多くの自動テストシステムで、スイッチング機能は重要な要素です。スイッチング機能を使用し、さまざまな計測で計測器を共有することで、開発者は必要な計測器の数を削減でき、テストシステムの規模を縮小できます。しかし、スイッチングは完全なソリューションを構築する場合に開発者が多大な労力を費やす部分で、設備投資コストでも主要な部分を占めます。実際、最新のテストシステムでは、スイッチングのためのサブシステムのコストが自動テスト装置 (ATE) ラック全体の40%を簡単に超えることがあります。
単純なレベルでは、スイッチングはリレーを使用して入力Aと出力Bを接続します。経路数がわずかなアプリケーションでは、開発者はソリューションを容易に実装できます。しかし、最近のテストシステムでは、多くの場合、各計測器をテスト対象ユニット (UUT) のすべてのテストポイントに接続するために、数百、あるいは数千もの個々の経路が必要になります。ハードウェアのレベルでは、開発者は柔軟性の高いマトリクススイッチを使用し、任意の入力を任意の出力に接続するように構成することで、この問題を解決できますが、ソフトウェアのレベルでは、これまで、この問題を解決するためのインテリジェントなスイッチ管理ソフトウェアは存在しませんでした。
経路が何通りもあることは、スイッチングの複雑さの1つにすぎません。スイッチングシステムでは、扱う信号のタイプもさまざまです。たとえば、RF、高帯域幅および低帯域幅の信号、電源、さらには光信号まで、さまざまな信号を混合したスイッチングシステムもあります。それだけでなく、スイッチングトポロジがより複雑になるにつれ、より大規模なスイッチ配列を形成するためにいくつかのマトリクススイッチを追加して併用する必要がある場合もあります。これらの結合モジュールには、配線による接続が必要です。配線による接続では、最初のモジュールのスイッチ行またはスイッチ列が物理的な配線によって接続され、その線がそれぞれ2番目のモジュールの行または列に接続されます。ここでも、従来のソフトウェアレベルでは、開発者にとって、可能な物理パスを一つひとつ記憶し、開発中のテストシステムでそのパスを効率的に使用することが困難でした。これらのシステムでは、スイッチモジュール、計測器チャンネル、UUTテストポイントの間のスイッチ接続を示すために、詳細で煩雑なドキュメントが必要になることがよくあります。
開発者は、完成したスイッチングシステムを修復またはデバッグする際にさらなる問題に直面します。大部分のテストシステムでは、スイッチング制御ソフトウェアが計測テストコードの内部に組み込まれているため、特定の経路を実装するための呼び出しを一つひとつ記憶したり、特定のリレーを使用するテストを一つひとつ再呼び出ししたりすることは、事実上不可能になることがあります。つまり、多くの場合、スイッチモジュールの数百あるリレーのうち、故障したのがたった1つであったとしても、故障したコンポーネントを回避しながら信号の経路を指定するようにシステムを再プログラミングするよりも、モジュールを交換してしまう方がコストを低く抑えることができるというジレンマがあります。
このように時間もコストも極端にかかる問題の解決策は、テストコードからスイッチング制御を抽出することです。これまで、この機能を提供するツールはいずれも非常にハイエンドなテストシステムを基盤としており、その導入には$100,000以上のコストがかかりました。別の方法として、テスト開発者は、構築、サポート、保守のために高額なソリューションを社内で開発する必要がありました。この問題を解決するために、NIはSwitch Executiveを導入しました。これは低コストかつ強力なツールであり、開発者はスイッチング経路の作成や保守を容易に行うことができ、スイッチングシステムをテストアーキテクチャにスムーズに統合できます。
NI Switch Executiveの主な利点として、開発スピードの向上、スループットの改善、テストシステムの保守にかかる手間の削減が挙げられます。これにより、テストシステムの構築と所有にかかるコストを大幅に削減できます。NI Switch Executiveは、スイッチングアプリケーションに必要な柔軟性と制御を実現した、使いやすい開発ツールです。さらに、NIはSwitch ExecutiveをNIのスイッチングデバイスまたはIVI準拠のスイッチングデバイスで動作するように設計しました。IVI規格に準拠して構築されているため、NI Switch Executiveはあらゆるタイプのスイッチモジュール (汎用、マルチプレクサ、マトリクスなど) で動作し、PXI、VXI、GPIB、SCXIなどの多くの異なる構成に対応しています。
NI Measurement & Automation Explorer (NI MAX) はSwitch Executiveのホストとなり、テストシステム内のNI製またはIVI準拠のハードウェアコンポーネントの構成を簡素化します。最初に、開発者はMeasurement & Automation Explorerでスイッチハードウェアを構成します。この構成情報はNI Switch Executive内の構成ユーティリティにシームレスに渡されます。
