NI LabVIEWCompactRIO使用した2008北京五輪会場構造ヘルスモニタリング

Chris McDonald, CGM Engineering, Inc.

「コンピュータプラットフォームとしてLabVIEWCompactRIO採用したため、極めて確度柔軟性れ、コスト効率高いモニタリングシステムデプロイすることできした」

- Chris McDonald, CGM Engineering, Inc.

課題:

構造ヘルスモニタリング (SHM) によって、北京五輪会場を含む中国各地にある複数の大型構造物の安定性、信頼性、居住適性を特定する。

ソリューション:

NI LabVIEWグラフィカルプログラミング環境とNI CompactRIOハードウェアプラットフォームを使用して、構造物の重要点をモニタする時間ベースのGPS同期による高精度SHMシステムを設計した。

地震や台風、火災、爆破事件などで人命や財産が失われる最も大きな原因は、建造物の損傷や崩壊です。そのため、世界中の技術者はそのような事故や災害による惨事を防ぐため、構造モデルの検証や構造設計の繰り返し作業を常に行っています。

 

 

地震への備えや災害軽減対策を管理する中国の政府機関、中国地震局 (CEA) は2004年、新たに建築された7つの大型構造物を構造ヘルスモニタリング (SHM) テクノロジの試験台として選定しました。その7つとは、北京の2008年夏季五輪会場 (北京国家体育場と北京国家遊泳センター)、104階建ての上海国際貿易センター、66階建てのパークハイアット北京、四川省にある240 mのアーチ式コンクリートダム、汕頭にある8266 mの斜張橋、そして北京にある免震構造のCEAデータセンターです。

 

この大規模な土木工学プロジェクトは、コンピュータ、センサ、通信テクノロジを活用して、安定性や信頼性、居住適性といった構造ヘルスの特性をリアルタイムでモニタする最新式ソリューションを開発することを主な目的としています。

 

カリフォルニアを拠点とするCGM Engineering社は、このプロジェクトのソリューション開発の国際入札をリモートデモにより勝ち取りました。そのデモでは、ペーパークリップをテーブルに落とした時に生じる振動を検出するリアルタイムクライアントアプリケーションを提示しました。その後同社は、CompactRIO組込コントローラを使用して、CEA向けにリモートネットワークモニタリングを採用した64チャンネル9台と36チャンネル2台の組込モニタリングシステムを設計しました。

 

 

連続リアルタイム構造ヘルスモニタリング実行

LabVIEWCompactRIOを利用した同社のシステムは、構造物の振動のサインを捉えて構造特性に生じた何らかの急激な変化を検出するよう設計されています。検出される振動は、地質波からイベントの観客まで、さまざまな刺激により起こる可能性があります。心臓専門医が脈拍や血圧を測って心臓病を診断するのと同様に、構造エンジニアは固有周波数、減衰比、加速度計が計測する加速時間履歴から得たヒステリシスダイアグラムを連続的にモニタすることで、構造性能を特定します。たとえば、地震によって高層ビルの梁や柱といった主要構造部材に変形が生じた場合、その固定周波数 (剛性関数) の減少が見られる可能性が高くなります。

 

システムの主な要件には、連続モニタリングとリアルタイムモニタリングの2つがあります。ほとんどの災害は予期せぬ時に突然発生するので、突発的な災害に対する危機管理と効果的な行動には、有害事象発生時および直後の構造物の状況に関するリアルタイムの知識が必要です。また、構造物の健全性は時間の経過とともに徐々に劣化するため、連続モニタリングを行うことで何らかの変化を以前の記録と比較して、劣化の兆候を早い段階で捉えることができます。

 

 

LabVIEWCompactRIO構造ヘルスモニタリングシステム開発

同社では、NIプラットフォームを使用して、CEAのSHM要件を満たした2種類のカスタムシステムを開発しました。64チャンネルのシステム9台と36チャンネルのシステム2台を堅牢なNEMAエンクロージャでカプセル化されたクライアントサーバアーキテクチャで構成し、中国各地にある6か所の構造物の重要点にデプロイしました。システムは、-40~+70℃の温度と高湿度環境での動作を可能にするケースに収めました。

