このチュートリアルは、NIデジタルマルチメータ (DMM) を使用して、正確な測定システムを構築するためのヒントとテクニックを紹介しています。PXIe-4082 DMMが、どのようにして、6½桁DMM (±300 Vの入力範囲、最大サンプリングレート1.8 MS/秒で波形集録を行うことのできる完全絶縁の高電圧デジタイザ) と、LCRメータ (インダクタンス/キャパシタンス測定) の役割を果たせるのかをご確認ください。チュートリアルのこのセクションでは、下記のトピックを扱います。
PXIe-4082では、2線式マルチトーン定電流を使用してインピーダンスを測定します。検査対象デバイス (DUT) にマルチトーン定電流 (Isrc) が流れると、PXIe-4082は、電圧波形の基本周波数および3次高調波を測定します。
図1. 電圧波形の基本周波数および3次高調波の測定
電流と電圧がわかっている場合、NI 4082は高速フーリエ変換 (FFT) ピーク解析を使用してキャパシタンスまたはインダクタンスを算出します。残留直列インピーダンス (Zs) および浮遊並列アドミタンス (Yp) によって、測定に大きな誤差が生じる場合、PXIe-4082は補正機能を使用して誤差を測定して減少させます。
容量性負荷および誘導性負荷は交流電流の流れを妨害します。この妨害は使用している周波数におけるインピーダンスとして表現されます。実世界におけるインピーダンス負荷の影響は、信号の減衰および位相シフトとして現れます。次に示すように、インピーダンスの性質上、角度は電圧と電流間の位相角と同じベクトルで表記されます。また、インピーダンスの振幅は、電圧/電流振幅間の商と同じです。
メモ: 太字の値は、ベクトル量または複素数を表しています。
Z = V/I
インピーダンスのベクトルは、極座標 (振幅および位相) または直交座標 (実数および虚数) のいずれかの複素数で表します。次の等式は、インピーダンスを直交座標で表しています。
Z = R + jX
Rは抵抗、Xはリアクタンスを表します。X = 0の場合、負荷は抵抗で、R = 0の場合の負荷はリアクタンスのみになります。コンデンサでは、リアクタンスは次のように表します。
Xc = –1/(2πfCs)
インダクタでは、リアクタンスは次のように表します。
XL = 2πfLs
実際には、リアクタンスまたは抵抗がまったくないということはありません。しかし、上記の方程式を使用すると、簡単に抵抗負荷およびリアクタンス負荷の直列/並列の組み合わせとしてモデル化することができます。
図2. 上記の方程式を使用すると、簡単に抵抗負荷およびリアクタンス負荷の直列/並列の組み合わせとしてモデル化することが可能
計算や解析を簡素化するために、場合によってはインピーダンスを逆数のアドミタンスで表現する場合があります。アドミタンスは次のように定義されます。
Y = 1/Z = I/V
そして、次のように表せます。
Y = G + jB
GおよびBは直交成分 (実数および虚数) で、それぞれコンダクタンスおよびサセプタンスと呼ばれます。コンダクタンスGは、並列抵抗の逆数で次のようになります。
G = 1/RP
コンデンサのサセプタンスは次のように表します。
BC = 2fCP = 1/XC
インダクタのサセプタンスは次のように表します。
BL = 1/2fLP = 1/XL
一般に数学的には並列負荷をアドミタンスとして、また直列負荷をインピーダンスとして扱うほうが簡単です。
図3. 一般に数学的には並列負荷をアドミタンスとして、また直列負荷をインピーダンスとして扱うほうが簡単
直列モデルまたは並列モデルとして結果を得たい場合があります。並列抵抗は通常、直列抵抗よりも大きくなります。高キャパシタ値および低インダクタ値のような小さなリアクタンス値を測定する場合は、直列モデルの使用が推奨されます。それは、直列抵抗のほうが並列抵抗よりも大きいためです。高インダクタ値または低キャパシタ値のような大きなリアクタンス値を測定する場合は、並列モデルの使用が推奨されます。
測定タイプ
| レンジ
| インピーダンス
| モデル
|
---|---|---|---|
C
| >100 uF
| <10 Ω
| 直列
|
C
| 10 nF~100 uF
| 10 Ω~10 kΩ
| 直列または並列
|
C
| <10 nF
| >10 kΩ
| 並列
|
L
| <1 mH
| <10 Ω
| 直列
|
L
| 1 mH~1 H
| 10 Ω~1 kΩ
| 直列または並列
|
L
| >1 H
| ≥1 kΩ | 並列
|
メモ: インピーダンス値は各レンジにおけるPXIe-4082で使用されるテスト周波数に基づいて算出されます。 |
表1. コンデンサ (C) およびインダクタ (L) 測定、および推奨されるモデル
コンデンサ
