NI PXIe-4081 7 ½デジタルマルチメータ使用したバッテリ消費電力特性解析

内容

概要

ひっきりなしに市場に登場する新しい家庭用電化製品は、高速、小型、低価格で、複雑化しています。スピード、サイズ、複雑さにおけるテクノロジーの進歩を認識するために、ポケットに入っているスマートフォン以外を探す必要はありません。このような新しいデバイスのバッテリ寿命をどれだけ長くできるかというのが、設計エンジニアが抱える最大の課題の一つとなっています。したがって、消費電力およびバッテリ性能のテストと特性解析に多くの労力が費やされるのは驚くに値しません。

さらに、エンジニアは既存のテスト機器が新しいテスト要件を満たすよう適応させるという課題に直面しています。NIのプラットフォームは、ソフトウェア中心のモジュール式計測器を提供することで、こうした絶え間なく変化するニーズに対応できます。ソフトウェアにより、バッテリテストと消費電力テストのアプローチをニーズに合わせて柔軟に調整できます。その結果、テストデータはテスト要件そのものに応える内容になります。これによって、しばしば内容が古くなってしまっている「標準」テストから性能を概算または推測するといった必要もなくなります。

例えば、ドライバAPIの1つを使用したNI PXI-4081 DMMは、漏れ電流、突入電流、消費電力、バッテリの予備容量、バッテリの内部抵抗といったバッテリ電力の特性解析に関する問題を解消するのに必要な、柔軟性、機能、高分解能を備えています。図1aに示したNI PXIe-4081は、フル機能の26ビット (7½桁) デジタルマルチメータまたは1.8 MS/秒のデジタイザとして機能します。電流計測は、ピコアンペア (10-12A) 範囲まで可能です。こうした機能が、完全なバッテリの特性解析を行うための鍵となります。

図1bに示されているのは、PXIシステムと、RFダウンコンバータ、高速デジタイザ (オシロスコープ)、デジタルマルチメータ、ダイナミック信号アナライザといった、複数のPXI用モジュール式計測器です。ユーザはこれらのPXI計測器を直接プログラミングして、PCIバスを利用して高速でデータを転送することができます。

 



図1:他のモジュール式計測器とともにPXIeシャーシに挿入されたNI PXIe-4081 DMM

 

ポータブル (携帯) 機器漏れ電流消費電力


リーク電流および消費電力の特性解析によって、回路の性能を測定して最適化することが可能になります。

漏れ電流測定

漏れ電流は、デバイスがオフ状態のとき、負荷デバイスがバッテリから流れ出してしまう電流の量のことです。漏れ電流の特性解析によって、使用されていないときにバッテリがどれだけもつかがわかります。この計測を行うには、バッテリを直列接続して、ピコアンペア単位で電流を計測できるPXIe-4081 (図2を参照) のような高精度電流計測器を使用する必要があります。


図2: 漏れ電流と過渡電流を計測するには、FlexDMMを電流メータとして構成し、検査対象デバイス (DUT) とそのバッテリ (BDUT) の間で直列接続します。

消費電力測定

デバイスの消費電力の傾向を知れば、バッテリの寿命を推測することができ、電気設計を最適化することができます。バッテリ駆動のポータブルデバイスの消費電力を測定するには、電圧デジタイザと電流デジタイザからの信号が同時に必要です。電流を高い分解能、高速でA/D変換する機能は、従来のデジタルマルチメータにはありません。しかし、NI PXI-4081 DMMは、1.8 MS/秒でサンプリングできる電流デジタイザとして動作させることができます。この機能があれば、図2に示したのと同じ計測器と接続を使用して、漏れ電流と過渡電流の両方を収集することができます。過渡電圧も収集する場合は、別のPXIe-4081を追加して、1.8 MS/秒の電圧デジタイザとして構成し、バッテリの出力に接続し、両方のDMMを構成して、同時にデータ収集を開始します [1,2]。

バッテリ電圧が全負荷範囲にわたって大きく変化しないと予測される場合、デジタイザを1つ使用して過渡電流を計測できます。すると、計測した電流と仮定した定電圧から電力が算出できます。

