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電源​の​基礎: 動作モード、リモートセンス、リプルおよびノイズ

概要

プログラマブルDC電源は、接続するデバイスに電力を供給する必要不可欠なツールです。ソースの場合、電力は電源で生成され、検査対象デバイス (DUT) で消費されます。シンクの場合、電力はDUTで生成され、電源で消費されます。 プログラマブル電源を選択する際には、定電圧モード、定電流モード、リモートセンス、絶縁などの利用可能な機能について理解することが重要です。 続いて、これらの機能が重要な理由と、それらをテストシステムや測定システムに組み込む方法について説明しましょう。

内容

プログラマブルDC電源とは

DC電源は、デバイスに接続してDC電力を供給する機器として、研究、設計、開発、製造の分野で一般的に利用されています。電源に接続されるデバイスは、状況に応じて、負荷、検査対象デバイス (DUT)、または被試験装置 (UUT) と呼ばれることがあります。DUTの特性を評価するため、またはDUTが想定どおりに動作しているかをテストするために、多くのDC電源は、電力を供給すると同時に、DUTが消費する電圧または電流を測定する機能を備えています。通常、電源は定電流または定電圧を供給し、その結果生じる電圧降下または電流引き込みを監視します。プログラマブルDC電源は、デバイスとの通信にコンピュータを使用することで自動化できます。プログラマブルDC電源には、出力シーケンスや測定値をオンボードメモリに保存できるものもあれば、即時の操作のみを処理できるものがあります。

図1. ほとんどのDC電源は、正の電圧と正の電流を供給する第一象限、または負の電圧と負の電流を供給する第三象限で動作する

図1のI-V図において、ほとんどのDC電源は、正の電圧と正の電流を供給する第一象限、または負の電圧と負の電流を供給する第三象限で動作します。DC電力の計算式はP = V x Iです。第一象限では電圧と電流は共に正であり、第三象限では電圧と電流は共に負です。どちらの場合も、電力の公式に数値を代入すると、ソースと呼ばれる正の電力出力が得られます。第二象限および第四象限で動作する場合は、シンクと呼ばれる負の電力出力が得られます。ソースの場合、電力は電源で生成され、DUTで消費されます。シンクの場合、電力はDUTで生成され、電源で消費されます。

ソースメジャーユニット (SMU) と呼ばれるデバイスは、4つすべての象限で電力のソースとしてもシンクとしても動作できます。SMUは理想的な充電式バッテリと見なすことができます。バッテリを充電器に接続すると、バッテリは充電器から電力を引き込みます (シンクします)。その後、バッテリを充電器から外して懐中電灯の電源として使用すると、バッテリは電球に電力を供給するソースになります。SMUは一般に、バッテリ、太陽電池、電源、DC-DCコンバータ、またはその他の発電デバイスの特性評価に使用されます。

DC電源とSMUでもう1つ異なる重要な点は精度です。アプリケーションによっては、特に要求が厳しく、一般的な電源よりも高い精度を必要とする場合があります。SMUは一般にµVまたはpAレンジの高精度を備えています。そのため、ソース値と測定値の確度が重要であり、アプリケーションで標準的な電源を超える感度が必要なケースでは、多くの場合、SMUの使用が選択されます。 アプリケーションにとって精度が重要な場合は、確度、感度、精度、およびノイズについて解説したNIのホワイトペーパー「サンプリング​の​品質」を参照してください。

電流モード電圧モード違い

ソース電力とシンク電力の違いを理解することも重要ですが、それに加えて、定電圧モードと定電流モードの違いを理解することも重要です。プログラマブルDC電源は、目的の出力レベルや負荷条件に応じて、定電圧モードまたは定電流モードで動作できます

電圧モード

定電圧モードは電圧制御モードとも呼ばれます。電源は電圧源のように動作し、出力端子間の電圧を一定に保ちながら、負荷条件に応じて電流出力が変化します。負荷抵抗が変化した場合、オームの法則 (V = I x R) により、電源の出力電圧レベルを維持するために、供給される電流も比例して変化する必要があります。DUTの抵抗が急激に低下すると、電源は電圧を一定に保つために電流を増やします。

プログラマブルDC電源を使用する場合、必要な電流制限を設定することができます。プログラムされた許容電流制限よりも多くの電流を負荷が引き込もうとすると、電源は準拠動作を開始します。つまり、ユーザがプログラムした電流制限に反しない限り、電源は要求された出力電圧レベルに到達できなくなります。このとき、電源は定電流モードに切り替わり、電流は電流制限値に保たれます。この境目となる負荷抵抗レベルのことを準拠抵抗と呼び、電圧設定値を電流制限値で割ることで算出できます。準拠抵抗は他の一般的な名称として、臨界抵抗、クロスオーバー抵抗とも呼ばれます。

