このドキュメントでは、LabVIEW Real-Timeシステム (PXI/PXIeやcRIO 9803など) で、ドライブの信頼性が低下するまでにドライブに書き込めるデータ量を計算する際、さまざまな要因によって、ドライブの耐久性の計算式がどのような影響を受けるについて説明します。
用途に適したフラッシュストレージデバイスを選択する際、コスト、容量、および堅牢性の間のトレードオフを考慮することが必要になります。たとえば、シングルレベルセル (SLC) ベースのドライブは耐久性と寿命が最も長くなりますが、マルチレベルセル (MLC) ベースのドライブよりもGBあたりのコストが高くなります。しかし、MLCベースのドライブはSLCドライブと比較して寿命がはるかに短く、特に高温条件下で保管する場合に問題が発生する可能性が高まります。使用するフラッシュメモリの種類を決定するには、それぞれのタイプの予想寿命を理解し、目的とする用途の要件に合致しているかを確認する必要があります。まず以下の点を確認します。
さまざまな動作条件と保管条件におけるSSDの耐久性の正確な計算は非常に複雑であり、計測上の特性と統計上の特性の両方の要因が影響します。
しかし、ドライブの耐久性を予想するためのモデルは、以下のように示すことができます。
定義
ドライブの耐久性 = ドライブ書き込み回数(DW)以内で書き込めるデータの総量
フラッシュセルの耐久性 = 特定のフラッシュアーキテクチャのプログラム/消去(P/E)サイクルの最大数
STF = 保管時間係数。データが保存されている期間の調整値。
AT = 温度の加速係数。保管温度の調整値。
WAF = ライトアンプリフィケーションファクター。フラッシュの使用効率の調整値。
SSDは通常、NANDフラッシュを使用して、フローティングゲートトランジスタで構成されるセルにデータを格納します。 各セルに格納される電荷量がデータの値を決定します。 電荷がそのセルの状態を判別するのに十分である場合、または誤り訂正符号(ECC)を使って補正可能な場合、データの整合性が確保されていることになります。 各セルに格納されるデータのビット数と、そのセルに書き込むことができる回数は、フラッシュメモリデバイスの構造によって決まります。
フラッシュアーキテクチャ | セルのレイヤー数 | セルあたりのビット数 | セルの電圧状態の種類 | セルの耐久性1(P/Eサイクル) |
---|---|---|---|---|
プレーナー型SLC | 1 | 1 | 2 | 約100,000 |
プレーナー型MLC | 1 | 2 | 4 | 約3,000 |
プレーナー型eMLC/iMLC/pSLC | 1 | 1 | 2 | 約20,000 |
プレーナー型TLC | 1 | 3 | 8 | <1,000 |
垂直型SLC | 各種(典型的には64) | 1 | 2 | TBD2 |
垂直型MLC | 各種(典型的には64) | 2 | 4 | TBD2 |
1耐久性は、寿命末期のセルが40°Cの保管条件で1年以上データを保持できることを想定しています
2垂直型SLCおよびMLCフラッシュの耐久性は、プレーナー型フラッシュと同等であると期待されます
セルの耐久性は、フラッシュセルがデータを十分に保持できなくなってセルの信頼性が失われるまでに実行できるプログラム/消去(P/E)サイクルの数として表されます。 フラッシュセルでは、書き込みのたび(1つのP/Eサイクル)にセルの酸化物層が少しずつ劣化します。 多数のP/Eサイクルで生じる負荷によりこの層の機能が低下すると、格納された電荷がリークしやすくなり、セルがデータを保持する能力が損なわれます。
データの整合性を確保するには、各セルの電荷レベルを特定のしきい値内に維持する必要があります。 時間の経過とともにフラッシュセルから電荷がリークし、許容される以上の電荷が失われると、保存されたデータは残念ながら失われます。
通常の動作中は、フラッシュドライブのファームウェアが定期的にセルをリフレッシュすることで、失われた電荷が回復します。 しかし、フラッシュに電力が供給されていない場合、電荷の状態は時間とともに自然に劣化します。 電荷の損失率と損失に対する許容度は、フラッシュの構造、摩耗量(セルで実行されたP/Eサイクルの数)、および保管温度による影響を受けます。 フラッシュセルの耐久性の要件では、通常、寿命末期のドライブが12か月以上データを保持できることを想定しています。
