本稿は、「NIスイッチブロック スタートアップガイド」シリーズの一部です
NIスイッチブロックは、カスタマイズ可能なハードウェア設計を採用しています。これにより、配線の引き回しを最小限に抑えて接続を簡素化するとともに、ユーザごとのスイッチ要件に応える高い柔軟性を提供でき、ユーザはPXIシャーシで大規模なスイッチマトリクスを容易に構築することが可能です。また、NIスイッチブロックではリレーカードを収容するキャリアの内部と外部のどちらにも、スイッチアレイの列の数を容易に増やすことができます。本稿では、このようなNIスイッチブロックのハードウェアアーキテクチャについて解説するほか、安全なスイッチ環境を確保しながらシステム性能を最適化するための設計のヒントも紹介します。
図1. NIスイッチブロックを使えば、ユーザのアプリケーションに向けて大規模なカスタムスイッチを構築できる。
NIスイッチブロックには、最大6枚のリレーカードを収容できる4スロット型のPXIキャリアが用意されています。このキャリアは、PXIシャーシの2番目のスロットの背面にあるハイブリッド型コネクタを採用しており、タイミング/同期用の仮想デバイスエンジンを6個内蔵しています。リレーカードについては、さまざまなリレータイプのマトリクストポロジ品が豊富に提供されており、ユーザはアプリケーションに応じて選択が可能です。
リレーカード | リレータイプ | マトリクスサイズ | 最大電圧 | 最大電流スイッチング | 最大出力 |
NI 2810 | リード | 4x43 | 150 V | 1 (1) A | 20 W |
NI 2811 | リード | 8x21 | 150 V | 1 (1) A | 20 W |
NI 2815 | リード | 4x86 | 100 V | 0.25 (0.25) A | 3 W |
NI 2816 | リード | 8x46 | 100 V | 0.25 (0.25) A | 3 W |
表1. NIが提供するNIスイッチブロック用リレーカード
NIスイッチブロック用キャリアには、品種の異なる複数枚のリレーカードを混在させて収容することが可能です。各リレーカードを1枚ずつ独立したスイッチマトリクスとして使用するほか、複数枚をキャリアのバックプレーン上のアナログバス経由で相互接続することで、より大規模なスイッチマトリクスを構築することもできます。
例えば、最大1 Aの電流をスイッチング可能な、4×400サイズで10列のスイッチマトリクスを構築する場合は、1台のキャリアにNI 2810リレーカードを1枚とNI 2815リレーカードを5枚、収容すれば良いのです。
図2. NIスイッチブロック用キャリアの正面(左)と背面(右)
キャリアのバックプレーンには、16本のアナログバスラインが走っています。これを利用すると、複数枚のリレーカードをまたぐ信号経路を構築できます。このアナログバス上には、リレーカードの各行と各行の間にリレーが設けられており、これらのリレーを閉じることで、各カードの行と行がアナログバスを介して相互に接続される仕組みです。
図3. キャリアのバックプレーンを走るアナログバスを介して、リレーカード間をまたいで信号をルーティングできる。
ナショナルインスツルメンツ(NI)では、リレーカードの各品種に、コンフィギュレーション(構成)が異なる「タイプA」と「タイプB」の2種類を用意しています。タイプAカードのコネクタは、キャリアのアナログバスに接続するほか、そのリレーカードの列につながっています。もう一方のタイプBカードでは、バス上の影響を最小限に抑えるため、アナログバスはフロントパネルに接続されません。このため、ユーザがアクセスできるのはリレーカードの列だけです。タイプBカードを使うと、バス性能に与える影響をタイプAカードと比べて大幅に低減できますが、アナログバスへの接続性は低下します。これに対しタイプAカードを用いれば、複数枚のリレーカードそれぞれの行にアナログバスラインを介して間接的にアクセスできます。スイッチマトリクスの帯域幅を最適化するには、NIスイッチブロックをコンフィギュレーションする際に、タイプAカードの使用枚数を最小限に抑えなければなりません。
