タイミングと同期は、計測および制御システムに不可欠な要素です。パフォーマンスに優れたタイミングおよび同期を実現するための一般的な方法を学習します。NI PXIが、最新のタイミングおよび同期要件を満たす柔軟なシステムを容易に設計するために、ハードウェアおよびソフトウェアの面でどのように役立つかを検証します。
NI PXI Expressハードウェアは、柔軟性、複数チャンネル、複数計測器システムを構築するための業界最高水準の方法であり、特にタイミングおよび同期機能においてその優位性が際立っています。高品質のクロックを生成し、サンプルクロック、タイムベース、および低スキュートリガを共有することは、多くの計測やアプリケーションで欠かせません。
クロックの品質は、以下の要素に直接影響します。
共有クロック、タイムベース、トリガを活用した高精度な同期は、次の用途に不可欠です。
システムのサイズや構成が拡大すると、タイミングと同期の管理の複雑さも指数関数的に増すことがありますが、NI PXI Expressプラットフォームは、単一のPXI Expressシャーシ内で異なるI/Oを容易に同期させ、高いパフォーマンスを実現する多くの機能を備えています。PXI Expressのタイミングと同期アドオンハードウェアを活用すれば、同期機能を拡張し、マルチシャーシシステムを構築し、大規模環境でも標準的な時間プロトコルと連携できます。
PXI Expressシャーシとコントローラの内蔵機能は、さまざまな用途に活用できます。
さらなる確度向上や拡張性を求める場合、PXI Expressシステムにタイミングと同期機能のアップグレードを追加することで、次のタスクを実現できます。
PXI Gen 1は、複雑で柔軟性のあるシステム設計の標準化において大きな進歩を遂げましたが、PXI Expressは、PXIプラットフォームの最新の進化版であり、PXI Gen 1との下位互換性を維持しながら、計測I/Oデバイスに対して高度な同期を提供します。PXI Expressは、10 MHzのバックプレーンクロックだけでなく、PXI規格でもともと提供されていたシングルエンドPXIトリガバスや、長整合PXIスタートリガ信号も引き続き提供します。さらに、PXI Expressでは、100 MHzの差動クロックと差動スタートリガをバックプレーンに追加することで、耐ノイズ性の向上を図り、業界最高レベルの同期確度 (モジュール間スキューはそれぞれ、100 psと150 ps) を実現することができます。高周波数100 MHzクロックは、バックプレーンクロックに基づいてサンプリングクロックを制御するオシロスコープなどの高サンプリングレートデバイスの位相ノイズを低減するのに特に役立ちます。これらのクロックおよびトリガ信号 (PXI_CLK10、PXI_TRIG、PXI_STAR、PXI_DSTARA/B/C) は、PXI Expressシステムのタイミングスロットを制御できるNI PXI Expressタイミングデバイスを使用することで、他のPXIeシャーシやサードパーティ製デバイスに入出力できます。また、PXI Expressシステムは、NIの専用タイムプロトコルインターフェースを介して、IEEE 1588、IEEE 802.1AS、GPS、IRIG-B、PPSなどの時刻同期プロトコルにクロックおよびトリガ信号を連携させることができます。詳細および対応するNIモジュールについては、本書の後半にある表1を参照してください。
図1: PXIシャーシのタイミングと同期機能
バックプレーンのシステム基準クロックの位相ノイズと安定性は、システム内のモジュールの同期性能がどれほど信頼できるかを示すもので、PXIシャーシの重要な特性です。NI PXI Expressは、選定されたコンポーネントとバックプレーン設計により、市販されている他のシャーシと比較して、18スロットシャーシにおけるPXI Express 100 MHz差動システムクロックの位相雑音性能が業界最高水準となっています。