簡単な家電製品であるMP3プレーヤーの消費電力を検証してみましょう。図3は、このタイプのデバイスの消費電力計測を示しています。計測には、PXIe-4081、NI LabVIEWグラフィカルプログラミング環境、計測/解析のためのNI-DMM計測ドライバソフトウェアが使用されました。このMP3プレーヤーは、曲の演奏中も、常に低消費電力を維持しようとしています。バッテリからの電力が必要になるのは、ユーザがメニューを閲覧するとき、またはメモリに曲をロードするときのみで、そういったときには大きな電流スパイクが発生します。



図3: NI FlexDMMとNI LabVIEWソフトウェアを使用してMP3プレーヤーの消費電力を計測します。

バッテリ特性解析

さまざまな種類のバッテリを特性解析することによって、ポータブル機器に必要な適切な内部抵抗を持ち、適度な電流を供給する小さなサイズのバッテリを選択することができます。また、バッテリの予備容量の計測も重要です。バッテリが供給する電力は、電気化学的プロセスの結果です。つまり、こうした2つのパラメータの値は、計測方法、温度、寿命、製造プロセスなど、数多くの要素によって異なります。

予備容量測定

バッテリの予備容量は、バッテリが保存できるエネルギーの量です。通常、バッテリをある特定のレートで放電し、セルの電圧がある特定の値にまで落ちるまでの時間を計ることで計測できます。値はセルの種類によって異なります。通常、バッテリのメーカーは、1Cという放電レートによってバッテリを評価します。つまり、公称容量値が1000 mAhのバッテリの予備容量が100%の場合、そのバッテリは1時間に1000 mAの電流を供給できることになります。例えば、このバッテリが1000mAの電流値を持っていながら45分しか持続しなかった場合、バッテリの予備容量は75%だったということになります。負荷が大きいほど予備容量の値が低くなるほか、上記で述べたようなその他の要素で予備容量の値は異なります。

予備容量を計測するには、特定の放電レートに対応するバッテリに負荷を加え、長時間にわたって高確度な電圧計測を行う必要があります。DMMを使用してこの計測を行うには、DC電圧モードのデジタルマルチメータとしてDMMを構成して、バッテリの端子に直接接続する必要があります (図4を参照)。


図4: 検査対象バッテリ (BDUT) の電圧変化を計測するには、PXIe-4081 DMMを高確度電圧メータとして構成し、バッテリの端子に直接接続します。予備容量を計測するには、長時間負荷を接続し、DMMによって連続的にデータ収集を行います。

内部抵抗測定

バッテリの内部抵抗によって、供給できる瞬間電流が決まります。内部抵抗の値が低ければ、例えば、MP3で曲を変更した場合などの急な電流の要求に対して反応がよくなります。バッテリの内部抵抗の値は通常、ミリオーム (mΩ) 単位です。ただし、セルには、マイクロオーム (μΩ) レベルの内部抵抗を持ったものもあります。バッテリの内部抵抗は一定ではなく、接続された負荷によって動的に変化します。また、この抵抗は温度や寿命の値が増えるにつれ大きくなり、同じタイプのセルであっても使用されている素材や製造プロセスによって異なります。

内部抵抗が大きくなると、性能が低下することがあります。バッテリの交換時期を判断するために、バッテリの抵抗の増加率を監視して、新しいバッテリの抵抗値と比較する場合があります。また、用途に対して十分なピーク電流を提供できるかどうかを判断することが重要になる場合もあります。どちらの場合でも、機器が実際にバッテリに負荷を与えるときと最も類似した状態で計測することによって、最も有用な情報が得られます。

バッテリの特性をさらによく知るために、電気化学モデルが使用されます。最も馴染み深いモデルは、図5に示すように、抵抗R1と直列に接続されたインダクタLと、別の抵抗R2とコンデンサCで構成される並列ネットワークから構成されるRandles型等価回路モデルです [3]。図3に示すようなアプリケーションでは、低周波数での負荷応答が問題になります。この場合、インダクタンスの影響は無視してもよく、R1とR2の合計バッテリ抵抗を考慮する必要があります。

