの全システムの構成を制御し、ソフトウェアの設定と制御に必要なユーザインタフェースとして機能するほか、各PXIシステムからすべてのデータを受け取ります。PXIのマスタシャーシはタイミングとトリガを制御し、スレーブシャーシはそのタイミングとトリガ信号を受信することで、ローカルでデータを収集してディスクに保存します。PXIシステムの制御は、光ファイバリンクにバンドルされている1U型ラックマウントタイプのサーバクラスコントローラ「PXI-8350」を使用して、リモートで透過的に行うことができたため、マイクロホンアレイ周辺にダイナミック信号収集デバイスを複数のクラスタに分けて分散配備し、デバイスコントローラは最大200m離れたトレーラ内に設置することができました。
市販のハードウェアなら、PXIコントローラにはRAID 0構成のシリアルATAドライブが搭載されているため、全チャンネルからフルサンプリングレートで直接ディスクにストリーミングすることができました。このように、モジュール式のシステムを採用することで、多チャンネルが必要な場合はそれに合わせてチャンネル数を拡張し、逆にチャンネル数が少なくてもよいアプリケーション用にはシステムを分割することができます。
システムはすべてLabVIEWで開発しました。コードと設計は、社内の他の開発者からもらったものやNIのWebサイトからダウンロードしたものをそのまま再利用したり、若干の修正を加えて使用しています。中には、LabVIEWの習得期間を含めて6ヶ月未満でアプリケーション全体を開発できたというユーザもいました。
ボーイング社では、熟慮の末に選ばれたPXIシステムのソフトウェアアーキテクチャとモジュール性を最大限活用し、システムの拡張プロセスを簡素化することに成功しました。開発の途中でシステムに128個のチャンネルを追加する必要に迫られたときに、これらのメリットが端的に実証されました。システムのチャンネル数を320から448へと拡張するときも、入力モジュールを箱から取り出して接続するところから、2分間かけて構成ファイルを更新するまで、全部で2時間しかかかりませんでした。
NIのPXI同期モジュールを使用して、1つのシャーシ内のモジュール間で緊密な同期を実現し、タイミングと同期を複数のシャーシに拡張しました。NI PXI同期モジュールを組み合わせて使用することで、すべてのPXIシャーシを同じクロックで動作させることができました。 タイミング信号はケーブルでシステム全体に分散されるので、ダイナミック信号収集デバイス間で厳密な同期を保ったまま、シャーシを最大200 mまで離すことができました。このようなアーキテクチャのおかげで、8台のシャーシにある全448個のチャンネルにおいて、チャンネル間の位相差を1度未満 (93 kHz) に抑えることができました。
データシステムを選択する過程で、本格的なフルスケールテストから風洞を使って行うスケールモデルテストまで、幅広い範囲のアプリケーションに対応できるシステムが必要なことに気づきました。また、既存のシステムよりもサンプリング レートが高く、ダイナミック レンジが広いシステムも必要でした。こうした条件を満たしたのが、93 kHz帯域幅で4チャンネルから同時にサンプリングできるダイナミック信号集録モジュール「PXI-4462」です。
フルスケールテストの場合、テスト対象の周波数は通常11.2 kHzまでですが、縮尺1:20という小さいスケールモデルでの風洞テストでは、より高いサンプリングレートが必要になります。24ビット、シグマ/デルタのアナログ/デジタル変換器を使用すると、1.25マイクロボルトという低い信号も測定できました。 PXI音響/振動モジュールが提供するセンサ用IEPE (Integrated Electronic PiezoElectric) 統合型電流ソースを使用することで、30分の1のコスト削減を実現し、特定のアプリケーションにおけるトランスデューサの複雑さを大幅に軽減しました。
NIのソフトウェアとハードウェアを使用することで、ハイエンドなシステムを低コストで構築することができました。複数のPXIシステムから構成され、チャンネル間の緊密な同期にも対応させることができました。さらに、チャンネル数はほぼ無制限に拡張でき、チャンネル数によらず計測モジュールのフルの帯域幅での計測が可能な分散計測システムを構築できたのです。このような新しいシステムのおかげで、ボーイング社は個々の集録チャンネルの機能を改善したうえ、必要なケーブル量を5分の1に削減し、飛行試験用のマイクロフォンシステムにかかる費用を従来の30分の1にまで削減することができたのです。
James Underbrink
Boeing Aero/Noise/Propulsion Laboratory
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