PXI (PCI eXtensions for Instrumentation) 仕様は、測定およびオートメーションシステム用の堅牢なPCベースプラットフォームを定義しています。PXIでは高速のPCIバスを使用しており、今日のデスクトップコンピュータソフトウェアおよびハードウェア設計における事実上の標準となっています。PXIは、PCIの電気的バス仕様にCompactPCIの堅牢なモジュール式Eurocardメカニカルパッケージを組み合わせています。さらに、テスト/計測、データ収集、製造といった用途に用いられる完全なシステムを定義する機械的、電気的、およびソフトウェア機能を追加しています (図1を参照)。NIは、1997年にオープンな業界仕様としてPXI仕様を開発、発表しました。現在、PXI仕様は、60社以上が加盟するPXI Systems Allianceによって管理されています。PXIはオープン規格であるため、どのベンダーでもPXI製品を作成することができます。PICMG規定の規格であるCompactPCIとPXIモジュールは、同じシステム内で同時使用しても競合することはありません。CompactPCIとPXI間の相互運用性は、PXI仕様の主要な特性です。PXI仕様の全資料は、pxisa.orgから無料でダウンロードできます。
PCIからPCI Expressへの進化により、PC産業における利用可能なバス帯域幅が急激に向上すると同時に、PCI ExpressをPXI規格に統合することによってPXIがより多くのアプリケーションニーズを満たすことが可能になりました。PXI ExpressおよびCompactPCI Expressの成功を確実にするため、CompactPCIを管理するPCI Industrial Manufacturers Group (PICMG) とPXIを管理するPXI Systems Alliance (PXISA) のエンジニアは、PCI Expressテクノロジをバックプレーンに統合すると同時に、既存システムの大規模なインストールベースとの下位互換性を維持することに力を注ぎました。PCI Expressテクノロジを活用して、PXI ExpressではPXIモジュールとのソフトウェア/ハードウェア互換性を保持しながら、使用可能なPXI帯域幅を132 MB/sから6GB/sの45倍に拡大しました。こうした性能の向上により、PXIは、以前ならその多くが高価な専用ハードウェアのみでしか対応できなかった新しいアプリケーションの分野にまで進出することができます。
PXI仕様では、厳しい環境下での使用にも耐えられるようPXIシステム要件を定義しています。PXIでは、高性能IECコネクタおよびCompactPCIで使用される堅牢なEurocardパッケージシステムが使用されています。またPXIには、特別な冷却システムおよび環境要件が含まれ、工業用環境における運用にも使用できます。PXIハードウェアおよびソフトウェアの仕様の詳細については、PXISA Webサイトの「仕様」セクションを参照してください。
PXIは、CompactPCIで使用されているのと同じ先進的なピンインソケットコネクタシステムを採用しています。これらの高密度 (2 mmピッチ) インピーダンスマッチコネクタは、国際電気技術委員会 (IEC-1076) によって定義されているもので、あらゆる状況下で最も優れた電気性能を実現します。これらのコネクタは、高性能アプリケーションで広範囲に使用されており、とくに電子通信業界で顕著です。これらのIECコネクタの電気特性を利用することで、PXIシステムでは単一バスセグメントにおけるスロット数をデスクトップPCよりも多く提供します。
PXIおよびCompactPCIの機械的特性は、工業用環境 (たとえば、VMEやVXI) におけるアプリケーションで長い歴史を持つEurocard仕様 (ANSI 310-C、IEC-297、IEEE 1101.1、IEEE 1101.10、P1101.11) によって管理されています。そのようなエレクトロニクス実装規格では、ラックマウント式の設置で過酷な工業環境に耐えうるコンパクトで堅牢なシステムを定義しています。PXIには小 (3U = 10 x 16 cm) と大 (6U = 23.335 x 16 cm) の2種類のモジュールサイズがあります。3Uが最も多く使用されているサイズです。小さいサイズのため、高性能電子機器を小型化できます。また、アダプタを使用することで6Uシステムですべての3Uサイズモジュールを使用することもできます。PXIは、バスセグメントの一番左側にあるシステムスロット、システムコントローラの場所を定義します。この配置は、CompactPCIで使用可能な多数の構成の一部です。システムスロットを1か所に定義することで統合を容易に行うことができ、異なるベンダーのコントローラとシャーシ間の互換性が高まります。
CompactPCIで定義されるすべての機械仕様は直接PXIシステムに適用されますが、PXIにはシステム統合を簡素化するための追加要件が含まれます。PXI仕様では、すべてのシャーシの強制空冷が必須であり、温度、湿度、振動、衝撃などの完全環境テストを推奨しています。すべてのPXI製品に対してこれらのテスト結果のドキュメントを作成するよう義務付けられています。動作温度および保管温度の定格もすべてのPXI製品に必要です。また、PXI仕様では国際標準に準拠するための電磁波および感受性テストも要求されています。
計測器アプリケーションの多くでは、標準ISA、PCI、またはCompactPCIのバックプレーンで直接実行できないシステムタイミング機能が要求されます。PXIモジュール式計測器は、専用システム基準クロック、PXIトリガバス、スタートリガバス、スロット間ローカルバスを装備することで、上級タイミング、同期、側波帯通信に対応しています (図2を参照)。PXIではすべてのPCIバスの利点を活かしながらこれらの計測器機能を追加します。
