NIでは、計測および自動化アプリケーションに役立つ高性能なPXI Express/PXIシャーシを各種ご用意しています (表1を参照)。NIのシャーシは、高性能バックプレーンを採用し、作りも堅牢で信頼性の高いものとなっています。ポータブル、ベンチトップ、ラックマウント、組み込みシステム、信号調節機能内蔵システムなど、あらゆるシステムでアプリケーションに最適なNIシャーシを見つけることができます。NI PXI Expressシャーシは、PXI Express/CompactPCI Expressモジュールに対応しています。さらに、すべてのNIシャーシはPXIモジュールおよびCompact PCIモジュールと互換性があります。このホワイトペーパーでは、冷却性能、音響性能、電源の信頼性を向上させるNI製品の機能についてご紹介します。
NIのシャーシは、電力負荷の高いほとんどのPXIモジュールの冷却要件を満たすか上回るように設計および検証されています。PXI仕様では、各周辺スロットで少なくとも25 Wの電力が利用でき、各スロットで同じ量の熱を放散可能なことを条件としています。PXI Expressではこの電源仕様が約20%高められており、シャーシは少なくとも30 Wの電力を供給し同じ量の熱を放散することが規定されています。
NIが設計したPXI Expressシャーシは、すべての周辺スロットに最低38.25 Wの電力と冷却を提供することで、PXI Expressの要件を上回っています。一部のシャーシはスロットの冷却能力をさらに高め、1つのスロットに58 Wまたは82 Wの冷却能力を提供します。そのため、連続集録や高速テストなどを行う必要のあるアプリケーションでも、デジタイザ、高速デジタルI/O、RFモジュールなど高性能モジュールの上級機能が利用可能となります。シャーシの合計電力はさまざまであるため、新しいシステムを構成する際は、常にシステムレベルのパワーバジェットを実行することがベストプラクティスです。
図1:特許取得済みの背面冷却ファン設計を特徴とするNI PXIe-1062Q。
多くのNI PXIシャーシは、この特許取得済みの背面冷却ファン設計を採用しています。図1に示すように、シャーシ (2) の背面からの空気が回転翼を通ってすべてのモジュールスロット (1) 間に均等に分配されます。そうすることで、ファンがモジュールのすぐ下にある設計のシャーシに比べ、冷却機能が向上し空流が停滞するスポットが少なくなります。また、ファンがシャーシの背面にあることで、モジュールが影響を受けるファンのモータからの電気ノイズの量も減らすことができます。
NIではスロットブロッカーもご用意しています。スロットブロッカーとは、使用していないシャーシスロットに挿入するプラスチック製のモジュールフィラーPXIカードです。それにより空のスロットでの空流のバイパスが軽減され、挿入されているモジュールの電気部品の温度上昇を最大20%抑えることで、モジュールの入っているスロットの空流が効率化されます。
表1は、そのような設計によってNI PXIシャーシが得られる冷却性能を他の主要ベンダ製品と比較したものです。この評価は、シャーシに挿入されているPXIモジュールのコンポーネントの平均温度を計測して行いました。NI PXIe-1075シャーシは、ファン速度設定「自動」で同等の冷却機能、「高」ではより優れた冷却機能を実現します。
表1: NI PXIシャーシと他の主要ベンダ製品の冷却性能の比較。
一部のNIシャーシはさらに高い冷却能力を提供できますが、すべてのNI PXI Expressシャーシは各スロットに最低38.25 Wの冷却能力を提供できます。この仕様はそれぞれ38.25 Wの電力消費を必要とするモジュールが挿入されたシャーシに有効であるという点が重要です。他の主要ベンダが提供するシャーシで常に同じことが当てはまるとは限りません。それらのベンダも38.25 Wを超える電力供給と冷却の機能を謳っていますが、すべてのスロットについてではなく、制約のある厳しい注意点に従った場合に限ることが少なくありません。
最後に、上記の表2からもわかるように、スロットあたり38.25 Wの冷却機能を備えたNI PXIシャーシであっても、38.25 Wを超える冷却性能を仕様に記載している他社の製品より冷却性能が優れている場合があります。
上述のような優れた冷却機能を備えていながら、NI PXIシャーシはシステム全体のアコースティックエミッションを最小限に抑えるよう設計されています。PXIシステムはアコースティックエミッション要件が異なるラックマウント型自動テストとベンチトップ型検証環境の両方で使用されるため、この点は重要です。ファン速度の制御、使用するファンの種類、ファンの取り付け方法などにより、放出される音響ノイズを最小限に抑えながら冷却の最適化が可能となります。
