デジタルマルチメータによる測定基礎知識

概要

DMM (デジタルマルチメータ) は、DC信号とAC信号の電圧、電流、抵抗を測定できる電気テスト装置および測定計測器です。ここでは、デジタルマルチメータ (DMM) の正しい使用法を学び、その理解を深めます。

内容

DMM表示桁数

デジタルマルチメータ (DMM) は、さまざまな測定で役に立ちます。DMMを選ぶとき、また現在所有しているDMMの使用法を調べるときには、最初にその計測器の表示桁数を確認しましょう。

そのDMMが、目的に応じた精度を達成できる十分な桁数に対応していることが重要です。DMMの表示桁数は分解能と無関係ですが、表示して読み取ることができる有効桁数を判断するために役立ちます。DMMで表示される桁数は、3½や3¾などと言い表されます。整数部分は桁数を表します。1桁の数字で0~9の10種類の状態を表現できます。小数 (分数) 部分は、その桁で表示できる状態の最大数を割合で表しています。たとえば、½桁の最大値は1で、表示できる状態は2つ (0または1) となります。¾桁の最大値は3で、表示できる状態は4つ (0、1、2、または3) となります。

式1.多くの場合、DMMの有効桁数には小数 (分数) が含まれており、表示できる状態の数が限定されています。

小数 (分数) 部分が先頭の桁を表し、整数部分がそれ以降の桁を表します。たとえば、2 Vレンジでは、3 ½桁のDMMの最大表示は1.999 Vです。

一般的に、有効桁数が½桁のDMMの場合、フルスケール電圧は200 mV、2 V、20 V、200 Vとなり、¾桁の場合のフルスケール電圧は400 mV、4 V、40 V、400 Vです。

 

DMMによる電圧測定

ほぼすべてのDMMが、DCとACの両方を測定する機能を備えています。電圧測定は一般的に、計測器、コンポーネント、回路の出力をテストしたり確認したりするために行われます。電圧測定では必ず2点間の電圧を測定するため、2本のプローブが必要になります。DMMによっては、コネクタとプローブが赤と黒に色分けされています。その場合、赤は実際に測定する正極側に対応し、黒は一般的に基準点または接地を表す負極側に対応しています。電圧は双方向ですから、正側と負側の対象ポイントを切り替えた場合、測定電圧は反転します。

通常、電圧測定にはACおよびDCの2つのモードがあります。ACおよびDC多くの場合、「V」に破線と実線の記号が付加されているのがDC、「V」に波線記号が付加されているのがACです。目的に合わせて適切なレンジとモードを選択してください。

図1.一般的に、AC電圧 (左) およびDC電圧 (右) の測定は、計測器、コンポーネント、回路の出力をテストしたり確認したりするために行われる

AC電圧またはDC電圧を測定するときに知っておくべき用語と概念をいくつかご紹介します。

 

入力抵抗

入力抵抗が無限大であるのが、理想的な電圧計です。つまり、電圧計がテスト対象の回路から一切電流を引き込まない状態です。しかし現実には必ずある程度の抵抗が生じ、計測確度に影響を与えます。この問題を最小限に抑えるために、一般的なDMMの電圧測定サブシステムのインピーダンスは数MΩ~数十MΩに設計されています。低電圧の測定では、この程度の抵抗でも測定結果の確度が損なわれ、許容できないほどの誤差が生じることがあります。そのため低電圧レンジでは、しばしば10 GΩ程度の高インピーダンスが選択されます。

DMMによっては、入力抵抗を選択できるものがあります。ほとんどの用途では、インピーダンスを高めることで計測確度を改善できます。一方で、低インピーダンスを選択した方がよいケースもいくつかあります。たとえば、種類の異なるワイヤが数多く納められた電線管では、ワイヤの各所にカプリングが使われていることがあります。このワイヤが開放状態でフローティングしているとしても、DMMは電圧を読み取ろうとします。インピーダンスを高くするだけでは、このようなゴースト電圧を排除しきれませんが、低インピーダンスにすると蓄積された電荷の通り道ができて、DMMが正しく0 Vを測定できるようになります。低電圧レンジでこのような状態が発生する例としては、回路上に配線が密集している場合が挙げられます。

 

波高因子

AC信号の測定 (電圧または電流) では、特定の波形で確度を計算するときに波高因子が重要なパラメータになることがあります。波高因子とはピーク値とRMS値の比率であり、波形の形状を表します。一般的に、波高因子は電圧測定に利用されますが、電流など他の測定でも利用できます。専門的には正の実数として定義されますが、多くの場合、波高因子は比率として示されます。