10 MHzと100 MHzのシステム基準クロックを、シャーシのバックプレーンに搭載されているものより高い安定性クロックソースに位相ロックループ (PLL) することができます。それにより、サンプルレートの高いPXIモジュールでも、サンプルを複数の計測器間でアラインすることができます。NI PXIシャーシのPLL回路は、外部基準にロックする際により多くのノイズを抑えるよう設計されているため、より高い安定性を持つクロックソースでよりノイズの少ない通信が可能となります。他社製シャーシでは、アプリケーションで必要とされるシステムクロックソースの位相ノイズによっては、システムレベルでシャーシのバックプレーンに位相ロックするのではなく、外部基準クロックを各モジュールに個別に位相ロックすることが必要となる場合があり、その結果システムが複雑化しコストも増大します。
NI PXI Expressタイミングと同期機能は、2種類の同期アーキテクチャ、すなわち信号ベースと時間ベースそれぞれのアーキテクチャに対応します。このモジュールの優れた柔軟性とカスタマイズ性を活かせば、要求性能のレベルが異なる複数のアプリケーションの開発が可能になります。
図2: 信号ベース同期および時間ベース同期のアーキテクチャの性能
NI PXI Expressの信号ベースのタイミングと同期アーキテクチャでは、クロックおよびトリガがモジュールとシャーシ間で物理的に接続されます。一般的には、このアーキテクチャを用いれば、最高精度の同期を実現できます。しかし、サブシステム間を接続するケーブルの距離が約200 mを超えると、クロックスキューやノイズの影響により、この性能を実現することはできません。
同期させるシャーシ間に必要な距離がケーブルでクロックおよびトリガ信号を確実に伝送するのには遠すぎる場合、時間ベース同期のアーキテクチャを使用する必要があります。時間ベースの同期は、タイムプロトコルに依存する他のシステムまたはDUTと統合する際の重要な側面でもあります。NI PXI Expressのタイミングと同期ソリューションでは、IEEE 1588、IEEE 802.1AS、GPS、IRIG-B などの絶対時刻参照プロトコルを利用して、長距離での同期を可能にします。
どの発振器も指定された周波数を完全には生成できません。 クロック誤差は、通常、絶対確度、長期安定性、ジッタの3つの主要な要素によって表されます。デバイスの同期によって、システム内のコンポーネント間における長期的な安定性の問題をクロック誤差の要因から排除できます。また、PLLを活用することでクロック共有時のジッタを抑制できます。ただし、より優れたクロックを使用しない限り、クロックの確度を向上させることはできません。クロックの確度が重要である場合、高品質なクロックソースが必要です。
NI PXI Expressシャーシでは、クロックソースは100万分の25 (ppm) の確度を持つ発振器です。より高い確度と安定性を備えた恒温槽付水晶発振器 (OCXO) を搭載したPXIe-6674TなどのNI PXIタイミンと同期モジュールをシャーシのシステムタイミングスロットに挿入することで、バックプレーン基準クロックを50 ppbの確度で発振器周波数ソースにロックしたり、外部クロックソースをインポートしたりすることができます。50 ppbでは長期安定性が不十分な場合 (数日間オフラインで実行するが、接続されていない他のシステムおよびデバイスと時間を相関させる必要があるシステムなど)、PXIe-6674Tを業界最高水準のルビジウムベースのPXIe-3352クロックソース、またはPXI-6683H、PXIe-3352、CDA-2990などのGPS同期発振器 (GPSDO) と組み合わせることができます。
図3: NI PXIe-6674T ― 業界最高レベルの性能を発揮するOCXOベースのPXIタイミングと同期モジュール
NI PXIタイミングと同期モジュールを導入し、複数台のPXIデバイス間で高精度のクロックソースを生成・共有すれば、システムクロックの誤差を全面的に改善できます。