他の期間を用いる場合、保管時間係数(STF)を使ってドライブの耐久性の関係を調整します。 STFは、標準の12か月に対する時間の比率として表します。 たとえば、36か月の保管期間が必要な場合、STFは「3」(36か月/ 12か月)になります。 それぞれの保管期間に対応するSTF値を以下に示します。
保管期間 | STF |
---|---|
1か月 | 0.08 |
3か月 | 0.25 |
6か月 | 0.5 |
1年 | 1 |
3年 | 3 |
5年 | 5 |
10年 | 10 |
データの保持には動作温度と非動作(保管)温度の両方が影響を与えますが、ドライブの耐久性の計算において影響が非常に大きいのは非動作温度です。
保管温度が低いほどデータの保持期間が長くなり、保管温度が高い場合にはデータの保持期間が大幅に短くなります。 たとえば、保管温度が40°Cから70°Cになるとドライブの耐久性が1桁以上低下する可能性があり、寿命末期のドライブでのデータ保持期間は、1年だったものが数週間にまで短くなります。
保管温度は、温度の加速係数(AT)により調整できます。 係数はアレニウスの式から導出され、以下の表のようにまとめられます。
保管温度(°C) | AT |
---|---|
25 | 0.13 |
30 | 0.26 |
40 | 1 |
55 | 6.4 |
70 | 35 |
85 | 168 |
フラッシュの耐久性とデータ保持期間に対する温度の影響、およびATの計算方法の詳細については、「SSDの耐久性に対する温度の影響」を参照してください。
フラッシュメモリは領域全体が使用されることは稀であり、ドライブの摩耗を加速させる原因にもなるため、ある程度非効率的に使用されます。 ライトアンプリフィケーションファクター(WAF)はフラッシュの使用効率の指標であり、WAFが高いほど効率が低いことを表しています。 WAFの決定には多くの要因が関わりますが、それらの要因の一部は用途によって決まります。
一般的に、大きいサイズのデータをシーケンシャルで書き込む方が、小さいサイズのデータをランダムに書き込むよりも効率的です。 産業用や組み込み用の用途においてWAFを求める決まった式はありませんが、暫定的にJEDECの用途別負荷標準を使用することができます(詳細については、JEDEC「JESD218」および「JESD219」を参照)。 Enterpriseでは、ランダムデータによるさまざまなサイズのファイルを表します。これに対しClientでは、
さらに、WAFは、ドライブファームウェアが摩耗平準化とインテリジェントなブロック管理を通じてフラッシュの使用率をどの程度適切に管理できるかによっても影響を受けます。 WAFは特定用途における負荷とドライブのファームウェアに大きく依存するため、経験則によりWAF = 4が目安とされることもあります。
ワークロード | アクセス方式 | 典型的なWAF |
---|---|---|
JESD219 Enterprise | SSD全体にランダムデータを保存 | 約15 |
経験則による目安 | 他のモデルが利用できない場合に、ランダムデータとシーケンシャルデータの組み合わせをWAFの近似として使用 | 4 |
JESD219 Client | 一般的な家庭用ラップトップなど、大きなサイズのシーケンシャル書き込み(写真、音楽など)が主体で、小さなサイズのランダムアクセスを一部に含む | 約2 |
100%シーケンシャル | すべての書き込みが大きなファイルサイズでシーケンシャルに行われる | 約1 |
より正確なWAFが必要な場合は、ドライブのパフォーマンスを直接計測することで求めることができます。特定のフラッシュおよびアプリケーションを使用するユースケースでは、アプリケーションを数時間実行して、実際にドライブに書き込まれたデータ量および実行されたP/Eサイクル数を計測することによりWAFを計算できます。 WAFにはドライブの耐久性による影響が生じるため、WAFを求める際は用途のプロファイリングを行うことが強く推奨されます。
ドライブの耐久性は、フラッシュセルの耐久性、保管時間係数、温度の加速係数、およびライトアンプリフィケーションファクターがわかれば求めることができます。
