LabVIEW FPGAモジュールをターゲットにして再プログラムできるFPGAを搭載した最初のオシロスコープは、PXIe-5170R、PXIe-5171R、PXIe-5172でした。この計測テクノロジの進歩により、デバイスや実験の変化に応じて、現在および将来のニーズを満たすようにオシロスコープの動作を定義することができます。PXIe-517xオシロスコープは、ユーザによるプログラムが可能なFPGAだけでなく、チャンネル密度、確度、測定の柔軟性の面で優れています。PXIe-517x再構成可能オシロスコープは、テストのコスト削減、市場投入までの時間短縮、テスト歩留まりの向上を支援します。
PXIe-5170R、PXIe-5171R、PXIe-5172は、多数のオシロスコープチャンネル、14ビットA/D変換器 (ADC) がもたらす高い測定分解能、標準のデバイスドライバによる計測器のプログラミングの柔軟性、ユーザによるプログラムが可能なFPGAによるファームウェアレベルのカスタマイズが必要な測定課題に最適なオシロスコープです。以下の特長があります。
図1: PXIe-517xオシロスコープは高チャンネル密度、250 MS/sのサンプルレートを有する再構成可能なオシロスコープで、科学研究、高性能機械、航空宇宙/防衛分野のテストや半導体に最適。
PXIe-517xは、データストリーミング用高性能デジタルサブシステム、長時間の波形記録に対応した大容量メモリ、およびXilinx Kintex-7 FPGAを使用した共通のアナログアーキテクチャとしています。
仕様 | PXIe-5170R | PXIe-5171R | PXIe-5172 | |||
分解能 | 14ビット | |||||
サンプルレート | 250 MS/s | |||||
入力レンジ | 200 mVpp、400 mVpp、1 Vpp、2 Vpp、5 Vpp | 200 mVpp、700 mVpp、1.4 Vpp、5 Vpp、10 Vpp、40 Vpp、80 Vpp | ||||
オフセット | なし | ±20 V | ||||
入力インピーダンス | 50 Ω | 50 Ωおよび1 MΩ | ||||
Open FPGA | Xilinx Kintex-7 325T | Xilinx Kintex-7 410T | Xilinx Kintex-7 325T | Xilinx Kintex-7 410T | ||
メモリ | 750 MB | 1.5 GB | 1.5 GB | 750 MB | 1.5 GB | 1.5 GB |
チャンネル数 | 4 | 8 | 8 | 4 | 8 | 8 |
全帯域幅 | 100 MHz | 250 MHz | 100 MHz | |||
フィルタ (有効/無効切り替え可能) | なし | 100 MHz | 20 MHz | |||
カプリング | ACおよびDC | |||||
アナログ性能 | ~-78 dBc (30 MHz信号、アンチエイリアスフィルタ有効) | ~-80 dBc (30 MHz信号) | ||||
>10.2 ENOB (全帯域幅、0.4 Vpp~5 Vppレンジ) | 11 ENOB (全帯域) | |||||
11 ENOB (アンチエイリアスフィルタ有効、0.4 Vpp~5 Vppレンジ) | 11.9 ENOB (20 MHzフィルタ有効) | |||||
バスインタフェース | x8 Gen 2 PXI Expressリンク、持続可能ストリーミングレート3.2 GB/s |
表1: PXIe-517xシリーズのオシロスコープは、さまざまなアプリケーションに対応するオプションを備えている。
コンパクトながら柔軟性に富み、かつ高い性能を有するPXIe-517xオシロスコープは、データ転送用に高速シリアルインタフェースJESD204Bを採用した低消費電力かつ高分解能のADCや、高性能かつ低消費電力のXilinx Kintex-7 FPGAなどの最新技術を導入しています。