たとえば、DUTに一定電圧の5 V (VS = 5 V) を供給したいとします。通常、これは50 Ω の負荷抵抗 (RL = 50 Ω) を与えます。また、DUTの損傷を防ぐために、電流出力を300 mA (IS = 0.3 A) に制限するとします。準拠抵抗の式 (RC = VS / IS) を用いると、出力を定電圧モードで動作させるための最小負荷抵抗は16.67 Ωと算出されます。負荷抵抗が変動しても16.67 Ωを上回る状態が保たれる場合、電源は一定の5 Vを供給し続けます。DUTに障害が発生し、負荷抵抗が16.67 Ωを下回ると、電源は準拠動作を開始して、定電流モードに切り替わり、5 V未満の電圧レベルで安定した300 mAを出力します。

図2. 定電圧の出力ではDUTを保護するために電流制限を設定可能

電流モード

定電流モードは、本質的には定電圧モードの逆です。定電流モードは電流制御モードとも呼ばれます。電源は電流源のように動作し、出力端子を流れる電流を一定に保ちながら、負荷条件に応じて出力電圧が変化します。オームの法則により、負荷抵抗が変化した場合、定電流を維持するために電圧も適切に変化する必要があります。前の例で、DUTが故障して負荷抵抗が低下すると、電源は出力電圧を比例して低下させ、電流を一定に保ちます。たとえば、大電流で損傷する可能性のあるLEDを制御する場合は、定電流動作が望ましいと言えます。

定電流モードもまた、設定可能な電圧制限値によって制限され、定電圧モードと同様の準拠抵抗が課せられます。定電圧モードの場合と同じ計算を使用して、定電流動作の準拠抵抗を算出できます。ただし、定電流モードでは、目的の定電流を維持するために、負荷抵抗を準拠抵抗より小さく保つ必要があります。図2は、定電圧モードと定電流モードの両方の準拠抵抗の概念を示しています。

定電圧動作と定電流動作の両方を必要とする独自のアプリケーションとして、リチウムイオンバッテリの充電があります。リチウムイオンバッテリは、エネルギー密度が高い、メモリ効果がない、未使用時の充電損失が緩やかなどの理由から、携帯電子機器で一般的なタイプの充電式バッテリとして利用されています。リチウムイオンバッテリを充電する際、電源は、バッテリが最大電圧に達するまでバッテリ電圧レベルを監視しながら、定電流を印加します。バッテリが完全に充電されると、電源は定電圧モードに切り替わり、バッテリを最大電圧に保つのに必要な最小電流を供給します。

プログラマブルDC電源による測定

ほとんどのプログラマブルDC電源は、生成される電流と電圧を測定するという重要な機能を備えています。この機能は、I-V曲線のトレースなど、複数の電圧設定値について電流引き込みを測定する必要がある数多くのアプリケーションにとって不可欠です。プログラマブルDC電源の測定動作は、デジタルマルチメータ (DMM) の測定機能に似ています。他の測定デバイスと同様に、測定の速度を重視するか、または測定時に発生するノイズ量を重視するかの間でトレードオフがあります。

このような測定を行う場合は、環境に適した測定方法を備えたプログラマブル電源を選んでください。たとえば、NIでは、数多くの一般的なプログラミング言語のAPIを備えたNI-DCPowerや、簡単で効率的な対話式測定が行えるInstrumentStudioを提供しています。 

リモートセンス使用した確度電圧測定

高精度電圧のソースまたは測定を高確度で行う際に問題となるのは、リード線抵抗がDUT側の電圧に及ぼす影響です。リード抵抗は常に存在しますが、非常に長い、細いゲージのワイヤを使用する場合に、問題となる可能性があります。表1は、さまざまなゲージでの銅線の標準的な抵抗を示しています。通常は数オーム程度ですが、そのような小さい抵抗でもDUTが受ける電圧に大きな影響を及ぼす可能性があり、特にDUTの内部抵抗が小さいほど顕著になります。

表1. ワイヤのリード抵抗は、DUTが受ける電圧に大きな影響を与える可能性がある

図3は、電源ソース計測器、リード線、電源に接続するDUTで構成された汎用回路図を示しています。この例のリード線は長さ24フィートの26 AWG銅線で、電源をDUTに接続すると正と負の両方のリード線で抵抗が約1 Ωになります。電源から流れる電流により、Rlead1とRlead2の両端で電圧降下が生じ、RDUTの両端の電圧がVsourceよりも低くなります。

