ダイレクトRFアーキテクチャを理解するためには、他のRFアーキテクチャとの違いを理解する必要があります。
ヘテロダインアーキテクチャでは、受信機がRF周波数の信号を受信した後、信号をより低い中間周波数 (IF) にダウンコンバートして、デジタル化、フィルタ処理、復調を行います。図1は、ヘテロダイン受信機のブロックダイアグラムです。ご覧のように、この受信機はバンドパスフィルタ、低ノイズアンプ、ミキサ、内部発振器 (LO) で構成されるRFフロントエンドを備えています。
図1. このヘテロダイン受信機のブロックダイアグラムは、この受信機がバンドパスフィルタ、低ノイズアンプ、ミキサ、内部発振器 (LO) で構成されるRFフロントエンドを備えていることを示しています。
ただし、ダイレクトRFサンプリング受信機アーキテクチャは、低ノイズアンプ、適切なフィルタ、およびADCだけで構成されます。図2の受信機はミキサやLOを使用しません。 ADCがRF信号を直接デジタル化してプロセッサに送信します。このアーキテクチャでは、受信機のアナログコンポーネントの多くをデジタル信号処理 (DSP) で実装することができます。たとえば、ミキサの代わりにダイレクトデジタル変換 (DDC) を使用してターゲット信号を分離することができます。また、ほとんどの場合、アナログフィルタ処理の多く (アンチエイリアスフィルタや再構成フィルタを除く) をデジタルフィルタ処理に置き換えることができます。
アナログ周波数変換が不要なため、ダイレクトRFサンプリング受信機のハードウェア設計全体がはるかにシンプルになり、小型化と設計コストの削減が可能になります。
図2. ダイレクトRFサンプリング受信機アーキテクチャは、低ノイズアンプ、適切なフィルタ、およびADCのみで構成することができます。
近年の変換器技術の進歩以前は、変換器のサンプリングレートと分解能の限界のため、ダイレクトサンプリングアーキテクチャは実用的ではありませんでした。半導体メーカーは変換器内のノイズを低減する新技術を使って、より高いサンプリング周波数で分解能を向上させることに成功しました。分解能が向上された、はるかに高速の変換器が利用可能になり、RF入力信号を数ギガヘルツまで直接変換することができるようになりました。
この変換レートにより、LバンドおよびSバンドで非常に幅広い即時帯域幅によるデジタル化が可能になります。変換器が進化を続けるにつれて、他のバンド (CバンドやXバンドなど) でのダイレクトRFサンプリングも実行可能になるでしょう。
ダイレクトRFサンプリングの主なメリットは、シンプルなRF信号チェーン、チャンネルあたりのコスト削減、チャンネル密度の低減です。ダイレクトRFアーキテクチャを備えた計測器は、アナログコンポーネントが少ないため、通常、小型で電力効率の高いものになります。多チャンネルシステムを構築する場合、ダイレクトRFサンプリングを採用すれば、システムに必要な設置面積の縮小とコストの削減を実現できます。これは、最大数百から数千ものアンテナから放射される信号を位相シフトすることでビームフォーミングを行う、完全にアクティブなフェーズドアレイレーダなどのシステムを構築する際に特に重要です。同じシステム内にこのように多くのRF信号発生器とアナライザが存在する場合、チャンネルあたりのサイズとコストが重要な要素になります。
サイズ、重量、消費電力 (SWaP) の低減に加えて、シンプルなアーキテクチャは、RF計測器内部のノイズ、イメージ、その他のエラー (LOリークや四位相偏移障害など) の潜在的な原因を排除できます。
最後に、ダイレクトRFサンプリングアーキテクチャは同期を簡素化することもできます。たとえば、RFシステムの位相コヒーレンスを実現するためには、RF計測器およびLOの内部クロックを同期させる必要があります。しかし、ダイレクトサンプリングではLOを必要としないため、デバイスのクロック同期にのみ焦点を絞ることができます。位相コヒーレントであることが必要な複数のRF受信機を持つフェーズドアレイレーダアプリケーションの場合、これが設計を簡素化するのに好ましい選択肢となります。
NIはさまざまなタイプのRFアーキテクチャに基づく各種RF計測器を提供していますが、FlexRIO IFトランシーバは、ダイレクトRFサンプリングを活用した初めてのNI計測器です。高速変換器の機能の進歩に合わせて、NIはベンダと緊密に連携し、このような新しいテクノロジをお客様に迅速に提供していきます。