ドライブの耐久性の式を再掲します。
非動作(保管)温度が40℃、データ保持期間を1年間とし、64 GB SLC SSDに対してストリーミングデータのロギング(シーケンシャル書き込み)を行うとします。 SLCフラッシュセルの耐久性は100,000 P/Eサイクル、STFとATはどちらも1 (40℃で1年間を基準としているため) であることから、100%シーケンシャルモデルのWAFは「1」となります。
寿命末期までに書き込める総バイト数 = 64 GB x ドライブ書き込み100,000回 = 6400 TB
非動作(保管)温度が55℃、データ保持期間を1年間とし、64 GB SLC SSDに対してストリーミングデータのロギング(シーケンシャル書き込み)を行うとします。 SLCフラッシュセルの耐久性は100,000 P/Eサイクル、STFは1、55℃に対するATは6.4であることから、100%シーケンシャルモデルのWAFは「1」となります。
寿命末期までに書き込める総バイト数 = 64 GB x ドライブ書き込み15,614回 = 1000 TB
非動作 (保管) 温度が55℃、データ保持期間を24か月とし、128GB eMLC SSDに対して、不明な書き込みプロファイルにより書き込みを行うとします。eMLCフラッシュセルの耐久性は20,000 P/Eサイクル、STFは2 (24/12か月)、55℃の保管温度に対するATは6.4であることから、経験則モデルのWAFは「4」となります。
寿命末期までに書き込める総バイト数 = 128 GB x ドライブ書き込み390回 = 50 TB
非動作(保管)温度が70℃、データ保持期間を3か月とし、480 GB MLC SSDに対してストリーミングデータのロギング(シーケンシャル書き込み)を行うとします。 MLCフラッシュセルの耐久性は3,000 P/Eサイクル、STFは0.25 (3/12か月)、70℃の保管温度に対するATは35であることから、100%シーケンシャルモデルのWAFは「1」となります。
寿命末期までに書き込める総バイト数 = 480 GB x ドライブ書き込み342回 = 164 TB
ドライブの耐久性の式を使用すると、目的の環境やパフォーマンス要因に合わせてドライブの特性を調整することができます。
ただし、ドライブの耐久性を調整するための一貫性のある方法は存在しません。 データシートには、ドライブの容量とフラッシュテクノロジのみが記載されていることもあれば、具体的なテスト条件下でのドライブの耐久性の仕様が記載されていることもあります。このような仕様には、計算に使用した保管温度とデータ保持期間が記載されている場合がありますが、明示的に書かれていないことも多くあります。 記載がない場合は、40℃での保管と1年間のデータ保持期間が想定されていると考えられます。
ドライブのデータシートには次のような仕様が記載されています。
フラッシュタイプ | SLC |
---|---|
ドライブ容量 | 64 GB |
耐久性:書き込みできる総バイト数(Enterprise) | 500 TB |
耐久性:書き込みできる総バイト数(Client) | 3855 TB |
目的用途における保管温度は55℃で、1年間の保管期間が想定されており、コンシューマ向けストレージデバイスと同様の使用がなされるものとします。
このSLCのデータシートを確認すると、100kのP/Eサイクルにおける有効なWAFはEnterpriseで12.8、Clientで1.7であることが読み取れます。 目的用途はコンシューマ向けデバイスと同様であるため、ClientのWAF 1.7を使用し、これに対応する耐久性仕様3855 TB(または60k回のドライブ書き込み)が得られます。
次に、保管温度と期間を調整します。 この計算には以下の式を使用します。
仕様上の耐久性は3855 TB、保管温度は40℃ (AT SPEC = 1)、保管期間は1年間 (STFSPEC = 1)、およびWAFSPECは1.7となっています。 目的用途では、保管温度は55℃(AT ADJ = 6.4)、保管期間は1年間(STF ADJ = 1)、およびWAF ADJは1.7とします。 これにより、調整後のドライブの耐久性仕様は次の式で得られます。