コンデンサは、エネルギーを電荷として蓄積する電子コンポーネントです。各コンデンサは2枚の伝導性素材の板で構成されており、この2枚の板は空気、紙、プラスチック、酸化物などの絶縁体でできた誘電体で分離されています。絶縁体の誘電定数 (K) は、電荷をどれだけ蓄積できるかを示します。表2は、それぞれの誘電体のK値を示します。
誘電体
| 誘電定数 (K)
|
---|---|
真空
| 1
|
航空
| 1.0001
|
テフロン
| 2.0
|
ポリプロピレン
| 2.1
|
ポリスチレン
| 2.5
|
ポリカーボネート
| 2.9
|
ポリエステル
| 3.2
|
FR-4
| 3.8–5.0
|
ガラス
| 4.0–8.5
|
マイカ
| 6.5–8.7
|
セラミック
| 6~数千
|
酸化アルミニウム
| 7
|
酸化タンタル
| 11
|
表2. それぞれの誘電体のK値
絶縁体の電気的特性は、温度、周波数、電圧、湿度などによって変動します。この変動とコンデンサの機械的構造は、デバイスの性能低下の原因になります。実際のコンデンサは、図4の等価モデルでよりわかりやすく表示されています。現実のコンポーネントに存在するさまざまな寄生要素を理解するうえで役に立ちます。これらの寄生要素は、それぞれ違ったテスト周波数においてコンデンサのインピーダンスに影響を与えます。
図4. コンデンサに影響を与える現実のコンポーネントに存在する異なる寄生要素のモデル
並列抵抗 (Rp) は通常大きな値で、容量が小さいコンデンサを測定している場合のみ影響があります。等価直列抵抗 (Rs) は小さな値ですが、コンデンサの容量が大きい場合、インピーダンスがRsに比べて小さい場合、および電力消費が高い場合は影響があります。直列抵抗 (Ls) は、高周波数でのインダクタンスとキャパシタンスのロールオフ合計を表します。低周波数では、周波数とテスト信号のレベルによって誘電特性が変わるため、キャパシタンスも変動します。図5は、複数の周波数で測定した2.2 µF 100 Vアルミニウム電解コンデンサを示します。ここでの誤差は、1 kHzで1 Vrms ACテスト信号を使用した測定値を基準としています。
図5. 複数の周波数で測定した2.2 µF 100 Vアルミニウム電解コンデンサ
温度、周波数、信号レベルの条件が変動する中、これらの要素によってキャパシタ値が変動します。
インダクタは、エネルギーを電流として蓄積する電子部品です。各インダクタは、伝導コイルで構成されており、そのコイルは芯のない空芯コイルの場合と電磁素材を芯 (コア) とした場合があります。コアに使用する素材の透磁率は、誘電される磁界の強度を測定したものです。コアの電気的特性は、温度、周波数、電流などによって変動します。この変動とインダクタの機械的構造は、性能低下の原因になります。実際のインダクタは、図6の等価モデルでよりわかりやすく表示されています。現実のコンポーネントに存在するさまざまな寄生要素を理解するうえで役に立ちます。これらの寄生要素は、それぞれ違ったテスト周波数においてインダクタのインピーダンスに影響を与えます。
図6. インダクタに影響を与える現実のコンポーネントに存在する異なる寄生要素のモデル
直列抵抗を示すRsは、コンダクタの抵抗損失を表します。並列キャパシタンスを示すCpは、コイルの巻き間の等価容量効果で、並列抵抗を示すRpは、コア素材に起因するすべての損失の合計です。空芯コイルは高インダクタンス値を得るためにより多くの巻き線を必要とします。これにより寸法と重量が大きくなるため、多くの場合実用的ではありません。また、空芯には通常、コイル巻きの大きなキャパシタンスと高インダクタンス値の直列抵抗があります。すべての寄生要素がインダクタの値に影響を与えるわけではありませんが、コイルの構造、インダクタの配置、ワイヤのゲージ、コアの特性によって、特定の要素が他のものより強い影響を与えることがあります。インダクタの値とその他のタイプの寄生要素との関連における各寄生要素の大きさによって、周波数応答が決まります。一部のコンポーネントの形によって、外部要素に対するコンポーネントの感度を高めることができ、この高感度がインダクタの値に影響を与える場合があります。開磁型インダクタは、金属素材が近くにあると磁場が変化するので影響されやすくなります。トロイダルインダクタでは磁束が芯の内部にあるため、影響されにくくなります。図7は、これらのタイプのインダクタの磁束を示しています。
図7. インダクタの磁束タイプ
図8では、異なる周波数に対して5 mH空芯インダクタを測定しています。ここでの誤差は、1 kHzで1 Vrmsテスト信号を使用した測定値を基準としています。このタイプのインダクタは、その造りに必要な巻きの数とサイズによってキャパシタンスは高くなります。したがって、このタイプのインダクタは、周波数によってあらゆるタイプのインダクタンスがあるかのように測定されます。
図8. 異なる周波数に対する5 mH空芯インダクタの測定