図3. これは一般的なプログラマブルDC電源の接続図の例で、DUTが受ける電圧の計算に使用できる

電源の出力を5 Vに設定し、DUTのインピーダンスを1 kΩとした場合、DUTの端子の電圧は以下の式で求めることができます。

最初の例では、実際の電圧は4.99 Vです。一部のデバイスではこのような小さな変化が問題にならない場合もありますが、動作電圧に基づく高精度な特性解析を必要とするアプリケーションでは、この誤差が極めて重要となることがあります。加えて、入力インピーダンスが低いために大量の電流を引き込むデバイスでは、DUTの実際の電圧が電源の出力の電圧よりもかなり低くなる可能性があります。表2は、入力インピーダンスの低い方の値に基づくDUT側の電圧値を示しています。

表2. 入力インピーダンスが低いデバイスでは、リード線抵抗が原因で、DUT側の電圧が電源の出力の電圧よりもかなり低くなる可能性がある

リード線抵抗による電圧誤差は、リモートセンスによって解決することができます。これは4線式センスとも呼ばれます。この手法では、電圧をDUTで直接測定し、それに応じて補正を行うことにより、リード線抵抗全体の電圧降下を明確にします。この方法は、DMMが抵抗測定からリード線抵抗の影響を取り除くために4線式の抵抗測定を行うのと同様です。ほとんどの電源、SMU、およびDMMはどれも2個の出力端子を余分に搭載しているため、この4線式リモートセンスが可能となっています。これらの余分な端子は、DUTに直接接続されています (図4を参照)。リモートセンスに使用するワイヤにもリード線抵抗は存在しますが、電圧測定は高インピーダンスであるため電流がワイヤ上を流れることはなく、電圧降下も発生しません。

図4: リモートセンスは4線式の接続手法であり、リード線抵抗の影響を取り除くことが可能

DC電源一般仕様

リプルおよびノイズ

アプリケーションで使用するプログラマブルDC電源を検討する際には、出力のリプルとノイズを考慮することが重要です。これらはPARD (Periodic and Random Deviation) と呼ばれることもあります。真のノイズはランダムであり、周波数ドメインで見ると全周波数域に広がっています。一方、リプルは通常は周期的です。リプルは、コンセントのAC電力を目的のDCレベルに変換するために必要なAC-DC整流から生じます。電源で使用される整流のタイプに応じて、リプルには1つまたは2つの基本周波数が存在します。

DC電源は通常、リニアまたはスイッチング整流を使用して50/60 HzのAC電源をDC電力信号に変換します。リニア安定化電源は、AC-DCトランスを使用してライン電圧を安定したDC出力に変換します。そのため、リニア安定化電源の電圧出力には一般に、余分なノイズに加えて、50/60 Hzの低周波リプルが存在します。リニア安定化電源は通常、リプルとノイズが低くなりますが、効率も低く、大型になり、発熱量が多くなります。これに対して、スイッチング電源は50/60 Hzの電流をはるかに高い周波数に変換するため、50/60 Hzの低周波リプルに加えて、周期的な高周波リプルが発生します。一般に、スイッチング電源の方が小型で発熱が少なく効率的ですが、高周波ノイズの影響を非常に受けやすくなります。図5は、高周波リプルとランダムノイズを示しています。

図5. 電源では、ノイズは通常ランダムで全周波数域に広がる。一方、リプルは周期的

さらに、プログラマブルDC電源からの伝送は、環境ノイズの影響を受ける可能性があり、これがシステム固有のノイズに加わります。環境ノイズの影響を軽減するには、可能な限りシールドされたツイストペアワイヤを使用することが重要です。

立ち上がり時間および時間

立ち上がり時間と整定時間は、電源が目的の電圧レベルに到達して安定化する能力を示す重要な指標です。具体的には、立ち上がり時間は、出力が構成済み出力の10%から90%へと移行するまでに要する時間です。整定時間は、立ち上がり時間を含めて、出力チャンネルが最終値の指定されたパーセンテージ内に安定するまでにかかる時間を表します。

図6は、0 Vから10 Vまで変化する電源出力の立ち上がり時間と整定時間の両方を示しています。

図6. 立ち上がり時間と整定時間は、電源が目的の電圧レベルに到達して安定化する能力を示す重要な指標

立ち上がり時間と整定時間は、測定時間に直接影響を及ぼす可能性があり、次の測定を行う前に回路が過渡状態から回復するまで余分な時間を必要とするため、電源の重要な仕様となります。測定時間は、自動テストシステムなど、測定時間を短縮することで全体的なコストも削減できるケースでは特に重要です。