PXIe-517xオシロスコープは、Analog Devices社のノイズ密度に優れた低電力14ビットADCを搭載しています。このADCを採用することで、PXI 1スロット分のサイズに極めて低ノイズながら250 MS/sのサンプリングを可能とするチャンネルを8個設けることができました。ただ、PXIe-517xオシロスコープの特長は、このADCだけではありません。FPGAは、論理セル、デジタル信号処理 (DSP) スライス、マルチギガビットトランシーバなどのI/Oといったサブコンポーネント数が指数関数的に増加する一方、全体の消費電力は低減が図られています。Xilinx社のKintex-7 FPGAは、再構成可能なオシロスコープのファームウェアに求められる規模の演算を、妥当な消費電力の下で実現できます。これは、NIが提供するオシロスコープ向け標準ファームウェアを使用する場合でも、ユーザが独自にLabVIEW FPGAモジュールで設計したカスタムファームウェアを使用する場合でも同様です。
PXIe-517xのようなオシロスコープの設計において、課題は消費電力だけではありません。8つのADCが250 MS/sで収集する14ビットのアナログデータは、約4 GB/sに膨れ上がります。この膨大なデータを、従来型のADCのようにパラレルデジタルレーンで伝送するのは非常に困難です。そこで、PXIe-517xオシロスコープのADCには、データコンバータ専用の規格であるJESD204高速シリアル物理層とプロトコルが採用されています。JESD204Bに準拠したADCを採用したことで、これらのADCは毎秒数ギガビットのデータレートで計測器上のKintex-7 FPGAにデータを転送できます。
アナログデータをADCからFPGAに転送した先にも、設計上の課題は存在します。多くのテストアプリケーションでは、オシロスコープからデータをホストコントローラやデータコプロセッサ、データストレージへ転送する必要があります。PXIe-517xオシロスコープは、Kintex-7 FPGAを使用して、PXI ExpressシャーシのPCI Expressバックプレーンを通じてデータを最大2.3 GB/sで転送します。
図2: PXIe-517xオシロスコープは、Analog Devices社の14ビットADCとXilinx Kintex-7 FPGAを中心として構成されている。
測定システムのハードウェアに搭載されているユーザによるプログラムが可能なFPGAは、検査対象デバイス (DUT) の制御に要する遅延時間を削減したり、CPUの負荷を低減したりするなど、多くのメリットをもたらします。以下のセクションでは、さまざまな利用シナリオで得られるメリットを詳しく説明します。
多くのテストシステムでは、DUTはデジタル信号で制御しなければなりません。従来型の自動テストシステムには、DUTモードで順序付けを行う機能があり、必要な測定を各段階で実行していました。また、自動テスト装置 (ATE) システムに、受け取った計測値に従ってDUTの設定を切り替えていくという判断機能が組み込まれている場合がります。
どちらのシナリオでも、ユーザによるプログラミングが可能なFPGAを搭載したソフトウェア設計型計測器であればコストと時間が節約できます。計測処理とデジタル制御を1つの計測器に統合することで、システムにデジタルI/Oを追加する必要性が減り、計測用I/Oとデジタルの各計測器間でのトリガの受け渡しも不要になります。特に、受け取った測定データに応じて自動でDUTを制御する場合、ソフトウェア設計型計測器は計測器ハードウェアのみで処理が完結するため、遅延時間が非常に長くなるソフトウェアで条件判断を行う必要性が少なくなります。
最新のソフトウェアベースのテストシステムでは、並列で実行できる測定の数に限界がありますが、ソフトウェア設計型計測器の場合、利用可能なFPGAロジックが許す限りいくつでも並列処理を実装できます。多数の計測やデータチャンネルを真のハードウェア並列処理によって扱うことができるため、計測対象を選択する必要がなくなります。そのため、ソフトウェア設計型計測器を使用すると、リアルタイムスペクトルマスクといった機能が劇的に高度な性能で実現され、しかも必要なコストは従来型の単体計測器と比べ数分の1で済みます。
また、並列化によって遅延時間を削減できるため、従来型のテストシステムで1回の測定を行う間に、ソフトウェア設計型計測器は数十回から数百回の測定を行えます。これにより、テスト結果の品質や測定の信頼性が向上します。