図5: Randles型等価回路モデル

従来、バッテリの内部抵抗は、バッテリの端子に高いDC電流源または1kHzのAC電源を印加し、電圧応答性を測定することによって計測されてきました。

DC電流源を使用した方法では、数アンペア単位の負荷電流を使用して、R1+ R2で電圧降下を発生させて計測を可能にします。この方法は、1/fノイズの影響を受けやすいため、低電流信号を使用すると、ノイズフロアに近い電圧降下が発生します。R1+ R2の値は、電流を与える前と後の電圧の差を電流振幅で割り算することによって算出します。

AC源を使用した方法では、AC電流信号を通常1kHzで与えます。すると、1/fノイズの影響を受けにくい計測が可能になります。この方法では、DC源よりも低い電流振幅を使用しますが、Randles型等価回路モデルの場合、直列抵抗のR1以外はほとんど影響を受けません。Cは多くのセルの場合かなり大きく、セルのタイプおよび容量によって、数千マイクロファラッドから数ファラッドまでの幅があります。したがって、高周波数では、そのリアクタンスは小さく、R2の影響は遮断されます。この計測方法は、バッテリの抵抗の増加率 (%) を監視して、新しいバッテリの抵抗値と比較する場合に有用です。

このテストシステムは信号発生器とPXIe-4081 DMMを使用して構築できます。図6は、NI PXI-5412高速電圧発生器を電流源として使用するのに必要な接続とコンポーネントを示しています。この信号源の出力インピーダンスは50 Ωです。バッテリは実際にはショートしたような動作を起こします。したがって、出力に100 Ωの抵抗を接続し、1 kHzの信号で1 Vを出力することによって、PXI-5412信号発生器モジュールは、1 kHzで6.6 mAの電流を生成します。33uFのコンデンサはDC信号を遮断するために使用します。DMMは、バッテリの端子に直接接続し、最も精度の高い範囲で電圧デジタイザとして構成します。内部抵抗は、電圧源波形と電流源波形の1 kHzにおけるRMS値またはFFT振幅の割合として算出します。

図6: ACを使用した方法の場合の内部抵抗を計測するのに必要な計測コンポーネントと接続。電圧源 (PXI-5412) は、抵抗を出力に追加することによって電流源として使用します (出力のコンデンサを使用してDC信号を遮断)。PXIe-4081 DMMは、ACカプリングを有効にして電圧デジタイザとして構成し、バッテリの端子に接続します。内部抵抗は、電圧波形と電流波形の1 kHzにおけるRMS値またはFFT振幅の割合としてプログラム的に算出します。

現在のセル (アルカリ、リチウムイオン、ニッケル水素など) の内部における電気化学的プロセスは、Randles型等価回路モデルとは若干異なるモデルを持っており、ACを使用した計測をさらに複雑にします。1 kHzにおける計測方法で得た結果を実際の用途に関連付けるのは難しいかもしれません。

以下の測定例では、図3に示すように、多くの家電製品がデバイスの電源投入時に軽い負荷を維持し、ユーザが機能にアクセスする際に高い負荷が時々かかる場合があることを考慮しています。この状態を再現するために、テストシステムはバッテリに軽い負荷 (例: 1mA) を一定時間プリロードし、その後高負荷 (例: 100mA) を印加して、この追加負荷による電圧降下を測定します。内部抵抗は、負荷の値と負荷を与えた結果得られる電圧から算出します。この計測方法は、Energizer社 [4] など、一部のバッテリメーカーで使用されており、これによって、バッテリの内部抵抗の特性解析が行われます。

この計測システムを構築するには、同じソフトウェア中心のシステムを使用し、バッテリに異なる負荷抵抗を接続するためのプログラム設定可能なスイッチマトリクスを追加します。これで、デジタルマルチメータを使用して、バッテリの端子で簡単に電圧降下を測定することができます。FlexDMM、検査対象バッテリ、負荷の接続の仕方は図7に示したとおりです。

                          

