現在では、PCを選ぶにあたり、かつてのようにただハードドライブ容量とプロセッサ速度を比較するだけでは不十分です。一般にPCを選ぶ際には、プロセッサ速度、使用可能なRAM、ハードドライブ容量、周辺機器用スロット数などの条件を考慮します。そしてもう1つの重要なポイントが、周辺機器用バスのアーキテクチャです。PCの進化に伴い、PCI、AGP、PCI-X、ISAなどさまざまなバスアーキテクチャが採用されてきました。PCI Expressの登場以来、コネクタサイズや仕様が多様化しているため、PCI Expressデバイスに適したPCを選ぶ作業は簡単ではありません。この技術資料では、PCI Expressの背景にある技術と、PCI Express周辺機器アーキテクチャ対応のPCを購入する際に検討すべき事項について解説します。
PCI Expressは、コンピュータ周辺機器用バスとして広く普及したPCIの進化版です。PCI規格の維持、発展を目的とした業界団体であるPCI Special Interest Group (PCI-SIG) は、ギガビットイーサネット、モジュール式ストレージデバイス、ハイエンドグラフィックスなどの周辺機器の帯域幅要件に対応し、既存のOSやPCI用に作成したアプリケーションとのソフトウェアの互換性も維持できるバスとしてPCI Expressを開発しました。PCI ExpressはPCIの帯域幅の制限に対処する目的で開発されたアクセラレーテッドグラフィックスポート (AGP) に代わるものです。PCI Expressの帯域幅はPCIの30倍にもなるため、グラフィックスを周辺機器用バスに戻し、次世代PCのビデオ帯域幅の向上にも貢献します。
バス | 帯域幅 | PCIと比較した増加 |
PCI | 132 MB/秒 | - |
X1 PCI Express | 250MB/秒 | 1.8x |
X4 PCI Express | 7.5X | 7.5x |
16X PCI Express | 30.3X | 30.3x |
表1は、さまざまなレーン幅でのPCI Expressの拡張可能な帯域幅をPCIと比較したものです。たとえば、x1 (1倍) PCI Expressスロットは各方向250 MB/秒ですが、x16レーン幅は4 GB/秒に対応します。帯域幅の向上のメリットと、PC技術のスケールメリット、さらにPCI Expressとのソフトウェア互換性のメリットが得られるアプリケーションとしては、高速データ収集、画像処理・解析システム、モジュール式イーサネットストレージ、多チャンネルデジタルI/Oなどがあります。
2007年1月には、PCI-SIGはPCI Express 2.0仕様を発表しました。この規格では、バスの帯域幅は250 MB/秒から500 MB/秒に倍増し、ポイントツーポイントデータ転送プロトコルとソフトウェアアーキテクチャが改善されました。この規格はまだ開発中で、2025年に7.0規格が予定されています。
PCI Expressアーキテクチャ | 帯域幅/レーン方向 |
1.x | 250 MB/秒 |
2.0 | 500 MB/秒 |
3.0 | 約1 GB/秒 |
4.0 | 約2 GB/秒 |
5.0 | 約4 GB/秒 |
6.0 | 約7.5 GB/秒 |
表2.PCI Express仕様レーンあたりの帯域幅。
現在ほとんどのPCには、PCI Expressスロットが少なくとも1個搭載されています。ただし多くのPCは、PCI Expressスロットが搭載されているのかどうかが判断しづらくなっています。一般に仕様ページや技術概要のページには搭載されている拡張スロットの記述がありますが、トップレベルからはリンクされていないことも少なくありません。多くのPCは、PCIとPCI Expressの両方の拡張スロットを搭載しています。
PCI Expressスロットのリンク幅は、デスクトップ、ワークステーション、サーバなどで異なります。多くのデスクトップシステムには、グラフィックカード用のx16スロットと、PCI Express周辺機器用のx1スロットが搭載されています。ワークステーションクラスのシステムは、グラフィックカード用のx16スロット1個とハイエンドPCI Express周辺機器用x4スロットを1個搭載していますが、サーバクラスのシステムはいずれもハイエンド周辺機器用のx4スロットとx8スロットを1個ずつ搭載しています。ハイエンドグラフィックスはサーバにとって重要な機能ではない一方で、追加のギガビットイーサネットポートなどの周辺機器用の帯域幅が重要であるため、通常x16グラフィックスロットはサーバクラスのシステムでは搭載されていません。
お客様のPCI Expressボードに合ったPCを選ぶ際には、下記の5つの要素について検討します。
お持ちのPCI Expressボードと同じサイズのPCI Expressスロットを推奨します。x4 PCI Expressボードをお持ちの場合は、x4スロットを搭載したPCを購入してください。
普通サイズのPCI Expressボードをお持ちの場合は、「ロープロファイル」PCI Expressシステムの仕様をチェックして、お手持ちのPCI Expressボードが使用できるかどうか確認してください。詳細については、「ロープロファイルPCIカードの概要」を参照してください。
一般に、x16 PCI Expressスロットはグラフィックス以外に使用しないでください。多くの場合、それらのスロットはグラフィックカード用に設計されています。
4レーンのみのx8 PCI Expressコネクタは、限られた数のPCにしか搭載されていません。それらのPCは、x4またはx1 PCI Expressボードを使用する予定がある場合のみ購入するようにしてください。
PCI Express 2.0マザーボードスロットは、PCI Express 1.xとの下位互換性を有しています。また、PCI Express 2.0ボードはPCI Express 1.1マザーボードと互換性があり、PCI Express 1.1の全帯域幅を使って実行できます。
アッププラグとダウンプラグ
上述のとおり、x4 PCI Expressボードをx8スロットに挿入することは可能です。この設定はアッププラグと呼ばれます。逆にx8 PCI Expressボードをx4スロットに挿入することをダウンプラグといい、物理的には不可能です。表3は、各種PCI Expressボード/コネクタの構成を示しています。
すべてのケースでアッププラグは物理的に可能ですが、PCI Express仕様ではどのスロットもx1リンク幅のみに対応するようになっています。マザーボードメーカーが帯域幅を低下させることなくアッププラグ機能を組み込むことは可能ですが、必須ではありません。たとえば、x4 PCI Expressボードをx8 PCI Expressスロットに挿入した場合、ボードはx4帯域幅の能力を備えていてもx1の帯域幅で動作する場合があります。これは、マザーボードのメーカー次第です。アッププラグを検討している場合は、ハードウェアがアッププラグをどのように処理するかをマザーボードのベンダに確認する必要があります。ダウンプラグは、PCI Expressコネクタのサイズのため物理的に不可能です。x8 PCI Expressボードは、x4コネクタには大きすぎて入りません。(注: CompactPCI Express仕様では、ダウンプラグもサポートされています)。
スロット | |||||
x1 | x4 | x8 | x16 | ||
カード | x1 | 必須 | 必須* | 必須* | 必須* |
x4 | いいえ | 必須 | 許可* | 許可* | |
x8 | いいえ | いいえ | 許可 | 許可* | |
x16 | いいえ | いいえ | いいえ | 許可 |
*アッププラグ
表3.スロットとボードの互換性 (アッププラグとダウンプラグ)。
PCI Expressの登場により、PCは高帯域幅と周辺機器用バスの拡張に対応可能となりました。このような拡張可能なアーキテクチャにより、PCを購入するときの構成オプションが広がりました。PCI Expressの最新仕様は下位互換性がありますが、PCを購入する前に、PCI ExpressとPCのコネクタサイズと互換性を再確認する必要があります。