従来型計測器での低遅延時間トリガ動作のオプションは、使用するハードウェアによって決まります。ただし、ソフトウェア設計型計測器の場合、カスタムトリガ機能をデバイスに組み込むことで、関心のある状況だけを抜き出して評価することが簡単にできます。柔軟なハードウェアベースのトリガ機能を実装することで、カスタムスペクトルマスクやその他の複雑な条件を実装でき、重要な測定データをキャプチャする、または他の計測器をアクティブ化するといったことが可能となります。LabVIEWによるカスタムトリガの作成とソフトウェア設計型オシロスコープ上への実装を5分間のWebイベントでご確認ください。
図3: プログラム可能なFPGAを搭載したNIの計測器なら、トリガや信号処理といったカスタム測定機能のほか、相互運用可能なデバイスファームウェアを作成することが可能。
大量のデータの処理は、最高性能の商用CPUでも大きな負荷となり、結果として複数のプロセッサを持つシステムが必要となったり、テスト時間が長くなったりします。ソフトウェア設計型計測器ならデータをハードウェアで事前処理できるため、CPUの負荷を大幅に軽減できます。高速フーリエ変換 (FFT)、フィルタ処理、デジタルダウンコンバージョン、チャネライゼーションなどの処理はハードウェアに実装されるため、CPUに渡され処理されるデータ量を減らすことができます。
エンジニアや研究者は従来、テストおよび測定アプリケーションのみに計測を使用してきました。しかし、モジュール式計測器のI/Oとソフトウェア間の接続によって、計測を利用した電子システムの試作が可能となっています。たとえば、デジタイザやRF信号アナライザを使用して高度なレーダシステムを試作することができます。ユーザによるプログラムが可能なFPGAに接続することで、高度なアルゴリズムを試作機にすばやく実装できるほか、POC (概念実証) にかかる時間も短縮できます。
NIは、高電圧、広帯域幅、微小レベル信号の計測に対応した多数のオシロスコープを提供してきました。PXIe-5172は、高密度SMBコネクタを搭載していますが、これらのプローブをPXIe-5172にも接続できます。PXIe-5172でプローブを使用する場合は専用アダプタの使用を推奨します (アダプタ単体のNI製品番号は781449-01、アダプタ10個セットのNI製品番号は781449-10)。アダプタを使用することで、以下のプローブが使用できます。
パッシブプローブは汎用性が高く、最大500 MHzまたは300 Vまでの信号を測定できます。PXIe-5172は、以下のNIパッシブプローブと互換性があります。
アクティブプローブは、広帯域幅、高電圧、または電流信号など、特定の信号に適したものを選んで使用します。PXIe-5172は、以下のNIアクティブプローブと互換性があります。
図4: PXIe-5172は、柔軟性が高く、外部クロックによるサンプリングおよび80 Vpp信号入力に対応した8チャンネルオシロスコープ。
高エネルギー物理学などの科学アプリケーションにおいて最も重要なのは、計測器の性能および柔軟性です。そのようなアプリケーションの信号処理/制御タスクの多くは、以前よりアナログ電子部品と比較的低速のADCを使用して、調節済みの信号を集録していました。今日では、PXIe-517xオシロスコープのように高速の高分解能ADC (14ビット、250 MS/s以上) を利用すれば、センサから直接信号をサンプリングできます。ユーザによるプログラムが可能なFPGAを搭載した計測器を使用すると、信号処理をPC上で後処理で行うのではなく、集録時にリアルタイムで実行できます。そのため、科学実験においてより速く結果を得ることができ、より柔軟で効率的な制御が可能です。
インライン処理による効率的なリアルタイムフィードバック
多くの科学実験では、セットアップを明確に定義された状態に保つ制御システムを利用しています。たとえば、DIII-Dトカマク型核融合炉では、プラズマをRF信号で加熱しますが、それには複雑なRF反射係数を測定して、測定値から適切な制御パラメータを導き出す必要があります。
FlexRIOとユーザによるプログラムが可能なFPGAを使用した高速RF電力診断について解説
