このホワイトペーパーでは、PXIプラットフォームにおける最新のイノベーションについて説明します。1つは、8コアのIntel Xeonプロセッサを搭載する業界初のPXI Express組込コントローラです。 もう1つは、業界で初めてPCI Express Gen 3を採用することで広いシステム帯域幅を実現したオールハイブリッド対応のPXIシャーシです。両製品を組み合わせることにより、従来品の中では高性能を備えていたPXIプラットフォームコンポーネントと比べて2倍の処理能力とシステム帯域幅を実現できます。PXIはモジュール性を備えていることから、進化を続ける要件に常に追随することが可能です。PXIは、あらゆるテスト/計測用途において、何ら妥協することなく活用できるソリューションです。
図1: PXIe-1085 24 GB/秒シャーシとPXIe-8880 Intel Xeonベース組込コントローラおよびその他のモジュール式計測器
NIは、Intel社と共同で、サーバクラスの性能を備えたIntel Xeonプロセッサをテスト/計測市場に投入しました。同コントローラは8コアのXeonを搭載しています。 また、最大容量が24 GBのDDR4メモリを搭載するとともに、バックプレーンに接続するためにPCI Express Gen 3に対応する24のレーンを備えています。これにより、技術者/研究者に対して、前世代のコントローラの2倍もの処理能力と帯域幅を提供します。
図2:PXIe-8880組込コントローラの回路基板 (左)。Intel Xeonプロセッサと2~8 GBの拡張RAMを搭載している。組込コントローラの前面には周辺機器と接続するためのポートがいくつも用意されている (右)。
新たなコントローラであるPXIe-8880の価値を理解していただくために、まずはCPU自体の性能を確認してみます。多くのテスト/計測システムでは、グラフィックス処理よりも演算処理が多用されます。そこで演算処理を中心とするCPUベンチマークを実施しました。グラフ1は、8コアのIntel Xeon Processor E5-2618L v3を搭載するPXIe-8880とクアッドコアのIntel Core i7-3610QEを搭載した前世代のPXIe-8135を比較した結果です。 ベンチマーク(CPU Mark)において、PXIe-8880はPXIe-8135よりも76%性能が高いという結果が得られました。
グラフ1:CPU Markを実施した結果、PXIe-8880は前世代の組込コントローラであるPXIe-8135よりも76%高い性能を示した。
グラフィカルシステム開発ソフトウェアであるLabVIEWをはじめとするテスト/計測用のソフトウェアとPXIe-8880を併用した場合の性能も確認する必要があります。テストや計測でよく使用される演算のうち、プロセッサを駆使するものといえばFFT(高速フーリエ変換)です。グラフ2のベンチマーク結果からは、PXIe-8880における単位時間当たりのFFT演算の回数は、クアッドコアのIntel Core i7-3610QEを搭載した前世代のPXIe-8135よりも91%多いことがわかります。LabVIEWは、本質的にマルチスレッド対応のアプリケーションソフトウェアです。 そのため、PXIe-8880が搭載するIntel Xeonの8つのコアが有効に活用されます。
グラフ2:PXIe-8880においてLabVIEWをベースとして実行するFFT演算の回数 (単位時間当たり) は、前世代のPXIe-8135を使う場合よりも91%多い。
「NIとの連携においては、最新のIntel Xeonプロセッサを使用できるようにすることが新たなマイルストーンでした。モノのインターネット(IoT)では、製品を市場に投入するまでの期間を短縮することや、テストコストを削減することが重要です。 そのためには最大限の処理能力を利用できるようにする必要があります。 PXIをベースとするNIのアプローチは、その目標を達成するうえで重要なものです。」
-Shahram Mehraban氏
Intel社インダストリアルIoT市場開発担当
ディレクター
PXIリモート制御製品のPXIe-839xファミリを使用することで、デスクトップ/ワークステーション/サーバによるPXIシステムのリモート制御を、従来のPXIリモート制御製品を使用する場合と比較して2倍の帯域幅で実施できるようになります。PCIe-8398ホストインタフェースカードを使用すれば、16レーンのPCI Express Gen 3接続の下、シングルポートのPXIe-8398リモート制御モジュール、またはデュアルポートのPXIe-8399リモート制御モジュールとの通信が可能になります。また、PXIe-8394バス拡張モジュールを使用すれば、PXIの高スループットを損なわずに、複数のPXIシャーシをデイジーチェーン接続したり、スター型接続したりすることもできます。
複数のPXIシャーシを使用したシステム構築の詳細については、『PXI Remote Control and System Expansion Product Flyer』を参照してください。
