世界中で携帯電話のデータ使用量が増え続けていますが、それに対応するためには通信システムの構築方法を改める必要があります。5G規格は、携帯電話のスループット要求の高まりに応え、新しいユースケースに対応することを目指していますが、5G規格で明確にされたアプリケーションの多くはネットワークの進化なしには実現できません。特にURLLC (超高信頼かつ低レイテンシ) のユースケースでは、ネットワークがレイテンシの仕様を満たすことが求められますが、これもネットワークを改めなければ実現は不可能です。将来のネットワークには、柔軟性の向上と、人工知能などの新しいテクノロジの活用が求められます。ネットワーク事業者は、デプロイされた各自のネットワークのカスタマイズや管理を行うために、ソフトウェアを中核としたネットワークへの移行を望んでいます。モバイルネットワーク事業者は、機器の相互運用性、つまり、ベンダに関係なくさまざまなネットワーク機器コンポーネントを選択できる機能も必要としています。総じて、無線アクセスネットワーク (RAN) と通信システムハードウェアの双方に大幅な改善の余地が存在します。
3GPPはRelease 15において、異なるgNodeB機能として、集中型ユニット (CU)、分散ユニット (DU)、無線ユニット (RU) の3つを特定しました。これら3つのコンポーネントを構成するにはいくつかの方法があり、どの構成が最適かは個々のネットワークによって異なります。単一ベンダのgNodeBオプションでは、これらのコンポーネント間で独自のインタフェースを選択することもできます。O-RAN Alliance (または単にO-RAN) は、5G RANの構築方法においてこれまでにないレベルのオープン性を実現することに注力しています。O-RANの規格では、CU、DU、RU間でオープンなインタフェースを採用することで、システム全体が特定のベンダに縛られることなく、さまざまなベンダの製品 (ホワイトボックス) でネットワークを構築できることが示されています。これによりRANの柔軟性が高まり、ネットワーク事業者の選択肢が多くなります。また、こうしたアプローチにより、これまでネットワークハードウェアを提供していなかった小規模企業から、より多くの技術革新が生まれることが促進されます。技術革新や選択肢が増えることは、新しいネットワークをデプロイするためのコストを削減できる可能性があることを意味します。O-RANはまた、ディープラーニングの技術をすべてのRANアーキテクチャに取り入れ、通信システムのインテリジェンスを高めることも目指しています。図1に示すO-RANのリファレンスアーキテクチャは、O-RANに準拠したRANの構築方法を示しています。
図1:O-RAN Allianceのリファレンスアーキテクチャ。
ワイヤレスインフラストラクチャとRANの開発は続いており、今後はO-RANの仕様であるRelease 002とともに、5G Advancedとも呼ばれるRelease 18に移行します。ワイヤレステクノロジがかつてないペースで進化するのに伴い、最新のアップデートとして非リアルタイム (Non-RT) RANインテリジェントコントローラ (RIC) やネットワークスライシングといったトピックが追加されています。
O-RANの概念とアーキテクチャでは、分割RANの概念が採用されています。RANを機能的に分割する方法として知られているものは8つあり、それぞれ、プロトコルスタックのさまざまな部分を異なるハードウェアで処理する形での処理分割を提案しています。図2は、8つのオプションをまとめたものです。
図2: RAN分割のオプション (出典: NGNM 2018)。
図2に示すように、O-RANではオプション7-2を使用します。これは物理層 (PHY) をHigh-PHYとLow-PHYに分割します。オプション7-2では、アップリンク (UL)、CP除去、高速フーリエ変換 (FFT)、デジタルビームフォーミング (該当する場合)、プレフィルタ (物理ランダムアクセスチャンネル [PRACH] のみ) の機能はすべてRUで実行され、残りのPHYはDUで処理されます。ダウンリンク (DL) では、逆FFT (iFFT)、CP付加、プリコーディング機能、デジタルビームフォーミング (該当する場合) はRUで実行され、残りのPHY処理はDUで実行されます。2G、3G、および4Gでは、CPRI (Common Public Radio Interface) を使用し、オプション8の分割で渡されます。
7-2の分割に移行することで、DUとRU間のトラフィックが減少します。O-RANでは7-2分割のバージョンを規定しました。図3は、7-2分割と、プロトコルスタックの他の部分がCUとDU間でどのように分割されるかを示しています。7.2x分割は、市場への迅速な投入と展開コストとのバランスが最適となるオプションであり、分割の詳細に関する混乱を抑えながら、トラフィック削減の効果や改善を実現できます。一部の5Gシステムでは、DU-RU間のインタフェースとしてeCPRI (evolved CPRI) を使用します。eCPRIは、High-PHYとLow-PHY間におけるベンダ固有の分割を可能にします。このように、複数の分割をサポートすることでトラフィックや柔軟性を最適化し、固有のアンテナ物理環境に起因するさまざまなデプロイメント環境に対応することができます。その結果、さまざまな通信事業者に固有の接続についてコストを自由に最適化することができます。
