PXIアーキテクチャ基本

内容

概要

PXIシステムは、高性能モジュール式計測器とその他のI/Oモジュールから構成され、デバイス検証から自動製造テストにいたるまで、さまざまなテスト/計測アプリケーションに特化した同期機能や重要なソフトウェア機能を備えています。  PXIについて理解するために、まずは図1に示す2つの画像をご覧ください。PXIシステムを構成するシャーシ、コントローラ、PXI (e) 周辺モジュールと、一般的なデスクトップPCのコンポーネントを比較したものです。ここで重要なのは、PXIと一般的なPC技術との関連/対応を理解することです。

PXIシステム

一般的デスクトップPC

図1: PXIシステムと一般的なデスクトップPCの比較

PXI (PCI eXtensions for Instrumentation) は、測定システムやオートメーションシステム向けに確立されたPCベースのプラットフォームです。1つの筐体によって、電源、冷却部、通信バスのほか、複数の計測用モジュールをサポートします。PXIは、一般的なPC向けのPCIバス技術をベースとし、堅牢なCompactPCIモジュールパッケージと主要なタイミング/同期機能を追加したものです。

PCI-SIG (Peripheral Component Interconnect Special Interest Group) は、PCIを発展させたPCI Express (PCIe) 規格を策定し、システムの帯域幅を大幅に向上させました。一方、PXIの管理団体であるPXISA (PXI Systems Alliance) は、最新世代の一般的なPCバス技術を採用することで、PXIをPXI Expressへと発展させました。PXI Expressは、PXIに対する下位互換性を確保しながら、より広い帯域幅、電源、冷却機能、タイミング/同期機能を提供します。

PXIとPXI Expressはいずれも多くの機能を備えているので、一見すると複雑なものに見えるかもしれません。しかし、両技術の中核となっているのはPC向けのものとして主流になっている通信バスです。PXI/PXI Expressシャーシのアーキテクチャは、現在、測定システムやオートメーションシステムによく使われており、技術者にとってはなじみ深いものとなっています。

PXIは、PXISAが管理するオープンな規格です。そのため、どのベンダーでもPXIをベースとした製品を開発することができます。PXIシステムについて詳細に説明するために、本稿では、PXISAが定めた仕様とPXIをベースとするNIのハードウェアの実現方法に焦点を絞ることにします。

ハードウェア概要

PXISAが策定したハードウェア仕様では、機械的アーキテクチャ、電気的アーキテクチャ、ソフトウェアアーキテクチャに関連するすべての要件を規定しています。PXI Expressの仕様は、CompactPCI、CompactPCI Expressの各仕様を包含しています。図2は、CompactPCI、CompactPCI Expressの両仕様とPXIの主要な機能を、機械的/電気的にどのように統合して全体のアーキテクチャを構成しているのかを表しています。本稿では後ほど、これらの階層を細かく分けて、具体的に各部がどのようにしてPXIに適用されているのかを説明します。

PXIの全体的なアーキテクチャ

図2: PXIの全体的なアーキテクチャ

機械アーキテクチャ

機械的アーキテクチャでは、CompactPCI、CompactPCI Express、PXI、PXI Expressの間での物理的な互換性について定めています。例えば、PXIシャーシのいちばん左のスロットにはシステムコントローラを取り付けることが定められており、それがPCIバスのセグメントの左端になることが保証されています。このような規定によって構造が簡素化されます。また、このように位置を決めることでシャーシとコントローラのオプションの間で互換性が高まります。

PXIベースのシステムでは、外部のPCまたは組込コントローラをコントローラとして使用できます。組込コントローラは、高い集積度のCPU、ハードディスクドライブ、メモリ、Ethernet、ビデオインタフェース、シリアルインタフェース、USB、その他のI/O周辺機器といった標準的な機能を備えています。アプリケーションの開発は、外部のPCの場合と同様に、標準的なOSであるWindows環境で行うことができます。

図3: 組込コントローラは、スタンドアロン型の計測器や周辺機器とのインタフェース用にさまざまなI/O端子を備えている。

PXIの仕様は、高性能なIECコネクタと、CompactPCIやCompactPCI Expressで使用されている堅牢なEurocardパッケージシステムを採用しています。

図4: NI PXI-8430は、Eurocard規格に即したパッケージと高性能なIECコネクタを備えている。

このコネクタを介して、計測器はバックプレーンのバスを介してシステムの他の部分、たとえばPCIおよびPCI Expressバスと接続および通信します。これらのコネクタ構成は、仕様が最新の通信バスを含むよう進化しても、下位互換性を維持します。詳細については、「電気的アーキテクチャ」の節で説明します。

図5: 仕様では、PXIシャーシとの通信に使用するコネクタについて規定されている。

PXIの機械的仕様には、工業環境で確実にフル稼働できるように、CompactPCI/CompactPCI Expressよりも優れた冷却機能と環境機能が盛り込まれています。