図3:PXIe-8398リモート制御モジュールとPCIe-8398ホストインタフェースカードを組み合わせてPXI ExpressシャーシとホストPCを接続する。
PXIの規格は1997年に策定されました。 それ以来、NIは、お客様のアプリケーションで求められるI/Oポイントと性能を満たすことができる多種多様なシャーシ製品群を継続的に提供しています。 それにより、イノベーションの基盤を構築するうえで重要な役割を果たしてきました。NIは、最新製品として、PCI Express Gen 3に対応する初のPXIシャーシを実現しました。 これにより、前世代のシャーシの2倍のスロット数とシステム帯域幅を提供することが可能になります。
図4:何も装備していない状態のPXIe-1085の前面図。このシャーシは24 GB/秒のシステム帯域幅に対応する。
この数十年の間に、お客様のアプリケーションはますます複雑になってきています。 それに伴い、処理能力と帯域幅に対する要求は高まるばかりです。 PXIの仕様はそうした要求に対応して進化を続けてきました。当初、PXIではPCIをベースとして132 MB/秒のデータ帯域幅を実現していました。その後、PXIはPXI Expressへと発展しました。 PXI Expressでは、PCI Expressを採用しており、レーンと呼ばれる送信/受信用信号線ペアを介してデータをシリアルに転送します。 PCI Express Gen 1では、1方向当たり250 MB/秒でデータの転送が行えました。また、複数のレーンを1つにまとめて4本、8本、16本のリンクを構成し、帯域幅を拡大することも可能です。
その後、PCI Express Gen 2では1レーン当たりの帯域幅が500 MB/秒に拡大されました。帯域幅が24 GB/秒のPXIe-1085は、業界で初めてPCI Express Gen 3を採用しています。 1レーン当たりの帯域幅はPCI Express Gen 2の2倍の1 GB/秒にまで拡大しています。 24本のデータレーン(×24)を構成すれば、1方向当たり計24 GB/秒の速度で、コントローラからPXI Express対応のバックプレーンにデータを転送可能です(グラフ3)。
ここでいうシステム帯域幅は、コントローラとシャーシの間で転送可能なデータ量を指していることには注意が必要です。というのも、周辺モジュール間のピアツーピア(P2P)通信を活用すれば、シャーシ内で転送可能な総データ量は大幅に増加するからです。例として、コントローラに対して8 GB/秒でストリーミングを行う3つの周辺モジュールと、8 GB/秒でP2P通信を行う7ペアのモジュールが存在するケースを考えます。 その場合、理論上の総システム帯域幅は、単方向で80 GB/秒、双方向で160 GB/秒となります。実際のシステム帯域幅は、メモリの帯域幅、PCI Expressのパケットサイズ/オーバーヘッド、トラフィックの方向(単方向か双方向か)といった多くの要因によって決まります。
グラフ3:各世代のPXIおよびPXI Expressのシステム帯域幅 (24本のデータレーンを利用)
シャーシの通信バスは、PC向けの最新技術を採用することで進化を続けています。 たとえば周辺モジュールのベースとなる技術は、PXIから、PCI Expressの通信バス機能を利用するPXI Expressへと進化しました。PXIの仕様では、旧来のPXIモジュールとPXI Expressモジュールの間の互換性を確保するために、ハイブリッドスロットが追加されました。このスロットであれば、ハイブリッド互換PXIモジュールまたはPXI Express周辺モジュールをPXIシャーシに取り付けることができます。 そのため、ハイブリッド互換PXIモジュールに対するこれまでの投資が無駄になることはありません。12 GB/秒の帯域幅に対応する従来のPXIe-1085と同様に、24 GB/秒対応版も18スロットを備えるシャーシであり(システムコントローラ用の1スロット+周辺モジュール用の17スロット)、16個のハイブリッドスロットを備えています。
従来の計測器では、トリガ、電源、基準クロック、データバスには外付けのケーブルが必要です。 それに対し、PXIプラットフォームではこれらがPXIシャーシのバックプレーンに統合されています。 これがPXIプラットフォームがもたらす最大のメリットです。24 GB/秒対応のPXIe-1085の主要なイノベーションは、図5に示すようにPCI Express Gen 3対応の2つのスイッチが実装されていることです。 これらのスイッチは、モジュールとモジュール、あるいはモジュールとコントローラの間のルーティング処理を担います。
図5:24 GB/秒に対応するPXIe-1085の電源シャトルを取り外した様子 (背面)。PCI Express Gen 3に対応するスイッチング技術を適用している。