図3: オプション7.2におけるCU、DU、RU間でのプロトコルレイヤの分割。
新しい5G RANアーキテクチャに対応するため、3GPPは、CUとDU間の通信を行う新しいインタフェースとして、F1インタフェースの定義と標準化を行いました。CUとDUを物理的に分割することを、上位レイヤ分割 (HLS) と呼びます。3GPPでは定義されていませんが、DUとRU間の下位レイヤインタフェースを下位レイヤ分割 (LLS) と呼びます。CUとDUは、いくつかの方法で相互を基準として、またRUを基準として構成できます。図4は、さまざまなRAN構成を示しています。F1インタフェースは遅延耐性を備えるのに対し、DU-RU間のインタフェースは低レイテンシである必要があることに注意してください。低レイテンシのインタフェースを構築するという課題を踏まえて、以降このホワイトペーパーでは中央RANと下位レイヤ分割のユースケースについて詳しく説明します。
図4: RAN機能ユニットの配置の柔軟性 (出典:NGMN、2018。
DUとRU間のインタフェースは、フロントホール (FH) インタフェースとも呼ばれます。FHインタフェースは最も要求の厳しいシステムインタフェースの1つであり、レイテンシに非常に敏感です。DUとRUの製造元が同じである場合、ほとんどのシステムはFHインタフェースとしてCPRIまたはeCPRI (5Gのみ) を使用します。CPRIは本来オープンなインタフェースとして意図されていましたが、実際にはベンダ各社が独自のハードウェアで動作するようにわずかに異なる方法で実装したため、マルチベンダの相互運用性が困難または不可能でした。オープンなホワイトボックスのハードウェアアーキテクチャは推奨されていませんが、DUとRU間で厳密な同期をより簡単に実現できます。DUとRUが同一ベンダのものであれば、送信と受信のタイミングは一致します (唯一の違いはDUとRU間の距離です)。
O-RANが掲げる2つの目標のうちの1つは、よりオープンなエコシステムを構築することですが、そのためには新しいFHインタフェースを定義する必要があります。O-RANの7つのワーキンググループの1つであるワーキンググループ4 (WG4) は、専らこのインタフェースの定義に取り組んでいます。オープンフロントホールインタフェースワークグループと呼ばれる同グループは、「マルチベンダのDU-RRU相互運用性を実現できる、真にオープンなフロントホールインタフェースを提供すること」を目的としています。図5は、提案されているDU-RU間のインタフェースによって異なるプレーンでどのように情報交換が行われるかを示しています。7種類のフローに加えて、さらに管理プレーン (M-Plane) のフローがあり、これらは困難に思われるかもしれませんが、より上位のレベルでは、合計4つのプレーン (制御 (C)、ユーザ (U)、同期 (S)、管理 (M)) にわたって3つのデータタイプ (I/Qデータ、タイミングと同期データ、コマンドと制御情報) のみとなります。
図5: 下位レイヤフロントホールのデータフロー (出典: O-RAN)。
注記:M-Planeのフローはここでは未記載。
オプション8の分割に基づいているCPRIと比較して、FHインタフェースではI/Qデータの転送、パック、アンパックの方法に大きな違いがあります。オプション8の分割ではネットワークをRFで分割するため、I/QサンプルはPHYの処理 (FFT/iFFT) を受けません。4Gの後期および初期の5Gにおけるネットワークの進化に伴い、eCPRIでは、MIMO (Massive Multiple-Input and Multiple-Output) で使用されるアンテナとサンプリングレート (アンテナあたり複数のサンプル) の増加により発生するトラフィックの削減を目指しました。システムトラフィックは物理接続をひっ迫させ、それらのトラフィックに対応できる接続の実装にはコストがかかります。
こうしたインタフェースのトラフィックを削減するため、eCPRIでは、PHYの特定の部分をRUに移し、圧縮アルゴリズムを追加しています。ただし、PHYのどの部分をRUに移すかは、特定の分割に従うわけではなく、ベンダによって異なります。このシナリオはベンダによっては競争上のメリットとなり、事業者のリンクコストを削減する可能性があります。下位レベルのPHY機能の一部をRUに移すため、それらの機能の実行方法をDUからRUに伝える必要があります。この命令により、eCPRIとO-RANのFHインタフェースの間でも異なるコマンド/制御インタフェースが作成されますが、ベンダ固有の分割を行うと、サービスプロバイダのベンダロックが永続します。 O-RANのオープンなFHインタフェースは、異なるベンダのハードウェアを統合できるように、7.2x分割を使用してPHYのどの部分をRUに移すかについて標準化を図ることを目指しています。