PXIの機械的仕様ではPXIシャーシの冷却部について定めている

図6: PXIの機械的仕様ではPXIシャーシの冷却部について定めている。

電気アーキテクチャ

電気的アーキテクチャは、PCI、PCI Express、CompactPCI、CompactPCI Expressの各仕様と電源の要件に基づいて規定されています。また、高い性能が求められるテスト/計測でPXIプラットフォームを使用できるように、タイミング/同期機能が加えられています。

PXIシャーシの主要な電気的機能は通信バスです。PCIがPCI Expressに進化するにつれて仕様も進化し、PCI ExpressをPXIシャーシのバックプレーンに統合することで、PXIがさらに多くのアプリケーションニーズを満たすことができるようになりました。

PXIは、従来型の計測器でも利用できるよう、PCI通信 (一般的に使用されている32ビット幅のバスによるパラレルデータの送受信技術) にも対応しています。PCI機器の最大帯域幅またはスループットは132 MB/秒です。アプリケーションはより高い帯域幅を必要とするため、PCI Expressではレーンと呼ばれる送信接続と受信接続のペアを介してデータをシリアルに送信するよう定義されました。これにより、データは方向ごとに250 MB/秒で転送できます。このシリアル接続は「PCI Express Gen1 ×1のリンク」として知られています。帯域幅を増やすには、複数のレーンをグループ化し、×2、×4、×8、×16、×32のリンクを構成します。これらのリンクによって、コントローラと計測器のスロットを接続します。例えば、×16のスロットであれば、4 GB/秒 (250 MB/秒×16) でデータの送受信が可能です。PXIをベースとする従来型の計測器とPXI Expressをベースとする新型の計測器の互換性を確保にするために、PXIシャーシはPCIとPCI Expressの両方に対応しています。PCI Expressの仕様が次世代に進化していくのに伴い、PXIも下位互換性を維持しながら、新たな機能をPXIシャーシに搭載していくことになります。

図7: PXIシャーシの例としてNI PXIe-1085を取り上げた。PCI/PCI Expressラインの各スロットへのルーティングは、各スロットに取り付けるモジュールの種類によって異なる。

最新のPC技術に対応するためにシャーシの通信バスが変更されたことを受け、PXI周辺モジュールについてもPCI Expressの通信バス機能を利用できるようPXIからPXI Expressへと進化しました。PXIの仕様では、旧来のPXIモジュールとPXI Expressモジュールの間の互換性を確保するために、ハイブリッドスロットが追加されました。このスロットによって、PXI周辺モジュールに加え、PXI Express周辺モジュールもPXIシャーシに取り付けることができるようになりました。PXIシャーシには以下のスロットがあります。

  • 組込/リモートPXI Expressコントローラ用のシステムスロット
  • PXIモジュール用のPXI周辺スロット
  • PXI Express周辺モジュール、32ビットCompactPCI周辺モジュール、ハイブリッド互換PXI周辺モジュール用のPXI Expressハイブリッド周辺スロット
  • PXI Express周辺モジュールとPXI Expressシステムタイミングモジュールの両方に対応するシステムタイミングスロット

PXIシャーシのスロットの種類

図8: PXIシャーシのスロットの種類

PXI仕様では、PXIシャーシのバックプレーンを介して、あらゆる種類のモジュールを利用できるようにする技術を規定しています。

図9:PXIシャーシは最新の通信バスに対応する。通信バスは、周辺モジュールの要件に応じて、さまざまなスロットのオプションに対してルーティングされる。

電気的仕様では、通信バスのほかに、タイミングや同期の機能についても規定しています。そのなかには、システム内のすべての周辺モジュールに分配される10 MHzのPXIシステムクロックについての規定も含まれています。この共通の基準クロックは、測定/制御システムにおいて複数のモジュールの間で同期をとるために使用できます。またクロックのほかにも、マルチドロップトリガバスや、配線長を整合させたスタートリガネットワークなどのPXIのトリガ機能についても規定されています。8本のPXIトリガラインによりPXIトリガバスが構成され、これにより柔軟性が向上し、さまざまな方法で使用することができます。たとえば、複数のPXI周辺モジュールが動作する際、それらの同期をとるためにトリガを使用することができます。

図10: NI PXIe-1085シャーシにおけるPXIトリガバスの接続図。PXI周辺モジュールへのトリガの転送方法を表している。

電気的仕様では、高い性能が要求されるアプリケーションに向けて、PXIシステムに高性能の同期機能を加えるPXIスタートリガネットワークについて規定しています。スタートリガネットワークは、システムタイミングスロット (PXIのスロット番号はひし形、PXI Expressのスロットは四角で囲んで表示) とほかの周辺スロットとの間の専用トリガラインで実現します。スタートリガコントローラであるタイミング/同期モジュールをシステムタイミングスロットに取り付け、ほかの周辺モジュールに高精度のクロックとトリガ信号を分配します。タイミング/同期モジュールは、PXIシャーシが搭載するVCXOより精度の高いオンボードのTCXO/OCXO、専用DDS、外付けのルビジウム発振器を搭載しており、PXIシャーシ向けの周波数の高いシステム基準クロック、10 MHz/100 MHzのクロックを定義することができます。

