PXIe-5668 - 26.5 GHz高性能広帯域信号アナイザ概要

概要

PXIe-5668ベクトル信号アナライザ (VSA) は、765 MHzの帯域幅を備えており、最高クラスの計測性能と速度を誇っています。ワイヤレス通信、RFIC (無線周波数集積回路) の特性評価、レーダー (Radio Detection And Ranging) テスト、スペクトルモニタリング/シギントといったアプリケーションの厳しい要件を満たすことができる高性能マイクロ波信号アナライザです。

内容

図1. PXIe-5668 VSA

図1に示すPXIe-5668は、RFの計測性能、計測速度、柔軟性を特有のバランスで備えています。業界最高水準のダイナミックレンジおよび帯域幅を備えたこの計測器は、研究開発アプリケーションの厳しい計測要件を満たせる理想的なソリューションです。PXI計測器として実装されたPXIe-5668は、大量製造テストに必要な高速計測の性能も備えています。さらに、このVSAはLabVIEWでプログラム可能ななXilinx Kintex-7 FPGAを搭載しており、トリガや信号処理ルーチンを追加することで計測器の動作をカスタマイズできるようになっています。

RF計測性能

PXIe-5668は、高速フーリエ変換 (FFT) をベースにしたPXI信号アナライザで、ハイエンドスペクトル解析とベクトル信号解析の両方に適しています。位相ノイズとノイズフロアが低く、2次/3次インタセプトが高いため、隣接チャンネル漏洩電力比 (ACLR) 計測からスプリアス/高調波計測まで、さまざまなアプリケーションで優れたダイナミックレンジを実現します。表1は、1 GHzと20 GHzの中心周波数におけるPXIe-5668の通常のパフォーマンスを示しています。

 1 GHz20 GHz

ノイズフロア (RMS) (プリアンプなし)

ノイズフロア (RMS) (プリアンプあり)

-155 dBM/Hz

-166 dBm/Hz

-152 dBm/Hz

-

3次インタセプト (TOI)

+24 dBm+25 dBm
第2高調波のインタセプト (SHI)+75 dBmN/A
イメージ除去-102 dBc-83 dBc
位相ノイズ (10 kHzオフセット)-129 dBc/Hz-116 dBc/Hz
即時帯域幅320 MHz765 MHz

ダイナミックレンジ[2/3*(TOI-DANL)]

119 dB118 dB

 

表1. PXIe-5668の通常性能

PXIe-5668は、2 GS/秒のデジタイザを採用することで極めて広い即時帯域幅を実現します。表1に示すように、中心周波数3.6 GHz未満では320 MHzの即時帯域幅、中心周波数3.6 GHzから26.5 GHzでは最大765 MHzの即時帯域幅となります。

ダイナミックレンジ

PXIe-5668の優れたダイナミックレンジ性能により、相互変調歪み (IMD) から隣接チャンネル漏洩電力 (ACP) やエラーベクトル振幅 (EVM) まで、さまざまな計測を高精度で実行することができます。図2および3は計測器のダイナミックレンジチャートで、ノイズと線形性をミキサレベルの関数として表しています。

図2. 1 GHzにおけるPXIe-5668のダイナミックレンジチャート

図3. 20 GHzにおけるPXIe-5668のダイナミックレンジチャート

図2では、ほとんどの計測の最適なミキサレベルはおよそ-36 dBmで、1 Hz帯域幅におけるスプリアスフリーダイナミックレンジ (SFDR) はおよそ117 dBです。20 GHz (図3) では、PXIe-5668は、最適なミキサレベル-37 dBmで同様な性能を実現します。このミキサレベルでは、SFDRは1 Hzの帯域幅で115 dBになります。

優れた線形性とノイズフロアという組み合わせは、IMDとACPの計測には不可欠です。実際に、それらの計測を行う能力を最もよく表す仕様は、3次インタセプト (TOI) です。PXIe-5668は、1 GHzにおいて+23 dBmを超えるTOI仕様で、減衰は0 dBです。図4に示すように、計測器が提供する公称TOI性能は1 GHzにおいて+25 dBmで、仕様より2 dB高くなっています。