図7: a. プリロードがバッテリに接続されており、バックグラウンドで一定の負荷を与える回路にバッテリがある場合をシミュレーションしています。バッテリの端子における電圧はFlexDMMを使用して計測します。このFlexDMMは、入力インピーダンスが10 GΩを超えるDC電圧を計測するように構成されています。b. 2つ目の負荷は並列接続され、電圧降下を発生させます。内部抵抗は、この電圧降下をRLOADに流れる電流で割ったものです。

図8aは、負荷を与えることによって発生する電圧降下を表しています。ポイント1は、1 mAのプリロードがバッテリに接続された瞬間です。ポイント2は、100 mAの負荷が接続された瞬間で、ポイント3は、この負荷が取り除かれた瞬間です。内部抵抗 (RI) を計算するには、ポイント2と3の間の電圧の差を電流の差で除算します。ポイント2 (I2) の電流は、電圧 (V2) をプリロード (RPL) の抵抗で除算した値、ポイント3 (I3) の電流は電圧 (V3) を負荷 (RL) で除算した値と等しくなります。

RI = ΔV/ΔI、ここで
ΔV = V2 - V3
ΔI = I2 – I3 = (V2/RPL) - (V3/RL)

プリロードと負荷のペアを使用して、さまざまな負荷でのバッテリの内部抵抗を測定できます。図8bは、プリロード1 mA、その後のプリロードを10 mA、44 mA、95 mA、180 mA、265 mAとした場合のDサイズバッテリの内部抵抗を示しています。

図8: a)Dサイズバッテリにあらかじめ1 mAの負荷を与え、その後に100 mAの負荷を与えて生じた電圧降下。b)Dサイズバッテリの内部抵抗と負荷。1 mAのプリロードが使用されています。10 mA、44 mA、95 mA、180 mA、265 mAの負荷が使用されています。

内部抵抗の小さな信号測定の場合は、大きなプリロード (100 mA程度) を、次に小さな追加の負荷 (1 mA程度) を適用して測定できます。今度は2度目に与えた負荷による電圧降下がおそらく数十マイクロボルトの範囲内で小さくなります。この小さな電圧を検出するには、検査対象と同じタイプの電源またはサンプルバッテリを基準電圧として使用して検査対象バッテリをゼロにし、バッテリと基準電圧信号の電圧差異を計測します (図9を参照)。これによって、デジタルマルチメータは最も精度の高い範囲に設定されます。

 

図9: 小さな信号測定のための接続。FlexDMMはさらに精度の高いDC電圧範囲に構成できます。

テストシステム開発容易する


バッテリが広く使用されている今日、消費電力とバッテリ性能の特性解析は重要視されます。バッテリをテストする場合は、電子機器が実際にバッテリに負荷を与えるときと最も類似した状態でテストすることによって、最も有用な情報が得られます。

既存のテスト機器が新しいテスト要件を満たすよう適応させるのは容易なことではありません。NIのようなテスト装置メーカーは、こういった傾向に応えるため、ニーズにぴったりと合った計測システムを構築するのに必要なソフトウェアツールを提供しています。従来のようにベンダ定義の固定された機能によってテストを制限されることはもうありません。このソフトウェア中心のアプローチをVirtual Instrumentationと呼びます。

このアプローチによって、バッテリが実際に使用される状態を正確に再現できるテストシステムを作成し、定義することができるようになります。柔軟性に優れたソフトウェアと組み合わせた広範囲をカバーできる計測器でバッテリの使用状況を再現することによって、ほぼ全てのタイプのバッテリと負荷を1つのシステムで特性解析することができます。





参考資料:
[1] デジタルマルチメータで有効電力を測定する
[2] LabVIEWのサンプルプログラム:「FlexDMMの1.8 MS/sデジタイザ機能を使用して電力を測定する」
[3] B HARIPRAKASH S K MARTHA and A K SHUKLA.スパースインピーダンス分光法による密閉型自動車用鉛バッテリのモニタリング。Proc.Indian Acad.Sci.(Chem.Sci.).Vol. 115.Nos 5 & 6.October–December 2003. pp 465–472.Indian Academy of Sciences
[4] Energizer社円筒形アルカリ電池 - アプリケーションマニュアル。7-8ページ - 内部抵抗。