開発者はSwitch Executiveでスイッチングデバイスを選択して、チャンネルや経路にわかりやすいエイリアスを付けることができます。このような仕組みにより、スイッチベンダのアーキテクチャに依存しない単純な命名構造を指定することで、混乱の最大の原因の1つを即座に取り除くことができます。単純な構造を適用すると、ユーザは、スイッチの属性情報が提供されるインタラクティブなツールを使用して、経路や経路グループをすばやく構築できます。これらのツールを活用して、スイッチ帯域幅からインピーダンス、そして電力伝送能力まで、さまざまな信号要件をどのスイッチモジュールで処理できるかを見極めることができます。
Switch Executiveは操作が簡素化されているため、システムを迅速にセットアップし、容易にデバッグすることが可能で、非常に複雑なシステムでも構成時間を大幅に短縮できます。
ただし、その後、システム経路を実際のテストコードまたは計測コードに関連付ける必要があるため、経路の構成は全体の作業の半分にすぎません。システム開発におけるこのような関連付け作業を容易にするために、NIは、TestStandやLabVIEWをはじめ、弊社の多くのテスト開発ツールにSwitch Executiveインタフェースを統合しました。
NIは、ユーザがアプリケーションを迅速に開発してテスト期間を短縮できるように、緊密に統合されたソフトウェアツールのセットを構築しました。これらのツールを組み合わせることで、デバイスドライバ、アプリケーション開発環境 (ADE)、テスト管理ソフトウェアを包括する独自のプラットフォームを実現しています。
アプリケーション開発環境 (ADE) としては、LabVIEW、LabWindows/CVI、Measurement Studioなどのソフトウェアパッケージが挙げられます。NI Switch Executiveはこれらのツールに完全に統合され、シンプルな下位レベルのソフトウェア制御が可能になります。
テスト管理ソフトウェアは、テストや大規模なデータセットの管理、整理、実行を目的としたツールの集合体です。NI TestStandは、NIフレームワークの重要なコンポーネントであり、すぐに使用可能なテスト管理環境です。自動化されたプロトタイプ、設計検証、製造テストシステムを体系化して実行できます。TestStandは柔軟性が高く、開発者は自社のテストにおけるニーズの変化に対応するためにTestStandアプリケーションの設定を変更し、強化できます。TestStandを使用すると、構成されたすべてのコンポーネントがテストステッププロパティとして利用できるようになり、NI Switch Executiveとのスムーズな統合が可能になります。その結果、Switch Executiveの既存のスイッチング経路をTestStandシーケンス内の個々のステップに簡単に関連付けられるようになります。
自動テスト用の最新アーキテクチャは大部分がソフトウェアのモジュール性に基づいているため、コードの大規模な再利用が推奨されています。開発者は、レポート作成、データベース統合、ユーザ管理など共通機能を開発する必要がなく、開発対象の製品に必要な実際のテストに集中できます。図2に示すように、このアーキテクチャは通常、テストコードモジュールとして記述されたテストを格納して制御する、テスト管理ソフトウェアの仕組みを備えています。これらのモジュールは、デバイスドライバを介してハードウェアレベルを呼び出し、機能的な計測、スイッチング操作、あるいは制御信号の更新を行います。従来、スイッチングはテストコードモジュール内に組み込まれていました。そのため、システムが時間とともに進化するにつれ、その開発や保守が困難になってきました。しかし、図2に示すように、Switch Executiveは、スイッチング要件を抽出し、それらの要件をアーキテクチャ全体にわたって実装することを可能にしています。したがって、開発者は必要なレベルでスイッチングを適用できます。
図2:Switch ExecutiveとTestStandおよび個々のテストモジュールとの直接インタフェース接続
テストエグゼクティブソフトウェアであるTestStandを使用すると、開発者はテストに必要なすべての構成および計測を単一のTestStandステップにカプセル化できます。このステップは、値を設定するだけの簡単なものもあれば、完全なシステムテストのように複雑なものもあります。ただし、通常、TestStandステップにはUUTの1つの要素をテストするのに必要なすべての構成や計測が含まれます。この原則に従う限り、完全にモジュール式で再利用可能なコードを生成でき、将来の開発オーバーヘッドが軽減されます。ステップの集合体はシーケンスとも呼ばれ、開発者は非常に多くのシーケンスを作成して本格的なテストシステムアーキテクチャを構築できます。
Switch ExecutiveはTestStandと統合され、その構成はTestStandステッププロパティとして利用できるようになります。これにより、スイッチング操作をステップコードに統合することなく、スイッチング経路またはスイッチグループを非常に簡単にTestStandステップに関連付けることが可能になります。したがって、完全なシステムの構築や保守が容易になります。TestStandステップのスイッチングプロパティを図3に示します。