過渡応答

過渡応答とは通常、もともと平衡状態にあったシステムに変化が生じた際のシステムの応答を表します。DC電源の場合の過渡応答は、定電圧モードで動作している電源が負荷電流の突然の変化にどのように応答するかを表します。電流パルスなどの負荷電流の変化は大きな電圧過渡の原因となります (図7を参照)。電源の内部制御回路によって負荷電流の変化が補正されると、電圧は目的のレベルに戻ります。電源の過渡応答は、過渡が電圧設定値の特定のパーセンテージ内に回復するまでにかかる時間として指定されます。通常は、負荷電流が50%変化した後に電圧設定値のパーセンテージにまで回復するのに要する時間として指定されます。たとえば、負荷電流が50%変化した後に50 µs以内に元の電圧設定値の0.1%にまで回復できるデバイスがあります。

図7. 電流パルスに対する過渡応答

実際のアプリケーションでは、DUTの抵抗が突然低下して電流パルスが発生した場合、電源の内部制御回路によって負荷の変化が補正される前に、過渡電圧ディップが発生します。立ち上がり時間や整定時間と同様に、電源の過渡応答仕様もまた、測定時間に影響を及ぼす可能性があるため重要です。過渡応答と負荷に関する注意事項の詳細については、ホワイトペーパー「電源のライン・負荷変動とカスケード接続に関する考慮点」を参照してください。

絶縁

絶縁は、測定デバイスやソースデバイスの2つの部分を物理的および電気的に切り離すことを指します。電気絶縁では、2つの電気装置間を仕切ってグランドパスを遮断します。電気絶縁を行うことにより、グランドループを切断し、電源のコモンモード範囲を増加して、信号のグランド基準を単一のシステムグランドにレベル変化させることができます。電源の絶縁仕様は、電圧と電流のレンジを拡張する目的で電源の出力をカスケード接続することを検討している場合に特に重要です。これについては、ホワイトペーパー「電源のライン・負荷変動とカスケード接続に関する考慮点」で詳しく解説しています。

最も堅牢な絶縁トポロジは、チャンネル間絶縁です。このトポロジでは、各チャンネルは互いに絶縁されているほか、非絶縁システムコンポーネントからも絶縁されています。さらに各チャンネルには、独自の絶縁された電源があります。

適切プログラマブル電源選択

NIは、ラックマウントシステム向けとPXI Expressシステム向けの両方のプログラマブル電源を提供しており、ここまで説明したことをすべて実行できます。

PXIプログラマブル電源は、1つのPXIスロットで最大120 Wの電力を供給でき、テストシステム内の貴重なラックスペースを節約します。これは完全にプログラム可能な電源であり、計測器をDUTから絶縁する出力切断リレーと、システム配線の損失を補正するリモートセンスを備える他、PXIプラットフォームを介してタイミングと同期の機能が統合されています。 

所要電力がより高出力の場合は、プログラム可能なDC電源をフルサイズまたは1/6ラック幅のラックマウントフォームファクタで供給するNIのプログラマブル電源装置をお選びください。 プログラマブル電源装置は、シングルチャンネルのラックマウントDC電源です。 モデルによっては、コンパクトな構成で数百ワットの電力を供給でき、複数の電源レールを必要とするテストシステムに最適です。

電源​の​基礎: まとめ

  • プログラマブルDC電源は、デバイスに接続して電力を供給する機器として、研究、設計、開発、製造の分野で一般的に利用されています。
  • ソースの場合、電力は電源で生成され、DUTで消費されます。シンクの場合、電力はDUTで生成され、電源で消費されます。 
  • DC電源は第一象限または第三象限で動作します。SMUは4つすべての象限で動作します。
  • プログラマブルDC電源は、定電圧モードまたは定電流モードのいずれでも動作できます。 
  • 定電圧モードでは、電源は電圧源のように動作し、出力端子間の電圧を一定に保ちながら、電流出力が変化します。
  • 定電流モードでは、電源は電流源のように動作し、電流を一定に保ちながら、出力電圧が変化します。
  • 負荷が準拠抵抗を超え、電流または電圧の制限を超えると、電源は準拠動作を開始します。
  • リモートセンスは4線式の接続手法であり、リード線抵抗の影響を取り除くことができます。
  • リプルは、コンセントのAC電力を目的のDCレベルに変換するために必要なAC-DC整流から生じる周期性ノイズの一種です。
  • 立ち上がり時間整定時間は、電源が目的の電圧レベルに到達して安定化する能力を示す重要な指標です。
  • 過渡応答は、定電圧モードで動作している電源が負荷電流の突然の変化にどのように応答するかを表します。
  • 電気絶縁を行うことにより、グランドループを切断し、電源のコモンモード範囲を増加して、信号のグランド基準を単一のシステムグランドにレベル変化させることができます。