一部のフェライトコアは、テスト信号レベルによって大きく変化することが予想されます。図9では、100 uHフェライトコアインダクタを異なるテスト信号レベルでテストしています。ここでの誤差は、1 kHzで1 mArmsのテスト信号を使用した測定値を基準としています。
図9. 異なるテスト信号レベルでテストした100 uHフェライトコアインダクタ
温度、周波数、信号レベルの条件が変動する中、これらすべての要素によってインダクタ値が変動します。
PXIe-4082 DMMには、AC電流が励起として用いられて、キャパシタンスとインダクタンスが測定されます。電流波形は、安定し、高調波が制限された方形波です。測定方法は、テスト信号に含まれるマルチトーン情報を抽出して、検査対象デバイスのキャパシタンスまたはインダクタンスを求めます。表3および4は、テスト信号の周波数およびレベル、また、そこから抽出したトーンを示しています。
キャパシタンス
| ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
レンジ
| 基本波
| 3次高調波
| 有効なテスト信号
| |||
周波数
| 電流
| 周波数
| 電流
| 周波数
| 電流
| |
300 pF | 1 kHz
| 0.5 µA
| 3 kHz
| 0.16 µA
| 3 kHz
| 0.16 µA
|
1 nF | 1 kHz
| 1 µA
| 3 kHz
| 0.33 µA
| 3 kHz
| 0.33 µA
|
10 nF | ||||||
100 nF | 1 kHz
| 10 µA
| 3 kHz
| 3.3 µA
| 3 kHz
| 3.3 µA
|
1 uF | 1 kHz
| 100 µA
| 3 kHz
| 33 µA
| 1 kHz
| 100 µA
|
10 uF | 1 kHz
| 1 mA
| 3 kHz
| 330 µA
| 1 kHz
| 1 mA
|
100 uF | 91 Hz
| 1 mA
| 273 Hz
| 330 µA
| 91 Hz
| 1 mA
|
1,000 uF | ||||||
10,000 uF |
インダクタンス
| ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
レンジ
| 基本波
| 3次高調波
| 有効なテスト信号
| |||
周波数
| 電流
| 周波数
| 電流
| 周波数
| 電流
| |
10 uH | 10 kHz | 1 mA | 30 kHz | 330 µA | 30 kHz | 330 µA |
100 uH | ||||||
1 mH | 1 kHz
| 1 mA
| 3 kHz
| 330 µA
| 3 kHz
| 330 µA
|
10 mH | 1 kHz
| 10 µA
| 3 kHz
| 3.3 µA
| 3 kHz
| 3.3 µA
|
100 mH | 91 Hz
| 100 µA
| 273 Hz
| 33 µA
| 273 Hz
| 33 µA
|
1 H | 91 Hz
| 10 µA
| 273 Hz
| 3.3 µA
| 273 Hz
| 3.3 µA
|
5 H | 91 Hz
| 1 µA
| 273 Hz
| 0.33 µA
| 273 Hz
| 0.33 µA
|
表3および4. テスト信号の周波数およびレベル、また、そこから抽出したトーン
デジタイザは、2つの周波数 (トーン) でDUTインピーダンスを測定します。これらの2つの測定を基に、損失が算出されます (フロントエンド、ケーブル、およびDUT)。算出された損失を使用して、ソフトウェアは2つの周波数のうち1つ (有効な周波数) でキャパシタンスまたはインダクタンスを算出します。有効なテスト信号は基準として含まれます。シングルトーン測定方式で測定した場合と同様のキャパシタンスまたはインダクタンスの値が求められる信号です。実際のコンポーネントの構成に使用される寄生要素および素材が影響するため、測定されるキャパシタンスまたはインダクタンスの値は各計測器で異なる場合があります。より優れた誘電特性を持ったコンデンサを測定するときは、読み取る値の差は異なる計測器の間でより小さくなります。これと同様の現象がより優れた磁性を持ったインダクタにも起こります。表5は、周波数の特性が優れている誘電体とそうでない誘電体のサンプルを示しています。
周波数の特性が優れている誘電体
| 周波数の特性が優れていない誘電体
|
---|---|
テフロン マイカ ポリプロピレン ポリカーボネート セラミックCOG | 酸化タンタル 酸化アルミニウム セラミックY5U |
表5. 周波数の特性が優れている誘電体とそうでない誘電体の例
変圧器や電力インダクタなどに使用されている大きなコアを使用したインダクタでは必要な電流が大きくなるため、周波数の変化やインダクタ内のその他の依存要素の影響は大きくなります。
