計測器制御の世界では、20年以上にわたり2つのバスが優勢を占めてきました。1つは、主に科学機器や解析装置の制御に使用されるRS232シリアルバスで、もう1つは主に従来のテストおよび計測機器に使用されるIEEE 488 GPIBです。
RS232ポートは世界各地のデスクトップとノートブックの両方のコンピュータに搭載されていますが、GPIBを通じて計測器を制御するには、特別なコントローラハードウェアを使用する必要があります。計測器制御ハードウェアの選択を検討する際、多くの科学者やエンジニアはGPIBインタフェースを単なる商品とみなし、すべてのコントローラが同等だという間違った考えにより、価格のみに基づいて選択してしまいがちです。
このホワイトペーパーでは、GPIBコントローラハードウェアの3つの主要な差別化要因について解説します。また、より生産性と効率性の高いアプリケーション開発から、信頼性に優れた高速なアプリケーション実行、安心をもたらすデバッグとメンテナンスに至るまで、テストおよび測定システムのあらゆる領域を大幅に改善できるハードウェア機能とソフトウェア機能についても説明します。
お使いの計測器制御システム用にGPIBコントローラを購入する際には、NIのGPIBコントローラが3つの主な領域においてメリットを提供していることにご注目ください。それにより、開発から生産、保守に至るまで、システムのライフサイクル全体にわたって時間と費用を節約できます。この3つの領域は以下のとおりです。
本ホワイトペーパーの残りの部分では、GPIBコントローラハードウェアのこれら3つの重要な領域に焦点を当て、これら各領域で明確なメリットが得られるNIのGPIBハードウェア/ソフトウェアの具体的な機能について解析します。さらに、NI以外のGPIBハードウェア製品との比較を通して、時間と費用の両方におけるNIソリューションのメリットを解説します。
先に進む前に、上記の3つは別々に説明してはいますが、完全に切り離して考えることはできないという点に留意してください。たとえば、ドライバに高い信頼性と堅牢性を持たせようとすると、余分な内部オーバーヘッドが生じて性能に悪影響を及ぼす可能性があります。GPIBソフトウェアとハードウェアの最高の組み合わせとは、最適な性能、信頼性、生産性を実現する絶妙なバランスを保っているシステムのことです。
GPIBハードウェアの全体的な性能を判断する際、最も明確な仕様は、ボードの定格スループットです。たとえば、ボードの最大スループットが700 kB/秒か、1.5 MB/秒または8 MB/秒かという点です。ただし、定格の他にも重要な要素がいくつかあります。これからそれらの要素について詳しく解説します。これらの要素は、1) ハードウェアの速度、2) ドライバの速度という2つの領域にまとめることができます。
ボードの最大スループット定格値は、ボードがGPIBでデータを転送できる最も高速なスループットを示しているため、非常に重要です。転送が速いほど、短時間でより多くのデータを転送できます。1つの製品のテスト時間を数ミリ秒短縮することが大幅なコスト削減につながるような生産テスト環境では、これが非常に重要になることがあります。また、異なる転送サイズにおけるGPIBボードのデータ転送速度を確認しておくことも重要です。たとえば、使用するデータブロックが大きい場合と小さい場合で、ボードの性能に違いはないでしょうか。さまざまなデータ転送ブロックサイズで、ボードのスループット応答は一貫性を保っているでしょうか。図1は、さまざまなデータブロックサイズでのNI PCI-GPIBの性能を示しています。
チャートからもわかるように、NI PCI-GPIBの最大転送レートは1.5 MB/秒を超え、一般的な転送サイズである500 Bの転送ブロックサイズの場合、転送レートは1 MB/秒超に到達します。さらに、転送ブロックサイズが500 B未満であっても、ボードは優れた性能を発揮します。
NIはカスタム設計のGPIB ASICを採用することで性能を大幅に向上しました。1997年以降に設計されたすべてのNIハードウェアで、NI TNT GPIB ASICが使用されてきました。NI TNT ASICには、IEEE 488.2コントローラ/トーカ/リスナ機能の実行に必要なカスタムNAT4882回路に加え、Turbo488性能強化コアと、必要なGPIBトランシーバが組み込まれています。さらに、NI TNT ASICにはオンボードFIFOが含まれ、DMA転送に対応しているので、GPIB転送の実行中もPCは他のタスクに集中でき、CPU時間を節約することが可能です。