図11: NI PXIe-1085では、スター接続図を使用することによって各スロットの伝搬遅延を整合させている。

図12は、PXIトリガバスとPXIスタートリガネットワークのスロット間のルーティングを表しています。SYNC 100はすべての機能の互換性を確保するために導入したもので、シャーシ内の10 MHzのクロックと100 MHzクロックの同期をとります。

図12: アプリケーションのニーズに応じて、タイミング/同期機能の最適な構成を選択できる。

ソフトウェア概要

PXIのソフトウェア仕様では、PXIプラットフォームの重要な要素であるソフトウェアアーキテクチャについて規定しています。PXIは、ソフトウェアによる定義に基づく計測手法をベースとしています。そのため、ハードウェア上には、ユーザがアプリケーション操作を行うためのディスプレイ、つまみ、押しボタンといった機能はありません。ユーザはソフトウェアからのみ、そうした制御を行うことができます。ソフトウェアフレームワークは、システムコントローラモジュールとPXI周辺モジュールの両方を対象としてPXIシステムのソフトウェア要件を規定しています。システムコントローラモジュールとPXI周辺モジュールは、PXIソフトウェアフレームワークに対応するOSやツール向けに特定の要件を満たす必要があります。

PXIソフトウェアアーキテクチャ

図13: PXIソフトウェアアーキテクチャ

PXIの仕様は、Microsoft Windows OSをベースとするPXIシステム向けにソフトウェアフレームワークを提供します。そのため、コントローラでは、NI LabVIEW、NI Measurement Studio、Visual Basic、Visual C/C++、Pythonなど、業界標準のAPI (アプリケーションプログラミングインタフェース) を使用できます。またPXIでは、モジュールやシャーシのベンダーから入手できる特定のソフトウェアコンポーネントが必要になります。PXIコンポーネントに対しては、システム構成およびシステム機能を定義する初期化ファイルが必要です。PXIでは、VXI (VME eXtensions for Instrumentation)、GPIB、シリアルインタフェース、PXIベースの計測器の構成と制御のために、最終的には計測分野で広く採用されているVISA (Virtual Instrument Software Architecture) に対応することが規定されています。

ソフトウェアの役割から見たPXIアーキテクチャの全体像

図14: ソフトウェアの役割から見たPXIアーキテクチャの全体像。

実例: PXIシステム内部における通信

PXIシステムの簡単な使用例を考えてみましょう。NI PXIe-5433などのPXIモジュールを使用して信号を生成します。Windowsベースのコントローラを使用し、LabVIEWソフトウェアを使用してプログラムを作成します。LabVIEWは、計測ドライバを介して計測器と通信を行うことができます。さらに、Measurement&Automation Explorer (MAX) を使用すれば、システムの通信に関する設定を確認することが可能です。

ハードウェア設定とソフトウェア環境の例

図15: ハードウェア設定とソフトウェア環境の例

通信を開始するには、LabVIEWで記述したプログラムを実行します。LabVIEWベースのプログラムでは、バックグランドで一連の命令が実行されます。通信は、以下のような手順で実行されます。

 

ステップ1: PXIシステムコントローラ上でLabVIEWを実行する

アプリケーション用のコードはコンパイルされ、マシンレベルのコードに変換されます。

 

ステップ2: PXIシステムコントローラは、LabVIEWで記述された一連のコマンドをPXI周辺スロットに取り付けられた計測器に送信する

PXIシステムコントローラのメモリとプロセッサ内で、マシンレベルのコードが電気信号に変換され、PCIまたはPCI Express通信バスに沿って渡されます。この例では、システムコントローラを周辺機器に接続するPXIシャーシバックプレーンに沿って実行されるのはPCI Express通信です。

 

ステップ3: シャーシのバックプレーン上の通信バスを介してコマンドが送られる

各信号は、PCI Expressの通信バスを介して、計測器が取り付けられたPXIスロットに送られます。

 

ステップ4: 計測器にコードが転送される

各PXIモジュールは、送信されてきたコマンドを読み込みます。この例では、NI PXIe-5433が信号を生成します。計測器はモジュール上の回路を使用して信号を読み込み、要求された動作を実行してから信号を生成して、モジュール前面のコネクタに転送します。

 

図16は、コントローラから、対象となるスロットに信号が送られる様子を表しています。

バックプレーンを介した信号の転送例

図16: バックプレーンを介した信号の転送例