このチュートリアルは、低レベルの電圧、電流、および抵抗の切り替えについて説明した3部シリーズのPart 3です。このシリーズの各チュートリアルでは、さまざまなアプリケーションや測定タイプにおける低レベルスイッチ切り替えについて有益なヒントを提供しています。このチュートリアルでは低電圧信号の切り替えにおけるテクニックおよび課題について説明します。
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100 Ω未満の抵抗を測定するには、特別のテクニックが必要になります。このような抵抗値は、通常接触抵抗の測定やケーブルの連続性をテストする場合によく見られます。このドキュメントでは、抵抗測定にデジタルマルチメータを使用していると想定した場合でスイッチの接触抵抗による誤差を除去する方法について説明しています。
低抵抗測定では、4線式が最適な設置方法です。4線式設置では4つのリード線を使用し、2つのリード線で抵抗に電流を流し、もう2つのリード線で抵抗における電圧降下を測定します。従来の4線式測定では、回路内の電源をオフにする必要があるため、計測した電圧降下は供給電流による結果でしかありません。つまり、回路の電源は測定前に切る必要があるということです。図1は4線式設定を示しています。黒いリード線は電圧降下を測定します。青いリード線はテスト電流を接続し、100 Ωレンジで1 mAになります。
図1. デジタルマルチメータ設定
すべての抵抗測定において、デジタルマルチメータは抵抗電流 (この設定では1 mA) を供給する必要があり、供給後にテスト対象ユニットにおける電圧降下を測定します。その後で測定された電圧降下値を使用して抵抗を計算するため、電圧降下の確度が大変重要になります。スイッチまたはリレーのサーマルオフセットは、この確度に悪影響を与える場合があります。リレーによるサーマルオフセットの影響を最低限に抑えるテクニックがいくつかあります。最もよく使用される方法の1つは、次のセクションで説明するオフセット補正です。
接触電位とは、通常それぞれ異なる金属でできたリレーリード線とPCB配線間に発生する熱電対によって、回路に電圧誤差を誘発させる現象です。オフセット補正は、スイッチのオフセット電位を測定して測定値から校正する方法です。NI PXI-4070 FlexDMMなど、DMMによっては測定を行ったあとに校正を行う機能が組み込まれているものもあります。複数の電圧測定、外部電流励起ソース、および追加計算といった要件をクリアしながら、一方で、実際のオフセット電圧を測定し、その誤差を抵抗測定から取り除くことにも使用できます。
DMMでオフセット補正を有効にすると (その他のユーザ操作は行わない前提)、DMMは2つの抵抗測定を行いますが、2回目の測定ではテスト電流ソースがオフになります。1回目の測定では、図2に示すように、リレーでの電圧降下と存在する接触電位が測定されます。
図2: リードリレーにおける電圧降下を測定しているDMM
2回目の測定では、電流ソースがオフになるため、リレーでの電圧降下が0 Vになります。この状態で、図3に示すようにサーマルオフセットのみを測定します。
図3: 2回目の測定で接触電位/オフセットを測定するDMM
DMMは1回目の測定値から2回目の測定値を差し引いてオフセット補正電圧 (VC) を見つけます。その後、下の式に示すようにこの電圧値を使用して正しい抵抗値を計算します。
オフセット補正のような適切な方法を使用することはもちろん、低抵抗測定を行うときにパス抵抗が低いリレーを使用することが重要です。これは、リレーによって追加された抵抗はソース抵抗と直列に存在するため、DMMでの合計抵抗値が顕著に上昇します。FETスイッチのパス抵抗は特に大きいので、低抵抗測定を行う場合には使用しない方がよいでしょう。