図4. PXIe-5668の相互変調歪み計測

RF信号アナライザのTOI仕様は、慣例により0 dBの減衰で定義されていますが、RF信号アナライザは
この仕様よりはるかに高いTOIを計測できます。実際には、PXIe-5668で最大75 dBの内部減衰を切り替えることで、計測システムの線形性を最適化できます。

IMD計測以外にも、高ダイナミックレンジのPXIe-5668はACPやACLRなどのスペクトル計測に最適です。図5は、WCDMA信号のACLR計測を示すもので、本来備えているACLRフロアはおよそ85 dBとなっています。

図5. 468 MHzにおけるPXIe-5668のWCDMA ACLR性能

UMTS ACLR計測だけでなく、NIのワイヤレス規格ソフトウェアツールキットをPXIe-5668とともに使用すると、GSM/EDGE、UMTS/HSPA+、LTE/LTE Advanced、Bluetooth、802.11a/b/g/n/p/acなどのテクノロジを利用してデバイスをテストすることができます。

広い即時帯域幅

PXIe-5668は、周波数レンジに応じて、320 MHzまたは765 MHzの即時帯域幅をサポートします。1回の収集で極めて広い帯域幅を計測できれば、ワイヤレス通信テストからレーダーパルス計測までさまざまなアプリケーションに役立ちます。  EVMなどのメトリックを持つ広帯域信号を計測する際、RF信号アナライザの即時帯域幅は、信号の帯域幅より広い必要があります。たとえば、IEEE 802.11acなどのワイヤレステクノロジでは、EVM計測を実行するために、160 MHzの即時帯域幅が必要です。さらに、160 MHzの802.11ac信号のスペクトルマスクには、中心周波数から240 MHz、トータルで480 MHzの帯域幅という要件があります。765 MHzの即時帯域幅を持つPXIe-5668では、160 MHzのスペクトルマスクなどの計測を1回の収集で実行することができます。

その他にレーダーパルス計測などのアプリケーションでも、極めて広い即時帯域幅が必要です。一般的なレーダーパルスでは、信号の周波数領域特性は、図6のように、メインローブと理論上無限のサイドローブの両方を含む同期関数として表されます。 

図6. 100 MHzの帯域幅内に含まれる20 nsパルスのメインパワーローブ

パルス立ち上がり時間などのレーダーパルス計測では、VSAを使用してメインローブと複数のサイドローブをキャプチャする必要があります。Xナノ秒のパルス立ち上がり時間の計測時は、計測器の即時帯域幅は3/Xとなるという原則があります。たとえば、5 nsという低いパルス立ち上がり時間を計測するために必要な計測器の即時帯域幅は、3/(5 ns) または600 MHzとなります。図7では、広い帯域幅を持つPXIe-5668信号アナライザを使用することで、極めて高確度のパルス立ち上がり時間計測が可能となることがわかります。この場合の立ち上がり時間は8 nsです。

図7.ゼロスパンモードを使用した20 nsパルスの時間領域

PXIe-5668の広帯域性能は高確度のパルス計測を実行するのに最適ですが、スパンが計測器の即時帯域幅より小さい場合には、広い帯域幅によりスペクトル計測も高速になります。

柔軟性

PXIe-5668 RF信号アナライザの最後の特性として、再構成を可能にする柔軟性があります。PXIe-5668はLabVIEW FPGAでプログラム可能なターゲットなので、カスタム信号処理アルゴリズムを計測器自体に組み込むことができます。たとえば、LabVIEWサンプルコードを使用して、計測器をリアルタイムスペクトラムアナライザ (RTSA) として構成できます。図8に示すように、RTSAの機能を利用すると、時間領域レコードにギャップを生じさせることなく、極めて広帯域のスペクトルをリアルタイムで解析することができます。

