半導体スイッチ技術テストかかるコスト削減

内容

はじめに

自動車のエンジンや熱電対など様々な製品に使用されるメカニカルリレーは、どのようなソースからの信号でもルーティングできる使いやすい低コストデバイスです。自動テスト市場で頻繁に利用されるようになったのは当然の結果です。ただし、多くの業界に使用されているにもかかわらず、メカニカルリレーは低速な上に寿命が限られているため、半導体テストなどのアプリケーションには適していません。

半導体とは、長年にわたって進化を続けてきた量産デバイスです。これらのデバイスが複雑になればなるほど、そのテストに関わるオーバーヘッドも複雑になります。現在では、半導体チップがあまりにも高度になり、製造よりもテストの方がコストがかかる場合もあるほどです。チップのコストを長期的に低く保つためには、各デバイスのテストにかかる時間を短縮して、計測費用を最小限に抑えることで、テストのコストを削減する必要があります。スイッチシステムの場合、切り替え速度が高く寿命が長い部品を用いるのが最善策です。このような特性は、メカニカルリレーにはなく、ソリッドステートリレー(SSR)や電界効果トランジスタ(FET)スイッチなどのデバイスが持ち合わせているものです。毎秒50,000チャンネルにのぼるスイッチ速度と無限の寿命を持つ FET と SSR を使用すれば、テスト時間が短縮されるとともにスイッチ部品の交換頻度が少なくなるので、多くのアプリケーションでオーバーヘッドを低減できます。さらに、小型のフォームファクタによってスイッチシステムにかかる初期費用も低く抑えることができます。

ソリッドステートリレー(SSR)は?

ソリッドステートリレーとは、LED を使って制御する感光性の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を使用して構築されています。カプセル型 LED からの光によって感光性の MOSFET が作動し、電流が流れます。

図1.ソリッドステートリレー(SSR)の構造

LED の作動により制御回路と MOSFET の間が絶縁されているため、SSR は高電圧アプリケーションに適しています。ただし MOSFET がスイッチ処理を行っているため、接点間にガルバニックバリアは生じません。MOSFET 上にゲートドライブがない場合、MOSFET のドレイン‐ソースチャンネルには非常に高い抵抗が存在します。そのため接点間の接続は切断されます。SSR は、メカニカルアームの代わりにソリッドステートリレーである MOSFET を利用して状態をスイッチするため、寿命は無限です。また、SSR によるスイッチの時間は LED の電源オンとオフの切り替えにかかる時間(それぞれ約1 ミリ秒と0.5ミリ秒)に依存するため、SSR のスイッチ速度はメカニカルリレーより高速になります。

PXI-2533およびPXI-2534 256クロスポイントマトリクスモジュールは、SSR 技術を採用した高密度スイッチ製品です。どちらのモジュールも無限の寿命と無制限数の同時接続が可能で、全チャンネルにおいて1 A で最大60 V の信号のスイッチを行うことができます。

図2.NI PXI-2533/PXI-2534 256クロスポイント SSR マトリクスモジュール

 

電界効果トランジスタ(FET)スイッチは?

SSR と同様に、FET スイッチもメカニカルデバイスではないため、寿命は無限です。FET スイッチは、一連の CMOS トランジスタを使って回路の接続と切断を行います。SSR と異なるのは、制御回路が LED ではなくトランジスタのゲートを直接作動させる点です。トランジスタゲートの直接駆動により、LED の電源オン/オフにかかる時間は問題外となるため、はるかに高速のスイッチ処理を実現できます。また、機械部品や LED を搭載していないため、FET スイッチは非常に小さいサイズにすることもできます。ただし FET スイッチにも欠点はあります。物理的な絶縁バリアがないため、低電圧信号でしか使用できません。

FET スイッチは、マルチプレクサおよびマトリクス構成の高速の低電圧アプリケーションに最もよく使用されます。PXI-2535/PXI-2536 544クロスポイントマトリクスモジュールは、FET ベースのスイッチモジュールで、最大で毎秒50,000クロスポイントの速度でスイッチ処理を行います。