スイッチングをテスト管理システムに統合する代わりに、スイッチングをテストコードモジュールで保守する方法があります。このアプローチは、チャンネル数の少ないスイッチングシステムの開発者にとって実行可能なオプションです。そのようなユーザにとっても、NI Switch Executiveは、コードを簡素化し、実際のスイッチング経路の複雑さを排除できるという点で大きな利点があります。図4は、開発者が単純なスイッチング経路を実装する場合の方法を示す簡単なLabVIEWダイアグラムです。
NI Switch Executiveを介してLabVIEWでスイッチングを実装すると、LabVIEWコードが経路を名前で呼び出すため、開発者はスイッチマトリクスを通過する信号の物理的経路を変更できます。したがって、下位レベルのLabVIEW呼び出しに影響を与えずに、NI Switch Executive構成環境を介してスイッチパスを容易に更新できます。
多くのユーザにとって、テストコードを物理的な実装から切り離せることは長期保守やサポートのコストの大幅な節減を意味します。このようなコストは通常、開発全体に関わるコストです。このデュアルインタフェースアプローチを実装することで、リレーまたはスイッチモジュールがたった1つ故障しただけでもデバッグに膨大な時間がかかる状況を克服し、何百時間も削減することが可能になります。
Switch ExecutiveはIVIに準拠しているため、開発者はテストシステムに多くの異なるスイッチモジュールを結合し、システムの開発をより簡単かつ迅速に行えます。これらのモジュールでは完全な互換性が確保されるため、使用しているモジュールが廃止になった場合は代替品への交換が可能です。IVIは最新のテストアーキテクチャの主要な技術です。スイッチの購入前に、その製品にIVI準拠のドライバが付属しているかどうかをスイッチベンダに確認することが重要です。弊社をはじめ、Pickering、Ascor、Racal、Agilentなど多くの製造元は、スイッチモジュールにIVIドライバを同梱しています。
以下の図5は、IVIによってIVIクラスドライバ層がどのように提供されるかを示したものです。この開発者環境で共通インタフェースを呼び出すことができ、共通インタフェースはそのハードウェアに固有の正しい計測器ドライバを呼び出します。
スイッチハードウェアに使用できるプラットフォームはさまざまですが、現在最も一般的なプラットフォームはPXI、GPIB、SCXI、VXIです。IVIドライバまたはNI-SWITCHドライバのどちらかが付属していれば、Switch Executiveでこれらすべてのタイプのスイッチモジュールをまとめて操作できます。
スイッチングに使用する際、VXIデバイスおよびGPIBデバイスは一番サイズが大きく、スイッチ配列の数も多くなりますが、1リレーあたりのコストを比較すると通常はかなり高価です。このようにサイズが大きく処理の遅いソリューションの代わりに、PXIまたはSCXIのユニットを数台つなげて単一の「仮想」スイッチを構築する方法があります。Switch Executiveにより、配線接続をシステム記述に組み込むことで、より大規模なスイッチ構成の開発作業が非常に容易になります。従来は、開発者があるモジュールから別のモジュールへ行または列を拡張しようとする場合、そのためのプログラムをコードに記述する必要がありました。結果的に、全体的な構成が非常に理解しづらくなり、デバッグも困難になっていました。Switch Executiveを使用すると、配線接続は別に定義され、設計時に自動ルーティングによって配線接続がパスに簡単に統合されるため、開発からデプロイまでの時間とコストを削減できます。
PXIおよびSCXIのプラットフォームの利点は、容易に拡張できるモジュール式スイッチングシステムに特化して設計されていることです。たとえば、NI PXI-2532BマトリクススイッチモジュールとTB-2643B端子台を併用すると、リボンケーブルで複数のモジュールを相互に接続できます。このシンプルなアクセサリにより、個別の配線を手作業で行う場合に数時間かかっていたものがわずか数秒で完了します。また、配線ミスの可能性も完全に排除されます。図6は、この方法で接続された3つのNI PXI-2532Bスイッチモジュールを示したものです。
Switch Executiveを最新のテストアーキテクチャに統合すると、スループットを向上させ、システムの寿命期間にわたって保守の手間を最小限に抑えるとともに、テストシステムが製造現場で使用可能になるまでの時間を大幅に削減できます。
Switch Executive、TestStand、および上級の開発環境に基づいた最新のテストシステムアーキテクチャは、かつて$100,000以上のコストがかかったベンダ定義のハイエンドシステムでのみ利用可能であった技術を低コストで実現します。NIは、スイッチ管理およびテスト管理などの技術を、手頃な価格で、使いやすく、保守しやすいシステムとして提供することで、より広いユーザ層にお使いいただけるようにしました。この技術によりテストのコストが削減され、市場投入までの時間が短縮され、市場での競争力が高まります。