対照的に、多くのGPIBサプライヤはFPGAでGPIB機能を使用しています。ただし、それらのFPGAには、NI TNT ASICのような性能強化機能が組み込まれていません。そのうえ、多くの低価格ボードはDMA非対応で、オンボードFIFOも搭載していないため、ハードウェアの速度が遅くなります。
NI TNT ASICは、性能を向上させる追加機能も提供します。NI TNT ASICはIEEE 488.1 T1遅延時間に厳密に準拠することで、計測器によってデータが失われず、転送ができるだけ効率的に行われるようにします。さらに、NI TNT ASICはハンドシェイク信号への応答時間を大幅に高速化します。最後に、NI TNT ASICは、IEEE標準488.1-2003で定義される高速ハンドシェイクプロトコルであるHS488に対応します。HS488プロトコルは、最大8 MB/秒のデータスループットレートを定義します。NIのGPIBコントローラをHS488対応の計測器に接続することで、ユーザはHS488を活用できます。
NI PCI-GPIBと他のプロバイダのPCIベースのGPIBコントローラについてハードウェア性能を比較すると、NIの利点が明確になります。メーカーが評価した性能に加え、被試験装置にプログラム可能な電子負荷を加え、応答をオシロスコープで読み取るテストを行いました。これらの計測器は、非常にシンプルなソフトウェアアプリケーションによって制御されています。このアプリケーションは柔軟性が高く、計測器との間で大きいブロックや小さいブロック、また大小の混合データをやり取りすることができます。NIのGPIBハードウェアの性能と低価格GPIBボードの性能を比較すると、使用しているボードに応じて、性能を5~30パーセント向上できることがわかります。これは大きなメリットです。たとえば、10時間のシフトで、デバイス1台あたりのテスト時間が20秒の場合、性能が5~30パーセント向上すれば、110~820台多くのデバイスをテストできるということになります。このメリットを週に5日の勤務で考えると、570~4120台多くのデバイスをテストできるということになります。
GPIBボードの全体的な性能を判断するうえで、最も重要な要素はハードウェアの速度かもしれませんが、ドライバの速度もまた、ボードの実行全体において非常に重要なもう1つの観点です。ドライバのアーキテクチャがどれだけ的確に設計されているかによって、さまざまなタイプのGPIB呼び出し (GPIBデータ転送やGPIBバス管理呼び出し、エラー処理を含む) をどの程度効率的に処理できるかが決まります。
ドライバが処理する重要なタスクの1つは、シリアルポーリングです。GPIB標準では、コントローラがシリアルポーリングに対応している必要があります。シリアルポーリングでは、GPIBバス上の各デバイスをポーリングし、どのデバイスがサービスを要求したかを判断します。アプリケーションは、バス上のどのデバイスがサービスを要求しているかを判断するために、一定の時間をシリアルポーリングに振り分ける必要があります。NI-488.2ドライバは非常に効率的な方法でこれを実装するほか、自動ポーリングメカニズムも搭載しています。それにより、ドライバはアプリケーションとプロセッサのアイドル時間を活用し、バックグラウンドでシリアルポーリングを実行します。自動ポーリングはPCリソースの使用効率を高めるだけでなく、ドライバがサービス要求を通常よりもずっと迅速に検出して対応することを可能にします。
ポーリングに加え、ドライバが同期転送と非同期転送の両方に対応できることも重要です。データを非同期的に転送できる機能を備えることで、計測器制御アプリケーションはPCプロセッサの時間を他のタスクに費やすことができます。たとえば、1つのアプリケーションに、GPIB転送を実行するループと、別の解析タスクやユーザインタフェースタスクを実行できるループの2つの同時ループを含めることができます。