図3.NI PXI-2535 544クロスポイント FET スイッチモジュール

進化するFET/SSRテクノロジ

これまで FET および SSR デバイスは、時に1 kΩ にもなるパス抵抗のために、テストシステムで計測エラーを引き起こすとされてきました。それが自動計測に用いられない理由となっていました。しかし近年のトランジスタ技術の進歩により、FET と SSR のパス抵抗がメカニカルリレーと同等にまで低減されたのです。例えばNI PXI-2533 256クロスポイント SSR リレーはパス抵抗が1 Ω で、これはほとんどのメカニカルリレーモジュールのパス抵抗と同等かそれ以下です。このような画期的な技術的進歩により、無限の寿命や高速スイッチ処理など、FET/SSR 技術が本来持つメリットを活用することが可能となりました。

PXI FET/SSRスイッチモジュールテストコスト削減

FET/SSR デバイスを使用すると、初期費用の削減、スイッチシステムの寿命延長、テスト時間の短縮などにより、自動テストシステムのコストを削減することができます。

サイズがコンパクトであることが、PXIスイッチシステムの初期費用の低減につながっています。PXI スイッチモジュールのコストは、リレーコンポーネント、バックエンド回路、PCB やオーバーレイといったモジュールを構成する材質などのコストに左右されます。また小型のフォームファクタにより、極めて高密度のシングルスロット PXI スイッチモジュールが簡単に構築できます。そのため、半導体テスタなどに使用されるような高密度スイッチシステムを構築するのに必要な PXI モジュールの数を減らすことができます。使用するモジュールが少なければ、材料やバックエンドアーキテクチャにかかるコストも抑えられます。PXI-2535 544クロスポイントマトリクスは、FET 技術を使って構築された非常に密度の高い PXI スイッチモジュールの一例です。

FET の特長である無限の寿命と高速スイッチ処理は、テストシステムのコスト削減にも役立ちます。ここで500の I/O ポイントを持つチップに対し10種類のパラメトリックテストを行うための半導体テストシステムについて考えてみます。使用するチップは、複数の機種の携帯電話に搭載されている1社の製品です。それらの携帯電話の累計売上数は、推定で月100万台となっています。NI PXI-4130ソースメジャーユニット(SMU)と、SMU の全500ポイントをルーティングするためのフロントエンドを使用して、中断することなく連続的に実行する必要のあるシステムを構築しました。工場環境で稼働するのに1日あたり5,000 USドルかかると仮定します。FET ベースのスイッチ製品とメカニカルリレーベースの製品を使用した場合のコストを比較すると、以下のようになります。

PXI-2535 544クロスポイント FET スイッチを使用した場合、100万個のチップ全てを12日未満でテストできました。FET の寿命は無限なので、スイッチモジュールの交換コストもかかりません。

図4.SMUと544クロスポイントFETスイッチを使用した半導体テスト

メカニカルリレーを用いたスイッチモジュールで同じ密度のものを使用した場合、コストははるかに高くなります。メカニカルリレーの寿命は通常100万回程度で、速度は毎秒250チャンネルです。100万個のチップを全てテストする場合、各リレーは1000万回閉じるため、リレーモジュールを10回交換することが必要になります。各モジュールは5,000ドルするので、システムの維持費用は15,000ドルになります。メカニカルリレーの速度が遅い場合は、FETを用いた場合に比べさらにコストが高くなります。メカニカルリレーを使って100万個のチップをテストするのに231日かかったため、運用コストは FET ベースのソリューションに比べ1100万ドルも多くかかりました。テスト期間が長くなると、在庫管理や製品の出荷にまでしわ寄せがいくことになります。

これは仮説でしかありませんが、FET/SSR テクノロジを利用することで実現できるコスト削減の効果を示す一例です。

 

まとめ

自動テストシステムにおける信号ルーティングのソリューションは、1つではありません。実際に、利用できるソリューションの数は増え続けています。FET/SSR を利用したスイッチソリューションはこれまでも販売されていましたが、トランジスタ技術の進歩のおかげで、最近になってようやく現実的なオプションとなりました。そのような技術の進歩により、高速スイッチ処理、無限の寿命といったソリッドステートスイッチのメリットを活用して、より高速で品質の高いテストシステムを低コストで構築することが可能となりました。