図4. コンフィギュレーションの異なる2種類のリレーカードが用意されており、これらを使い分けることでスイッチマトリクスの帯域幅を最適化できる。
NIスイッチブロックは、行‐列間と列‐列間のどちらの信号ルーティングにも対応可能です。行と列をつなぐ信号ルーティングでは、NIスイッチブロックシステムのアナログバスラインにアクセスするため、タイプAリレーカードを使用する必要があります。これに対し、列と列を接続する信号ルーティングは、タイプBのモジュールだけで対応することができます。
図5. 行‐列間の信号ルーティング(左)と列‐列間の信号ルーティング(右)
NIスイッチブロック用キャリアは、左右両方の側面それぞれに拡張コネクタを備えています。NIスイッチブロック用キャリアを複数台用意し、この拡張コネクタ経由で拡張ブリッジカードのNI 2806と組み合わせれば、PXIシャーシ内で各キャリアのアナログバスを連結できます(16スロットのPXIシャーシに最大4台のキャリアを収容できるので、リレーカードはシャーシ当たり最大24枚まで収容可能)。拡張ブリッジのコネクタは、シャーシ内で隣り合うキャリアやシャーシにインストール済みのブリッジカードを自動で認識するためのシリアルリンクも備えています。必要に応じてキャリアを増設し、単一のPXIシャーシで8,800点以上のクロスポイントを持つスイッチマトリクスを構築することが可能です。
リレーカード | リレーカード当たりのマトリクスサイズ | 1台のキャリアに6枚のカードを搭載した場合のマトリクスサイズ | 1台のPXIシャーシに4台のキャリアを搭載した場合のマトリクスサイズ |
NI 2810 | 4x43 | 4x258 | 4x1032 |
NI 2811 | 8x21 | 8x126 | 8x504 |
NI 2815 | 4x86 | 4x516 | 4x2064 |
NI 2816 | 8x46 | 8x276 | 8x1104 |
表2. NIスイッチブロック内で複数のリレーカードを組み合わせれば、非常に大規模なマトリクスを構築できる。
図6. 拡張ブリッジのNI 2806を使用して、キャリアをまたいで信号をルーティングする(左)。拡張ブリッジを挿入する前に、アナログバスのカバーを取り外しておくこと(右)。
複数のシャーシを組み合わせたシステムを構築する場合、タイプAリレーカードを使用すれば、1台のPXIシャーシから別のシャーシへとアナログバスラインの接続を拡張できます。帯域幅を最適化するには、タイプAリレーカードがシャーシの中央に配置されるようにNIスイッチブロックをコンフィギュレーションしてください。
図7. タイプAリレーカードを使うと、PXIシャーシ間をまたいでアナログバスラインを拡張できる。
NIスイッチブロックのリレーカードでは、必ずセーフティインターロック用の抵抗を使わなければなりません。インターロック用抵抗を使用しなければ、信号をアナログバス経由でルーティングすることはできません。
NIスイッチブロックカードのフロントコネクタからNIスイッチブロック用のアクセサリを取り外す際に、コネクタが高電圧信号にさらされる危険があります。それを防ぐためリレーカードは、ケーブルなどのアクセサリがフロントコネクタに接続されているかどうかを検出する機能を備えています。NIスイッチブロック用のNIアクセサリは、内蔵する500 Ωの抵抗(500 Ω±20%、定格1/10 W以上)を介して96ピンと48ピンの間に接続します。この抵抗が2つのピンの間に接続されていない限り、マトリクスラインはアナログバスに接続されません。
NIスイッチブロック用のケーブルやカスタム仕様のテストフィクスチャをユーザが独自に作製する場合、テストフィクスチャやケーブルが外れた際に信号線の接触安全性を保証するためのインターロック用抵抗を設計に組込んでください。セーフティインターロック用抵抗を搭載しておけば、テストフィクスチャが外れた際に、NIスイッチブロックが備えるリレーテストを実行できるようになります。
図8. マスインターコネクトソリューションの交換可能テストアダプタ(ITA:Interchangeable Test Adapter)に接続されたセーフティインターロック用抵抗