多くのNI PXIシャーシでは、ファン速度選択スイッチを使って、「高」と「自動」の2つのファン速度から選ぶことができます。「自動」に設定すると、シャーシのファン速度はシャーシのファン吸気口での周囲温度に比例して制御されます。30℃より低い場合、シャーシの冷却システムはアコースティックエミッションを最小限に抑える音響性能領域で動作します。30℃を超える周囲温度が計測された場合、シャーシの冷却ファン速度もそれに伴って上昇します。ファン速度を「高」に設定すると、シャーシは周囲温度に関係なく空流を最大限に高めます。このモードは、音響ノイズが重要でないアプリケーションや、より冷却機能を高めることでシステム内のPXIモジュールの寿命を延ばすことを目的としている場合などに適しています。
ファン速度 | 音圧レベル[dBA]* | ||||
| PXIe-1084** | PXIe-1095** | PXIe-1062Q | PXIe-1075 | PXIe-1085 |
Autoファン (最高30°C) | 34.4 | 37.7 | 43.6 | 45 | 51.2 |
Highファン | 55 | 56.6 | 62 | 63.3 | 64.1 |
表2: PXI Expressシャーシの音圧レベルの比較。
* 音圧レベルはISO 7779規格で定められた計測法に従い、操作者位置で測定
** 38 W冷却プロファイルモードを適用した場合。58 W/82 W冷却プロファイルを適用した場合の音圧レベルはこれより高い
NIでは、多くのPXIシャーシにパルス幅変調 (PWM) ファンを採用していますので、従来型の電圧制御ファンに比べアコースティックエミッションをさらに低減することができます。PWM信号によるファンの制御を採用したことで、ファンのRPM設定を広範囲にすることが可能となるため、シャーシのアコースティックエミッションと冷却性能の微調整が行えるようになります。
PXI仕様の冷却要件を満たす (および上回る) には、NI PXIシャーシに内蔵するファンは強力なものでなくてはなりません。多くのNIシャーシでは、振動を緩和する素材で製造したファンマウントを使用しているため、シャーシのフレームがファンの機械的振動から隔絶され、さらに音響ノイズが軽減されます。多くのNI PXIシャーシでは、それらのマウント (つまりファン) は多くの場合背面に設置されているため、PXIモジュールに伝達される電気ノイズ (EMI) の量の軽減にもつながります。
NI PXIシャーシは、システム全体のアコースティックエミッションの低減を念頭に設計されており、しかも同時に強力な冷却性能を実現しています。表2を見ると、38 W冷却モードのPXIe-1084など、一部のシャーシファンはベンチトップ性能に最適化されています。なお、ノイズが10 dB低減されることは、ヒトの感覚上ノイズが1/2になることを意味します。
NIは、8~18スロットのPXI/PXI Expressシャーシの多くの製品で、計測器レベルの電源の設計オーナーシップを保持しています。そのため、NIはそれらの電源の長期安定供給を保証しており、電源メーカーの変更によるシャーシ設計の変更もあまりありません。逆に、標準のPC電源のみを採用している他のPXIベンダは、電源の品質について関与することがほとんどできません。
NI PXIシャーシに内蔵されている計測器品質の電源は、パーソナルコンピュータ向けに設計されたATX電源とは異なり、PXI特有の電源要件に準拠するように設計されています。PXI仕様の最小電源要件を満たしさらに上回るよう、NIシャーシ向けのカスタム設計となっています。これらの電源を搭載したNI PXI Expressシャーシは、シャーシ内のすべてのモジュールに少なくとも38.25 Wの電力を供給できます。PXIe-1095など一部のシャーシではこれをさらに推し進めて、シャーシ内のすべてのモジュールに82 Wの電力を供給できます。
表3: NI PXI Expressシャーシは、PXIの最小電流仕様を上回るように設計されている。
NIの製品ドキュメントで、シャーシ電源からモジュールに供給される総電力量を指定しています。一方他社の多くは、電源の出力を掲載しています。総電力量からファンやバックプレーンなどのシャーシコンポーネントで消費される電力量を引いたものが、コントローラとモジュールで利用できる電力量となります。NI PXIシャーシのマニュアルでは、各電圧レール上の電流とスロットあたりの最大消費電力量を明記しています。
PXI Systems Allianceが定義するPXIプラットフォームの仕様によると、PXI Expressシャーシはシステムコントローラとモジュールスロットに電力を供給するため、3.3 Vと+12 Vのバックプレーンレールに650 Wの電力を供給することを必須としています。ベンダ各社が提供するPXIシャーシを比較する際には、総電力量やスロットあたりの電力量だけでなく、「バックプレーンに供給される電力」などの仕様を考慮することが重要です。NIでは、電力仕様を定義する際、総電力、バックプレーンに供給される電力、スロットあたりの電力のいずれであるかを明確にしています。他社製品の中には、通常の設置/動作環境では実現不可能な誤解を与える電力仕様を謳っているものもあります。