PXIのタイミングトリガおよびクロックは、NI I/O計測器ドライバを使用して低レベルで設定できるほか、NI-Syncドライバを介してシャーシのすべてのタイミング機能をI/Oデバイスが直接利用できるように構成できます。インテリジェント信号エイリアスを使用すると、スロット番号ではなくデバイス名に依存するトリガのダイナミック経路をより簡単かつ柔軟に設定できるため、異なるシャーシまたは異なる計測器のセットにアプリケーションを容易に移行できます。このモジュール設計により、NI PXI Expressハードウェアは、要件の変化や直前のデバイス置換が求められるシステム設計に適しています。それは、同期アーキテクチャやルーティングの複雑な処理は、通常プログラムで設定できるためです。
NI IO計測器ドライバでの同期の詳細については、NI-DAQmxのタイミングと同期機能を参照してください。
NIは、複数のDAQモジュールを同期設定できるように、NI-DAQmxドライバに革新的な手法を導入しました。ほとんどの単一タイプのDAQモジュールで構成されたシャーシ全体を、1つのマルチデバイスタスクでプログラミングできます。マルチデバイスタスクを利用すると、同じDAQmxコードを使用して、アプリケーションを1チャンネルから544チャンネルまで拡張できます。また、単一のDAQmxタスクを使って、測定タイプの異なる複数のボード間でチャンネルを自動的に同期することができます。
PXI ExpressでのDAQmxチャンネル拡張の詳細については、以下を参照してください。
DSA、SC Express、Xシリーズでのマルチデバイスタスク
NI-DAQmxによるPXI Expressモジュールの同期
高速PXIモジュール式計測器の同期を必要とするアプリケーションにおいて、要求されるクロックとトリガを分配することで高度な同期を実現することは困難です。スキューやジッタによって遅延やタイミングの不確実性が生じることがあるからです。異なるサンプリングレートで実行される異種計測器を同期しようとすると、さらに複雑になります。
このような場合の正確な同期には、すべての計測器間で低スキュー基準クロックを共有すること、位相ロックループ (PLL) とその基準クロックに接続された乗算器を使用して各デバイス固有のサンプルクロックを生成すること、低スキュートリガをすべての計測器に配布すること、微調整可能な遅延補正メカニズム、および調整の基礎となるキャリブレーション計測などが関わります。これは、ハードウェアとソフトウェアの両方の実装において複雑であるだけでなく、非常に脆弱です。わずかな計測器モデルの変更でも、アーキテクチャ全体の再構築やキャリブレーションのやり直しが必要になる可能性があるためです。
NI PXIは、混在型で柔軟性が高く、高速かつ拡張可能なIOシステムを構築する最適な方法です。高速計測器による同期の複雑さを軽減するために、NIはNI-TClkという特許取得済みの同期方法を開発しました。この方法を使用すると、高速計測器の追加が大幅に簡素化され、同期確度を1 µs (標準)、または手動キャリブレーションによる数十psに抑えることが可能です。
NI-TClk技術は、以下の方法でお客様を支援します。
柔軟性のあるNI-TClkテクノロジは以下のユースケースに適用できます。
NI-TClk技術を導入すると、特に設定などを行うことなく、PXIモジュール式計測器の同期性能を直ちに向上させることができます。主なソフトウェアコンポーネントは3つのLabVIEW VI/C関数で構成され、パラメータの設定は必要ありません。NI-TClkアーキテクチャでは、各デバイス間で最悪1 nsのスキューでデバイスを同期させることができます。一般に観測されるスキューの範囲は200 ps~500 psです。各デバイスのサンプルクロックを手作業で校正すれば、デバイス間のスキューを30 ps未満にまで低減できます。
図4: 不可欠なNI-TClk機能
高速かつ異種デバイスの同期確度が求められる状況において、NI-TClkは膨大な複雑さをわずか3つのVIに集約します。最大18スロットのPXIシャーシ内では、すべてのNI-TClk対応デバイスが、PXIシャーシの内蔵機能を使用してこれら3つのVIと同期できます。追加のケーブルなし。外部PLLなし。手動ルーティングなし。特別なソフトウェアも必要ありません。すべてNI-TClkによって自動的に処理されます。モデルを他のモデルと交換したり、計測器のスロットを変更したり、サンプリングレートを変更したりしても、この同期コードを再作成する必要はありません。NI-TClkは、それらの変更に自動的に適応し、テスト作成者が複雑なトリガアーキテクチャの解決に時間を費やすことなく、テストステップのロジックに集中できるようにします。「NI-TClkでサポートされているNIモジュールとデバイス」には、NI-TClkをサポートするI/Oデバイスの一覧が記載されています。