最後に、NIのGPIBドライバAPIは事実上の業界標準なので、低価格のGPIBプロバイダが提供するドライバでは通常、NIドライバへの呼び出しに応答するドライバをラッパーで実装します。ドライバの開発者はNIドライバの内部アーキテクチャや複雑性を把握していないので、ドライバの性能を最適化することはできません。その結果、これらのラッパードライバの性能は低くなります。さらに、ドライバの開発者がNIドライバのすべての機能に対してラッパーを提供することはほとんどなく、アプリケーションによっては利用できない機能もあります。
GPIBソリューションを選択する際に重要な2つ目の要素は信頼性です。これはハードウェアの信頼性だけでなく、ソフトウェアの信頼性やベンダーの信頼性にまで及びます。
信頼性の高いハードウェアの使用は、一般的にコスト削減に直結するため、非常に重要です。ハードウェアの信頼性が高く、問題なく動作すれば、ダウンタイムによるコストやハードウェア交換コスト、システムの再検証にかかるコストを回避することができます。NIはGPIBハードウェアが非常に高い信頼性を確保できるよう、あらゆる手を尽くします。そのための機能の一部を紹介します。
信頼性の高いソフトウェアを使用すれば、ダウンタイムを最小限に抑え、GPIBアプリケーションの開発やデプロイを行うシステムの幅を広げることができます。NI-488.2ドライバソフトウェアは必要な機能を完備しており、長年にわたる多くの開発労力によって進化してきました。たとえば、NI-488.2を使用すれば、マルチスレッドアプリケーションに加え、マルチプロセッサシステムやハイパースレッドシステムで動作するアプリケーションを開発できます。ドライバは高い信頼性を確保し、中断することなく使用できるよう、これらのタイプのシステムで入念にテストされています。
最後に、アプリケーションの全体的な信頼性において、GPIBベンダーが大きな役割を果たすことがあります。NIは30年以上にわたってGPIB製品を製造してきました。これら製品の製造に関する優れた専門知識を有していると同時に、旧インタフェースのサポートや対応する同じAPIを20年間提供し続けてきた長い実績もあります。また、NIは、当社の内部プロセスが業界標準を満たしており、製品の品質と信頼性を今後も確保できることを示す、ISO 9001:2000認証を受けています。
性能と信頼性に加え、非常に重要な要素として生産性についても解説します。開発時間およびシステムとアプリケーションの保守という両面で、生産性を最大限に高めることが可能です。生産性を向上させるには、必要な機能を完備し、安定したアーキテクチャを備えた、使いやすいドライバが必要になります。
計測器ドライバは、プログラム可能な計測器を制御する一連のソフトウェアルーチンです。 計測器ドライバを使用すれば、各計測器のプログラミングコマンドを習得しなくても、非常にシンプルに計測器を制御し、テスト開発時間を短縮することができます。 NIでは、6,500以上の計測器、300の異なるベンダー向けにドライバを提供しています。 これらの計測器ドライバは、LabVIEW、LabWindow/CVI、およびMicrosoft Visual Studio用に作成されています。 これらのドライバがすでにお客様向けに用意され、無料でダウンロードできるので、セットアップ時に生産性が損なわれることなく、アプリケーションを非常に迅速に使用開始することができます。
NIのGPIBドライバNI-488.2には、開発の生産性とドライバの使いやすさの向上につながる機能が多数備わっています。これらの機能の多くはNI-488.2独自のもので、市販されている他の低価格GPIB製品にはありません。
NI-488.2コミュニケータを使用して、GPIB計測器との簡単な通信が確立されたことを確認できます。このコミュニケータは対話式のユーティリティで、計測器にコマンドを書き込み、また計測器から応答を読み取ることができます。NI-488.2呼び出しのステータスに関する詳しい情報を提供することができ、GPIB計測器に簡単な問い合わせを実行するC言語のサンプルソースコードを出力することができます。
図2:ハードウェアの接続をすばやく検証するNI-488.2コミュニケータ