PXIバックプレーンには、計測システムまたは制御システム内の複数モジュールを同期するために、共通の基準クロックが組み込まれています。各周辺スロットでは、等間隔トレースで転送し、スロット間でスキュー値が1 ns未満の10 MHz TTLクロックを提供します。10 MHzクロックの確度はシャーシによって異なりますが、通常は25 ppm未満で位相ロックループ (PLL) メソッドを基に信頼性のある同期を行うことができます。たとえば、複数の100 MHzデジタイザは、それぞれ個別の電圧制御水晶発振器 (VCXO) 100 MHzクロックを容易に10 MHzシステム基準クロックと同期できます。10 MHzクロックの確度は、対応するボードをシャーシのスタートリガスロット (スロット2) に取り付けることで向上できます。たとえば、NI PXI-6608をスロット2に配置すると高確度10 MHzクロックがバックプレーンに駆動されるため、クロック誤差は75 ppb未満に減ります。
PXIは、モジュール間の同期および通信用に8つのトリガバスラインを定義しています。トリガ、クロック、ハンドシェイク信号はトリガバスラインを使用して共有することができます。トリガは、1つのモジュールから無制限に複数モジュールへ渡すことができるため、マスタからのデジタルトリガ信号をスレーブ測定デバイスへ分配することができます。トリガバスを使用することで可変周波数サンプリングクロックの伝送が可能になるため、複数モジュールはサンプリングクロックまたは可変周波数タイムベースを直接共有することができます。たとえば、44.1 KspsのCDオーディオサンプリングレートを使用する4つのデータ収集 (DAQ) モジュールは、トリガバス上で44.1 KHzの倍数であるクロックを直接共有できます。ただし、約20 MHz以上のクロック周波数では、信号の劣化のためにトリガバスを使用したクロックの直接転送は推奨されず、代わりにシステム基準クロックを使用する必要があります。
Starトリガバスには、特別のStarトリガスロット (PXIシャーシではスロット2) からStar構成に配置された各スロット用の個別トリガラインがあります。PXIスターライン長は、Starトリガスロットから1 ns内の伝播遅延に一致します。この機能は、低遅延と低スキューのStarトリガスロットにあるマスタ測定モジュールから、開始/停止トリガ信号を分配できる高速同期を行います。または、Starトリガバスを介して可変周波数クロック信号を1 nsスキュー未満でモジュールへ転送することもできます。
PXIローカルバスは、各周辺スロットを左および右に隣接する周辺スロットと接続するデイジーチェーンバスです。周辺機器スロットの右側のローカルバスは、隣接するスロットの左側のローカルバスに接続します。13ライン幅の各ローカルバスは、カード間で最大42 Vのアナログ信号を渡すか、PCI帯域幅に影響を与えない
高速サイドバンド通信パスを提供します。
PXIは、デスクトップPCI仕様で定義されているパフォーマンス機能と同じ機能を提供しますが、例外が1つあります。PXIおよびCompactPCIシステムには、各バスセグメントで7つの周辺スロットがありますが、ほとんどのデスクトップPCIシステムでは3つです。その他はすべてのPCI機能がPXI/CompactPCIに適用します。
PXI Expressは、PXIのタイミング/同期機能を保持するだけでなく、PXIに必要な既存の差動型コネクタと高性能で低コストな差動信号伝達が可能だという技術的な利点を活かして、いくつかの新しい機能も追加します。既存のPXI機能上に構築されたPXI Expressは差動システムクロック、差動信号、差動Starトリガの追加タイミングおよび同期機能を提供します。差動クロックおよび同期を使用することで、PXI Expressシステムの計測器クロックの耐ノイズ性、そして高周波数でのクロック信号の転送機能が向上します。システムパフォーマンスを向上できるだけでなく、高周波数クロックも最新のプロセスに適合し、低コストの製品でクロック乗算回路を取り除くこともできるようになります。
PXIでは、電気的要件に加えてソフトウェア要件を定義することでシステム統合をさらに簡素化します。これらの要件には、標準のオペレーティングシステムのフレームワークが含まれます。適切な構成情報およびすべての周辺デバイス用のソフトウェアドライバも必要です。
PXIの仕様は、Microsoft WindowsオペレーティングシステムをベースとするPXIシステム向けにソフトウェアフレームワークを提供します。これにより、コントローラはNI LabVIEW, Measurement Studio、Visual Basic、Visual C/C++などの業界基準のAPI (アプリケーションプログラミングインタフェース) を使用できます。またPXIでは、モジュールやシャーシのベンダーから入手できる特定のソフトウェアコンポーネントが必要になります。PXIコンポーネントに対しては、システム構成およびシステム機能を定義する初期化ファイルが必要です。さらに、PXIでは計測業界で広く普及している仮想計測ソフトウェアアーキテクチャ (VISA) をVXI、GPIB、シリアル、PXI計測器の構成および制御に使用するよう特定しています。
PXI Expressシステムは、既存のソフトウェアへの技術的投資を維持できるようソフトウェア互換性を提供します。PCI ExpressはPCIと同じドライバやOSモデルを使用するため、PXIなどのPCIベースシステム、そしてPXI ExpressなどのPCI Expressベースシステムの間でソフトウェアの完全な互換性が保証されます。結果として、メーカーもユーザもPCI Expressベースシステムに対してドライバやアプリケーションソフトウェアを変更する必要がありません。
PXIモジュール式計測器は、一般向けのPC技術を利用した測定およびオートメーションユーザのための工業用コンピュータプラットフォームです。事実上の標準であるPCIバスを使用することで、PXIモジュール式計測システムは広く利用されているソフトウェアやハードウェアのコンポーネントを活用することが可能となります。PXIシステムで実行するソフトウェアアプリケーションやOSは、一般のデスクトップコンピュータで既に使用されているものなので、ユーザも使い慣れています。PXIは、工業用の堅牢な本体と搭載された多数のI/O用スロット、高度なタイミング/トリガ機能などにより、あらゆるニーズを満たすことができます。
PXIのハードウェアアーキテクチャ、ソフトウェアアーキテクチャ、PXIシステムの構成方法については、PXIアーキテクチャの概要を参照してください。