WG4では、FHインタフェースの最終化作業にあたって、そのテスト方法を検討する必要があります。異なるハードウェアベンダのDUとRUを含むシステムでは、システムインテグレータやベンダは、DUとRU間のインタフェースが適切であることを検証する必要があります。この種のテストのことを一般に相互運用性テストと呼びます。O-RANでは、O-RANに準拠したシステムのテスト方法について検討を進めています。図6のO-RANは、O-RAN-CU (O-CU) およびUE (エミュレートまたは商用が可能) を使用してO-RAN-DU (O-DU) およびO-RAN-RU (O-RU) をテストする場合のテストセットアップの例を示しています。CUとDU間のインタフェースを確認するテストポイントと、RUのRF入力/出力を確認するテストポイントがありますが、DUとRUは検査対象デバイス (DUT) として結合されます。これにより、アクティブ刺激を使用する場合はDUとRU間のFHインタフェースをテストせず、パッシブ監視の場合のみ考慮します。
図6: O-RANテストのセットアップ、アクティブ (左) およびパッシブ (右) (出典: O-RAN)。
FHインタフェースで考慮すべきアクティブテストとして、プロトコルテストとパラメトリックテストの2種類があります。O-RANでは、プロトコルテストがテストケースの検証とトラブルシューティングに必要であることを明示しています。設計検証のためのテストツールを開発時に用意することは、他のO-RAN準拠デバイスとのインタフェースを適切に行う上で重要です。設計が完成し、DUとRUが検証および製造の段階に入ったら、パラメトリックテストを行い、各ユニットが期待どおりに動作することを確認します。
RUはO-RAN基地局の重要なコンポーネントです。下位PHY層を提供してUEをRANに接続する一方で、O-RAN FHインタフェースを介してDUに接続します。RUは拡張性のあるコンポーネントです。そのため多数のRUを1つのDUに接続でき、複数のアンテナを備えたRUから複数のUEに同時に接続できます。この構成は基地局において最も数の多いコンポーネントでもあり、テストポイントも最も多くなります。そのため、テスト時間の短縮が運用効率にとって非常に重要になります。NIでは、こうした点を考慮しながら、これらの要件を満たす検証および製造テストソリューションを開発しました。
NIはSpientと提携し、O-RAN RUの包括的な検証のためのソリューションを作成しました。NIとSpirentのコラボレーションにより提供される完全自動の単一GUIからは、UE、RFチャンネルエミュレータ、RU (DUT)、DU、CU、およびコア (EPC/5GC) を制御でき、ユーザはエンドツーエンドの機能および性能テストを実行して、RU検証の機能のすべてを1つの統合/接続されたテストプラットフォームで利用できます。
図7: SpirentとNIによるRU検証のブロック図。
NIのO-RAN RU製造テストソリューションは、RUの製造において迅速で効率的なテストを実現します。このソリューションは、同じテストおよび自動化インタフェースでのRFおよびデジタルDUT制御、NI計測器による優れたタイミングと同期、リアルタイムのフロントホールリンク、高スループットのDUエミュレーションを備え、迅速で効率的な、費用対効果の高いRU製造テストを実現します。
NIパートナー製品とこのソリューションを併用することで、テスト全体のコストを削減し、市場投入までの時間を短縮できます。
図8: O-RAN RU製造テストのブロック図。
O-RANは、以下の3つの目標の維持に取り組んでいます。
これらの重要なイニシアチブを実現することで、O-RANは、ネットワークを進化させて将来性を高め、5Gで期待される機能やユースケース (URLLCなど) を取り入れることを目指しています。特にFHインタフェースについては、DU-RU間の通信で求められる低レイテンシのため、容易ではありません。O-RANのWG4ではこのインタフェースの策定を進めており、企業各社は他のO-RAN準拠ハードウェアに接続するO-RAN準拠RUの開発に着手しています。DU-RU間インタフェースの検証とテストができるかどうかは、設計と検証の双方の段階において重要であり、こうした新しいテクノロジが市場に登場する際には製造テストにおいても重要です。NIは、IOTテストハードウェアとソフトウェア、そして包括的なRU検証および製造テストソリューションを提供することで、新たなO-RAN準拠RUの市場投入の加速化を支援します。O-RANがいつ頃5Gネットワークで広く採用および利用されるかは依然として明らかではありませんが、現在O-RAN Allianceでは新しいインタフェースの実装に積極的に取り組んでおり、セルラーネットワークインフラストラクチャの改善と進化を図るべく、マルチベンダのハードウェアソリューションを活用した新しいネットワーク構築の方法を模索しています。