対話式制御 (ibic) は、GPIB計測器との間で、より高度で迅速な対話式の通信を実現します。 これにより、開発アプリケーションやプログラミング言語を使用しなくても、GPIB関数やルーチンをインタラクティブに入力して実行できます。 対話式制御ユーティリティを使用してGPIB計測器と正常に通信できれば、ハードウェアがお使いのプログラミング環境と完全に連携できることがすばやく確認できます。
図3:さらに高度なGPIB通信を可能にするIBIC
ユーザはNI I/O Traceを使用することで、ドライバの呼び出しを「トレース」できます。この機能は、アプリケーションのデバッグに非常に便利です。 NI I/O Traceは、デバイスレベルとボードレベルのすべての呼び出しをタイムスタンプととも記録します。開発者はアプリケーションのエラーやタイミングの問題を容易に効率よく検出できます。 このユーティリティは、NIのGPIBデバイスの機能と使いやすさをすべての他社製品からさらに差別化します。
図4:NI-I/O Traceによるキャプチャの例
GPIBアナライザを使用すれば、GPIBハンドシェイク信号、インタフェース管理信号、データ信号のすべてを観察することで、物理バス上のアクティビティを解析できます。この機能は、NI I/O Trace単体では問題を解決できないような、高度なデバッグで非常に便利です。さらに、バスのタイミングの問題をさらに詳細に解析することもできます。GPIBアナライザソフトウェアは、NIのGPIBアナライザボード (PCI-GPIB+) でのみ利用可能です。他に類似機能を提供しているGPIBサプライヤはありません。
図5:PCI-GPIB+を使用したGPIBアナライザのアクティブキャプチャ
NI製品との連携 - NI-488.2は、LabVIEW、LabWindows/CVI、Measurement Studio for Microsoft Visual Studio、およびMeasurement & Automation Explorer (MAX) など、他のNI製品と非常に的確に連携します。一部のGPIBベンダーはNI-488.2ドライバ用ドライバラッパーを提供していますが、これらのドライバは一般的に不完全で、LabVIEWでのみ機能し、MAXで利用可能な設定やデバッグユーティリティはまったく提供されていません。
NI-488.2ドライバは卓越したアーキテクチャの安定性も備えており、このことは生産性の向上にも貢献しています。ドライバとドライバアーキテクチャが非常に安定しているため、新しいインタフェースやOSにアップグレードする際、アプリケーションの書き換えやデバッグに無駄な時間を費やす必要がありません。以下に、アーキテクチャの安定性に貢献している具体的な機能をいくつか紹介します。
このホワイトペーパーでは、ナショナルインスツルメンツのGPIBハードウェア/ソフトウェアを使用することで得られるメリットの概要を示しています。NIのGPIBハードウェア/ソフトウェア製品は、優れた性能と、高い信頼性および生産性を誇っています。性能の向上は、スループットを最大限に高める最新のハードウェアと最適化されたソフトウェアによって実現しています。NIのGPIB製品は、安定性のあるハードウェアとソフトウェア、および30年以上に及ぶ主要GPIBベンダとしての実績により、高い信頼性を保っています。ユーザは簡単で効果的な開発/デバッグツールと、安定したソフトウェアアーキテクチャを使用して、生産性を向上できます。
NIのGPIB製品は上記のようなメリットを備えているため、製品の設計、開発、テストを迅速かつ効率的に行うことができます。それによって得られる利点は、たとえ小さなものでも、長期的に見れば時間と費用の両方で大幅な節約につながります。
1 Windows 2000/XP用NI-488.2 (バージョン2.3以上) は、英語版のほか、韓国語版、簡体字中国語版、繁体字中国語版があります。現在、日本語版もご利用いただけます。
Linux®は、Linus Torvalds氏の米国およびその他の国における登録商標です。
LabWindowsのマークは、Microsoft Corporationからの使用許諾を得て使用しています。Windowsは、Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標です。