PXI Expressの優れたタイミングと同期機能の多くはPXI Expressシャーシに組み込まれていますが、一部の機能は特別なシャーシのアップグレード、モジュール、またはアクセサリを通じて提供されます。これらのオプションについて簡単に説明します。
製品 | 概要 | 技術概要 |
---|---|---|
PXI Expressシャーシ | 複雑なテストおよび計測システムを構築するための最も柔軟で機能的なプラットフォーム | 内蔵の25 ppm確度のPXI_Clk10、オンボードPXI_TRIG/PXI_STAR、シャーシ内での簡単なトリガおよびクロックルーティング、NI-DAQmxチャンネル拡張サポート、NI-TClkサポート |
外部トリガアクセス付きPXIe-1084 | 統合クロック入出力機能を搭載したシャーシ | 標準的なPXIeシャーシ機能、PXI_Clk10およびPXI_TRIGラインのインポート/エクスポート/デイジーチェーン対応 |
| 統合クロック入出力機能を搭載したシャーシ | 標準的なPXIeシャーシ機能、PXI_Clk10のインポート/エクスポート/デイジーチェーン対応 |
PXIe-1092 (OCXO内蔵) | 統合クロック入出力機能およびOCXOを搭載したシャーシ | 100 ppb未満の確度のPXI_CLK10、標準的なPXIeシャーシ機能、PXI_Clk10およびPXI_TRIGラインのインポート/エクスポート/デイジーチェーン対応 |
PXIe-1095 (OCXO内蔵) | 統合クロック入出力機能およびOCXOを搭載したシャーシ | 100 ppb未満の確度のPXI_CLK10、標準的なPXIeシャーシ機能、PXI_Clk10およびPXI_TRIGラインのインポート/エクスポート/デイジーチェーン対応 |
PXIe-6674T | すべてのPXIタイミング信号の生成およびインポート/エクスポートに対応する1スロットのタイミングマスターモジュール | 100 ppb未満の確度のPXI_CLK10、マルチシャーシ同期のためにPXI_Clk10/PXI_TRIG/PXI_STAR/PXI_DSTARのインポート/エクスポートを可能にし、DDSクロック生成機能も搭載 |
PXIe-6672 | ほとんどのPXIタイミング信号の生成およびインポート/エクスポートに対応する1スロットのタイミングマスターモジュール | 5 ppm未満の確度のPXI_CLK10、マルチシャーシ同期のためにPXI_Clk10/PXI_TRIG/PXI_STARのインポート/エクスポートを可能にし、DDSクロック生成機能も搭載 |
PXIe-3352 | 2スロット超安定クロックソースモジュール | 0.030 ppbの確度の10 MHzルビジウムクロックは、PXIe-1085、PXIe-1092、PXIe-1095、PXIe-6674T、PXIe-6672を介して取り込むことができ、ルビジウムホールドオーバー機能を持つGPS同期発振器やPPSの入出力にも対応 |
PXI-6683H | 1スロットタイミングプロトコルインタフェースおよびGPS同期発振器モジュール | 5 ppm未満の確度のPXI_CLK10、PXIe-1085、PXIe-1092、PXIe-1095、PXIe-6674T、PXIe-6672でインポート可能なGPS同期発振器、GPS位置決め、PPSインポート/エクスポート、IRIG-Bサポート、IEEE-1588およびIEEE 802.1AS (Linuxのみ) タイムキーパー、およびOSシステム時間を上書きできるタイムスタンプ |
CDA-2990 | クロック分配およびGPS同期発振器アクセサリ | GPS同期発振器10 MHz、PPS出力、1~8クロック分配 |
cRIO-9805 | IEEE 802.1ASイーサネットスイッチ | 4ポート |
表1:PXI Expressタイミングと同期強化製品