温度はDUTのインピーダンスに大きな影響を与える場合があります。通常、コンデンサは大きな温度係数を持っています(使用されるコンデンサによって、全体の温度範囲で5~80%の変化があります)。ただし、例外として、セラミックCOGのコンデンサでは、0.003%/℃の変化しか見られません。特に空芯ではない芯を持つインダクタは、温度によって大幅に変化する場合があります。周囲とDUTの温度ドリフト (たとえば、取り扱いによるもの) は、測定の誤差につながる場合があります。周辺温度の変化を制御することで誤差を減らせます。
システムでの寄生効果を削減するために、NIでは同軸ケーブルまたはシールドツイストペアを使用するよう推奨します。シールドは電流リターンパスとして使用し、DMMのLO入力に接続します。この構成では、開放/短絡補正がより効率的になり、ノイズ収集を削減します。表面に取り付けられた部品を手動でプローブする場合、ピンセットを使用できます。PXIe-4082 DMMではテスト装置によるインピーダンスを補正できます。詳細については、下記の開放/短絡補正セクションを参照してください。2回続けて行う測定で再現性を確保するために、機械的変更 (たとえば、ケーブルを動かしたり曲げたりする、または部品を取り替える) は避けます。belden.comで入手できるBelden 83317のような、高品質ケーブルを使用します。テフロン、ポリプロピレン、ポリエチレンで絶縁されたケーブルを推奨します。ケーブルに関する要件については、相互接続およびケーブルを参照してください。キャパシタンスおよびインダクタンス両方の測定において、測定前に開放/短絡補正を実行し、最長25 ftのケーブルでも、高い精度の測定を実現しています。
ノイズ収集を最小限に抑えるには、ケーブル、セットアップ、DUTをモーター、変圧器、陰極線管 (CRT) など電磁波ノイズの発生源に近づけないようにします。91 Hz、1 kHz、10 kHzの周波数ソースおよびそれに伴う高調波は、NI 4082が使用する励起電流の周波数であるため、避けてください。外部コンダクタをDMMのLO入力に接続するケーブル配線には、シールドケーブル (BNCコネクタおよび同軸ケーブルを推奨) を使用してください。
最も合理的なアプリケーションでは、DMMはスイッチや備品を使用してDUTに接続されています。このようなスイッチや備品は、測定における誤差の原因になることがあります。補正によって、PXIe-4082 DMMおよびDUT間の誤差を最小限に抑えることができます。
補正機能は、誤差を測定して、その誤差を実際の測定値に適用することで、テストシステムに起因する誤差を補正して最小限に抑えるものです。補正機能は、指定の機能およびレンジで測定を開始する前に設定する必要があります。レンジや機能を変更した場合、補正なしのデフォルト設定に戻ります。そのため、値を再度計算する必要があります。テストシステムで柔軟性を最大に利用するために、補正値はAPIから返されます。チャンネル数の多いシステムに対応するようこれらの値を操作、保管、ロードすることができます。
キャパシタンスおよびインダクタンス測定の開放補正を行うには、以下の手順に従います。
キャパシタンスおよびインダクタンス測定の短絡補正を行うには、以下の手順に従います。
キャパシタンスおよびインダクタンス測定の開放/短絡補正を行うには、以下の手順に従います。
メモ: 周辺温度の変化および湿度などのその他の環境要素の変更に対応するため、少なくとも毎日1回開放/短絡補正を実行する必要があります。スイッチシステムを使用する場合は、基準チャンネルでの開放/短絡測定値がその他の補正されたチャンネルの測定値と近いことを確認してください。この補正方法での結果が許容誤差の要件を満たさない場合、開放補正および/または短絡補正はDUT測定を行った同じチャンネルで実行する必要があります。
電解コンデンサやタンタルコンデンサなど極性のあるコンポーネントをテストする場合、正極電圧のみを使用することを推奨します。通常の動作時は、AC電流ソースはその50%が負極になります。そのため、検査対象コンデンサの極性が逆になります。このような極性の反転を防ぐために、負極にしたくない場所の電圧にDCバイアスを適用します。
メモ: DCバイアスが使用されている場合、HI端子が高電位になります。コンポーネントの負極端子をLO端子に接続して、コンポーネントが正しい極性を持つよう注意します。
DCバイアス電圧は固定値であり、オンまたはオフにすることしかできません。公称電圧値は0.45 Vで、すべてのキャパシタンスレンジで使用できます。デフォルト設定はオフです。
NIでは、電子機器のインダクタンス、キャパシタンス、抵抗 (LCR) の測定とテストに役立つ、ソースメジャーユニットとLCRメータの組み合わせも提供しています。PXI LCRメータは、シングルスロットのPXIフォームファクタにおいてフェムトファラッドクラスのキャパシタンス測定とフェムトアンペアクラスの電流測定を可能にします。