PXIプラットフォームにおける最近の進化として、複数のインテリジェントなシステム間においてPCI Expressによるデータの送受信を可能にするPXI MultiComputing(PXImc)仕様があります。従来は、周辺スロットであるPXIe-8383を使用することで、ワークステーションなどのリモートプロセッサに物理的に接続することができました。それに対し、新たな組込コプロセッサモジュールであるPXIe-8830mcを使えば、PXI Expressベースの任意の周辺スロットに直接差し込んで、システムの処理能力を簡単に増強することができます。たとえば、18スロットのシャーシであるPXIe-8880に8台のPXIe-8830mcを組み合わせれば、物理コアの数を計40個に拡張することが可能です。
図6:スロット6、7にPXIe-8830mcを取り付けて4つのコアを追加したPXIシステム。信号処理を駆使する広帯域幅のRF計測器をいくつも搭載している。
「ここ20年の間に、従来の計測器がPXIプラットフォームをベースとする自動テストシステムに徐々に置き換えられていくのを見てきました。Intel Xeonを搭載する製品が加わったことで、高性能アプリケーションにおいてPXIの採用がますます進むと考えています。」
-Jessy Cavazos氏
Frost & Sullivan社
計測業界担当マネージャー
ここでは、新たなシャーシとコントローラソリューションを適用すべき主要なアプリケーション分野を紹介します。 それらの分野に限らず、両製品は、高い演算処理性能、広帯域幅を必要とするテスト/計測アプリケーションや、性能を犠牲にすることなく将来的に規模を拡張することが必要になるであろう任意のアプリケーションにも理想的なものです。
1978年にAMPS(Advanced Mobile Phone System)のプロトコルが実装されて以来、ワイヤレス通信のプロトコルでは、データ転送のための帯域幅の拡張が絶えず求められてきました。このことは、そうしたプロトコルの実装を検証するためのテストシステムが、計測器からの膨大な量のデータを集録/分析/処理できるように構築されていなければならないということを意味します。テストシステムの平均耐用年数は5~7年ですが、無線システムのテストを担当する技術者は、モジュール式のアプローチを採用するようになりました。 新たなプロトコルが実装されるたびに設備のすべてを一新するのではなく、必要なソフトウェアとハードウェアだけをアップデートすることでコストを抑えたいからです。
NI半導体テストシステム (STS)をはじめとする半導体試験装置は、大量のデータセットを使用するわけではありません。 しかし、テストのスループット (PPH: Part per Hour) を高めるためには、データセットをできるだけ並列に処理する必要があります。複数のサイトにまたがるテストのスループットを左右する大きな要素に、テストシステムの並列テスト効率 (PTE: Parallel Test Efficiency) があります。通常、PTE はシステムごとに固定の値になります。しかし、NI半導体テストシステムのようなモジュール式のアプローチを採用すれば、8コアのIntel Xeonや、TestStandのようなマルチコア対応の高性能なテスト用ソフトウェアを追加することによって、コストを抑えつつPTEを高めて、テスト技術者の開発生産性を改善することができます。
第5世代 (5G) の携帯電話システムの試作には、強力な信号処理、厳密な同期、制御機能、そして数GB/秒のデータレートを実現可能なI/Oポイントが必要です。LabVIEWのような高性能のソフトウェアに、PXIe-8880コントローラと24 GB/秒対応のPXIシャーシであるPXIe-1085が提供するマルチコア処理機能と広帯域幅を組み合わせれば、任意の試作用プラットフォームを開発する際の理想的な出発点とすることができます。
この20年間で、私たちの予測をはるかに上回るペースで技術革新が進行しました。携帯電話の通信方式が1Gから2Gに移行するまでには約18年を要しました。 それに対し、LTEはわずか6年足らずで3Gに取って代わりました。ADCのサンプリングレートは、数百MS/秒から数十GS/秒に向上しています。そして、人々があらゆる「モノ」の検知/処理/通信が行えるようにするモノのインターネット(IoT)は、現在のペースで普及し続けるなら、予測をはるかに上回るペースでその影響力を増大させていくことでしょう。
しかし、イノベーションは代償なくして得られるものではありません。開発環境で「稼働する」ものを、ユーザの手に届いたときにも「稼働する」ものにするには、複数のテスト/計測の工程が必要です。 そのための帯域幅と処理能力の向上に対する要求は年々高まるばかりです。製品の品質を犠牲にするのは望ましい選択肢ではありません。 かといって、新しい製品をリリースするたびにハードウェアとソフトウェアの追加に貴重な時間と資金を費やすわけにもいきません。将来の製品におけるイノベーションを予測することはできませんが、柔軟性と拡張性を考慮したアーキテクチャを選択することは可能です。組込コントローラのPXIe-8880と24 GB/秒対応のシャーシであるPXIe-1085は、絶えず進化する要件に対応可能なモジュール性を備えています。 業界最大規模を誇るモジュール式計測器のポートフォリオによって、NIのPXIプラットフォームは、あらゆるテスト/計測アプリケーションに対して妥協を必要としないソリューションを提供します。