図8. PXIe-5668のリアルタイムスペクトル解析機能により、持続性表示といった特有の視覚化ツールが実現します

最後になりますが、この計測器ではモジュール式アーキテクチャを採用しているため、ダウンコンバータとデジタイザモジュールを追加することで、マルチチャンネルの受信機構成に対応することができます。PXIe-5668 VSAは、内部発振器 (LO) や他のタイミング信号を複数のモジュール間で共有できるため、各RFチャンネル間での位相コヒーレンスが可能です。マルチチャンネル受信機の位相コヒーレンスは、方向検知、ビームフォーミング、MIMO (複数入力/複数出力) デバイステストといったアプリケーションで重視されます。図9は、2チャンネルRF信号アナライザのサンプル構成を示しています。

図9. 複数のPXIe-5668計測器をマルチチャンネルの位相コヒーレントRF信号収集用に構成できます。

図9に示す構成を使用すると、マルチチャンネル計測アプリケーションで緊密なチャンネル間同期を実現できます。

アーキテクチャ

PXIe-5668は、2つの明確に異なる信号経路を使用して、広い即時帯域幅とクラス最高のRF性能という組み合わせを実現します。3.6 GHz未満の低帯域経路では、計測器は、オプションのプレアンプ機能付きの3段スーパヘテロダイン設計を使用します。3.6 GHzを上回る高帯域経路では、計測器は、イットリウム鉄ガーネット (YIG) 整調フィルタ (YTF) によるプリセレクションが可能な2段設計を使用します。  

PXIe-5668の低帯域 (3.6 GHz未満) では、計測器は、計測性能を向上させる複数の機能を利用できます。図10は、簡略化したブロック図を示しています。ここで、30 dBのプリアンプを稼働させると、低レベル信号を計測する場合に、計測器が本来備えているノイズフロアを下げることができる点にご注目ください。

図10. PXIe-5668の簡略ブロック図

図10は、最初のミキシング段階の前の2つのハイパスフィルタを示しています。それらのフィルタで、1,350 MHzと2,200 MHzのハイパスカットオフを行って、一般的な携帯電話通信帯域の基本周波数である1 GHz付近を抑制することができます。フィルタを有効にすると、計測器では、低レベルの2次/3次高調波をそれぞれ約2 GHzと3 GHzでより正確に計測することができます。

3.6 GHzを超える高帯域では、YTFは3.6 GHzから26.5 GHzで動作するためのプリセレクタとして機能します。これはスペクトル計測用にデフォルトで有効となっています。 極めて広帯域のベクトル信号解析では、YTFを無効にして765 MHzの計測器帯域幅をフルに活用することができます。

柔軟性IF構造

2 GS/秒デジタイザのサンプリングレートと併せて、VSAのダウンコンバータはハイエンドスペクトル解析と広帯域ベクトル信号解析の両方を可能にする柔軟なIF構造を備えています。たとえば、狭帯域の300 kHzアナログフィルタを利用して、2トーン相互変調歪み (IMD) やACLRなど、最も高いダイナミックレンジを必要とする計測を容易に行うことができます。ベクトル信号解析の場合は、IFフィルタ処理を完全に無効にして、中心周波数に応じて最大320 MHzまたは765 MHzのいずれかの帯域幅を実現できます。 

PXIe-5624デジタイザの広帯域アナログフロントエンドは、スーパーヘテロダイン受信機アーキテクチャに合わせて最適化されています。またPXIe-5624は、IF信号をIQデータに変換するオンボードデジタルダウンコンバータ (DDC) を搭載しています。そのため、PXIe-5624はPXIe-5668 VSAの一部として、あるいはスタンドアロンのIFデジタイザとして使用できます。

まとめ

PXIe-5668は、広範なアプリケーションに適した高性能な26.5 GHz VSAです。優れたアナログ性能と、極めて広い帯域幅、究極の柔軟性を兼ね備えることで、ACLR計測からレーダー検証、スペクトルモニタリングまで、あらゆる高難度の計測アプリケーションに対応できます。