 

9台の64チャンネルデバイスはそれぞれ3台、2台の36チャンネルデバイスにはそれぞれ2台のCompactRIOシステムが使用されています。また、各デバイスには振動測定用の複数の加速度計と、リアルタイム同期用のGPS受信機も設置されています。LabVIEW FPGAモジュールとGPS同期クロックを使用して、シャーシ間で±10 µs以下のリアルタイム同期を実現しました。GPS信号が届かない地域では、コンピュータクロックを使用してシステムを同期できます。また、LabVIEW Real-Timeモジュールを使用してユーザ定義によるフィルタ処理を行い、システムの低周波数測定の確度を高めるとともに不要なノイズを除去します。

 

集録したデータは、各システムの組込シングルボードコンピュータ (SBC) に保存されます。LabVIEWシェア変数エンジンをシステムソフトウェアアーキテクチャで使用することで、複数のユーザが組込SBCからインターネット経由でリモートアクセスし、記録されたデータをリアルタイムで同時に解析することが可能となります。また、単変量/多変量アーキテクチャを使用して、オフラインユーザにイベントの発生をEメールで通知するようシステムを構成することもできます。

 

NIソフトウェア/ハードウェア使用したシステムメリット

CEAがLabVIEWを使用した同社のソリューションを採用したのには、いくつかの理由がありますが、特に重要な要素として、極めて精度の高いリアルタイムGPS同期機能と、世界のどこからでもデータにリモートアクセスできる機能の2つがあげられます。また、チャンネルあたりのコストも同社のシステムなら最も低く抑えることができます。CompactRIOとモジュール式のNI CシリーズI/Oハードウェアをベースに設計した同社のシステムでは、最大128チャンネルまでの任意のチャンネル数に対応できます。チャンネルあたりの平均コストは、16ビットシステムで約500米ドル、24ビットシステムで約800米ドルです (センサを除く)。GPS同期を利用すれば、さらにチャンネル数を増やすことができます。さらに、さまざまな商用I/Oオプションが利用でき、セットアップがシンプルなため、システム要件の変化に伴い再構成するのも簡単です。

 

同社では、NIのソフトウェアとハードウェアを使用したことで、GPS同期機能付きの多チャンネルSHMシステムを1年以内に設計、試作、デプロイすることができました。コンピュータプラットフォームとしてLabVIEWとCompactRIOを採用したため、極めて高確度で柔軟性に優れ、コスト効率も高い組込モニタリングシステムを実装することができました。この組み合わせで構築したシステムは、システムあたりのコストは最少でありながら、当初想定していたより10倍もの精度を実現できる設計となっています。

 

中国における構造ヘルスモニタリング今後

世界銀行によると、2015年までに世界で新たに建設される建築物の半分は、中国で建設されるとのことです。米国のような国にある大型構造物の多くは、高度なモニタリングシステムが開発される以前に建てられているため、それらの建築物をモニタし研究を行うことで、今後建てられる建築物の安全性をも高め、究極的には惨事で失われる命を減らすことにつながります。

 

 

 

投稿者​情報:

Chris McDonald
CGM Engineering, Inc.
882 N. Fairoaks Ave
Pasadena, CA 91103
米国
電話: 626-441-3884
cmcdonald@cgmeng.com

2008年夏季五輪の主会場、北京国家体育場の安定性、信頼性、居住適性を、LabVIEWとCompactRIOで構築した構造ヘルスモニタリングシステムがモニタしている。
LabVIEWとCompactRIOを利用した同社のシステムは、構造物の振動のサインを捉えて構造特性に生じた何らかの急激な変化を検出するよう設計されている。
各ユニットは、2~3台のCompactRIOシステム、振動計測用の複数の加速度計、リアルタイム同期用のGPS受信機で構成されている。
同じく2008年五輪の主会場である北京国家遊泳センターには、CGM Engineering社のSHMシステムが2台設置され、構造ヘルスのモニタリングを行っている。
四川省にある240メートルのアーチ式コンクリートダムは、LabVIEWを利用したSHMシステムでモニタされている。