PXIベースのシステムを高周囲温度環境 (最大55℃) で動作させるアプリケーションの需要が高まっています。NIのPXIシャーシは、最小限の電力低下でこのような需要を満たすことができます。電力低下とは、高温など極端な環境条件で動作させたときに、シャーシのスロットに供給される電力の低下のことをいいます。他の多くのベンダのPXIシャーシは、より低い動作周囲温度 (20~35 ℃) での利用可能な電力のPXI仕様は満たしていますが、より高い温度 (40℃超) になると不安定または動作不能になることがあります。
図2:NI PXIは全温度範囲で指定された電力をバックプレーンに供給する。
NI PXIシャーシは計測器品質の電源を採用しているため、電力低下を起こすことなく、全指定動作温度範囲 (0~-50/55℃) にわたって最低限の電力要件を満たすことができます。繰り返しになりますが、NI PXIシャーシは、すべてのスロットがモジュールで挿入された状態でも、データシートに記載された高温環境で動作可能です (特定のモデルのNI PXIシャーシの動作温度範囲につきましては、製品マニュアルを参照してください)。
特に冷却ファンなどシャーシ内の可動機械機構により発せられる電気的ノイズは、PXI/PXI Express周辺モジュールの計測確度低下の原因となります。それを防ぐため、多くのNIシャーシには背面に冷却ファンが設置されているだけでなく、冷却ファンやシステムコントローラスロット、場合によっては電源ファンなどに電力を供給するための専用の12 V電源も備えていますので、それらのコンポーネントから計測モジュールに電力を供給するレールへの結合ノイズを防止することができます。
ほとんどのNIシャーシは、バックプレーンの電源レールに出力電圧のリモート検出機能も備えているため、電圧低下を補償することも可能です。この設計機能は、特に高電力モジュールを使用するアプリケーションでPXI/PXI Expressシャーシを使う場合に重要です。大きな負荷の変動が起こった際に、バックプレーンで調整が行いやすいためです。
電力供給能力が重要なシステム向けに、NIでは電力障害が発生した場合に備え、8スロット以上のシャーシ用の簡単に交換可能な電源とファンユニットをご用意しています。ユニットは、背面から交換することができます。固定ネジを取り外して電源ユニットをスライド式に出し入れするだけです。このような設計のおかげで、電源の平均修理時間 (MTTR) は5分未満となっています。ラックマウント型で設置されているシャーシの場合は、シャーシの背面に手が届くようにさえなっていれば、モジュールを取り出したりI/Oの再接続などを行わなくても、電源とファンユニットを交換することができます。
PXIシステムの主な利点として、統合されたタイミング/同期機能があります。PXIシャーシは、専用の10 MHzシステム基準クロック、PXIトリガバス、スタートリガバス、スロット間ローカルバスを搭載していますが、一方PXI Expressシャーシは、さらに100 MHzの差動システムクロック、差動信号、差動スタートリガを搭載しているため、高度なタイミング/同期にも対応できるようになっています。
図3:PXI Expressのタイミングと同期機能は大きな利点である。
バックプレーンのシステム基準クロックの位相ノイズと安定性は、システム内のモジュールの同期性能がどれほど信頼できるかを示すもので、PXIシャーシの重要な特性です。 NI PXIのコンポーネントとバックプレーン設計により、18スロットシャーシに搭載されているPXI Express 100 MHz差動システムクロックの位相ノイズ性能は、他社製シャーシの同等モデルに比べ1,000倍 (30 dB) 近く優れています。
10 MHzと100 MHzのシステム基準クロックを、シャーシのバックプレーンに搭載されているものより高い安定性クロックソースに位相ロックループ (PLL) することができます。それにより、サンプルレートの高いPXIモジュールでも、サンプルを複数の計測器間でアラインすることができます。NI PXIシャーシのPLL回路は、外部基準にロックする際により多くのノイズを抑えるよう設計されているため、高安定性クロックソースでよりノイズの少ない通信が可能となります。他社製シャーシでは、アプリケーションで必要とされるシステムクロックソースの位相ノイズによっては、システムレベルでシャーシのバックプレーンに位相ロックするのではなく、外部基準クロックを各モジュールに個別に位相ロックすることが必要となる場合があり、その結果システムが複雑化しコストも増大します。
図4:PXI Express基準クロックの性能の比較。