粒子加速器やシンクロトロン装置では、粒子ビームの軌道を常に監視して、正確な制御入力を必要とする磁石と同じ軌道になるようにする必要があります。DIII-Dトカマク型核融合炉のようなアプリケーションは、高速の並列処理機能により信号と周波数領域の解析が同時に行えるほか、極めて高速の制御ループが可能となるため、ユーザプログラマブルFPGAを搭載したオシロスコープを使用して解決できます。また、安全性が極めて重要なパラメータを監視するようFPGAをカスタマイズして、システムが望ましくない状態になったときに停止するようトリガできます。
高速のPXI Expressバスを使用した場合、オシロスコープを、実験用の制御信号を生成したり、各計測器あたり3 GB/sを超える速度でストレージメディアにデータを連続転送する出力モジュールと組み合わせることができます。加えて、ユーザによるプログラムが可能なFPGAには、いったん構築した処理/制御アルゴリズムをすばやく書き換えられるメリットもあります。すでにコンパイル済みのビットストリームを瞬時にFPGAにロードすれば、状況に応じてオシロスコープの動作を変更することができます。
リアルタイムイベント検出とデータ整理で作業を高速化
興味のあるイベントだけを補足するのは、往々にして困難です。実際のデータ収集の完了後、後処理時にイベントを検索するのが一般的な方法ですが、この方法では時間がかかる上、大量のデータを格納することが必要になります。
実験の効率を高めるには、集録時に補足する信号と破棄する信号を決めて、データ量を最小限にすることができます。関心対象のパラメータがタイムスタンプと算出されたエネルギーパルスのみの場合もあります。そのため計測器からそれらのパラメータを返すことはストレージ面で効率がよく、抽出済みの結果は簡単にPCに移すことができるため、長時間の測定が可能となります。
たとえば、タイムオブフライト法に基づくアプリケーションでは、粒子とエネルギーを時間の経過に基づいてチャート化します。図4に示すように、高速の粒子が図の左側に (短いフライトタイム)、低速の粒子が右側に表示されます。
図5: PXIe-5170およびPXIe-5171は、タイムオブフライト計算やリアルタイムパルス処理を含むアプリケーションに最適です。
測定システムのタスクとは、エネルギーパルスを抽出してタイムスタンプを求め、エネルギーを測定し、パルスのない時間 (集録データ) を除去 (ゼロサプレス) します。これはすべてのサンプルがリアルタイムで評価できるFPGAなら簡単に実行できます。図4に示すイベント検出の一般的なアーキテクチャは、パルス (しきい値など) 検出器の後、検出したパルスに対し、ガウス形状などの基準パルスに適合するアルゴリズムを使用して、最大値を推測します。ピークと対応するタイムスタンプを検出し保存したら、集録したパルスは破棄するか、別のバッファに送ってさらに解析するかPCに表示します。
LabVIEW FPGAを使用すると、オシロスコープに必要な信号処理ステップを実装して、パルスのフィルタリングや成形、オカーレンスのカウントとタイムスタンプ、高さと立ち上がり時間の測定、計測器内部での直接的なベースライン再構築、圧縮された結果のPCへの送信など、作業を効率化するためのツールが利用できます。
航空宇宙および防衛の分野では、テスタの寿命は40年以上に及ぶことがあります。旧式計測器の置き換えとテスタの再認定には、大きな費用がかかる場合があります。PXIe-517xオシロスコープは再構成可能であるため、新たな設計のテスタだけでなく、旧型計測器の代替品としても有効な選択肢になります。トリガ、フィルタなど多くの仕様および特性がテスタの世代を通して一貫している必要があります。これらのオシロスコープではLabVIEWで作成されたハードウェアIPを再利用できるため、考えられる後方互換性の問題を軽減でき、認定と保守のコスト削減につながります。
NIの航空宇宙/防衛産業への貢献についてご覧ください。
革命的な進化を遂げる今日のワイヤレス技術は、半導体デバイスに支えられています。半導体デバイスのテストには、高分解能、スピード、柔軟な計測器性能が要求されます。PXIe-517xオシロスコープは、そのチャンネル密度、高分解能、優れたスペクトル性能、ユーザによるプログラムが可能なFPGAにより、半導体の特性評価/製造テストシステムに必要な多くの高速アナログ測定を行う上で最適です。
半導体テスト向けのNI製品の詳細については、ni.com/semiconductorをご覧ください。