式2.波高因子は、波形のピークの鋭さを測る基準である

 

ピークを持たない定数波形は、波形のピーク値とRMS値が同一になるため、波高因子が1となります。三角波形の波高因子は、1.732です。波高因子が大きくなるとピークが鋭くなり、高確度のAC測定が難しくなります。

図2.AC信号の波高因子が確度に影響することがある

 

True RMS (真の実効値型) を使用するACマルチメータでは、正弦波に基づいて確度が決定されます。波高因子は、指定確度の範囲内で測定しながら、どの程度まで正弦波に歪みを許容できるかを示します。また、波高因子の値に応じて、他の波形についても追加の確度誤差が示されています。

たとえば、あるDMMの読み取り値のAC確度が0.03%であるとします。三角波を測定する場合、波高因子1.732に追加の誤差がないかどうかを確認する必要があります。このDMMでは、波高因子が1~2のとき、追加で0.05%の読み取り誤差があるという仕様になっています。つまり今回の測定では、読み取り値の確度が0.03%+0.05%となり、合計で0.08%になります。以上のように、波形の波高因子は測定の確度に大きな影響を及ぼします。

 

オフセットヌル

ほとんどのDMMがオフセットヌルを実行する機能を備えています。これはDC電圧または抵抗を測定する際に、接続部とワイヤによって生じる誤差を排除できる便利な機能です。まず、正しい測定タイプとレンジを選択します。次にプローブ同士を接触させて測定し、読み取りを待ちます。次にオフセットヌルのボタンを選択します。これ以降の読み取りでは測定結果からヌル測定値が除外されるため、より確度の高い読み取り値になります。

 

オートゼロ

電圧と抵抗の計測確度を高める手段としては、オフセットヌルの他にオートゼロという機能があります。オートゼロは、計測器内部のオフセットを補正するために使用します。この機能を有効にすると、ユーザがDMMで測定を実行するたびに、追加でもう1回の測定が実行されます。この追加の測定が行われるのは、DMMの入力側と接地側の間です。次に、この値が測定結果から減算されます。つまり、測定​パスまたは​ADCにあるすべてのオフセットが減算されます。オートゼロは測定結果の確度を高めるために非常に有効ですが、測定の所要時間が長くなることがあります。

 

DMMによる電流測定

電圧測定の他に一般的な測定機能が、DC/AC電流の測定機能です。電圧は回路と並列に測定されますが、電流は回路と直列に測定されます。したがって、DMMを回路中に挿入して高確度で電流を測定するには、回路を開く、つまり物理的に電流の流れに割り込ませる必要があります。電圧と同様、電流も双方向です。電流の表記ではVではなくAを用いますが、その点を除けば電圧の表記と似ています。Aはアンペア (ampere) の略で、電流の測定単位です。目的に合わせて適切なレンジとモードを選択してください。

 

図3.DC電流 (左) とAC電流 (右) の測定は、回路やコンポーネントのトラブルシューティングに役に立つ

 

DMMの入力端子自体の小さな抵抗によって、電圧を測定します。次に、オームの法則に従って電流を計算します。電流は、電圧を抵抗値で除算した値です。マルチメータを保護するため、電流が回路を流れているときに電流測定機能をオフにすることは避けてください。また、電流測定モードの最中に、誤って電圧を測定しないよう注意してください。ヒューズが切れる原因になります。誤ってヒューズを切ってしまっても、ほとんどの場合、交換が可能です。詳細については、お使いの計測器の取扱説明書を確認してください。

DMMによる抵抗測定

抵抗測定機能は一般的に、抵抗の測定や、センサやスピーカなどのコンポーネントの測定に使用します。抵抗を測定する際には、小さな内部抵抗と直列に接続された未知の抵抗に対して、既知のDC電圧を適用します。このテスト電圧を測定した後で、未知の抵抗値を計算します。そのため、デバイスのテストは電源が入力されていないときにのみ実行してください。電源が入力されていると回路内にすでに電圧が生じているため、不正確な値が得られます。さらに、コンポーネントは回路に接続する前に測定する必要があることを覚えておきましょう。そうしないと、そのコンポーネントに接続されているものすべての抵抗値を測定することになり、コンポーネントのみの測定にはなりません。

抵抗の測定に関して好都合なことは、方向性が無いことです。両方のプローブを入れ替えても、読み取り値は同じです。抵抗測定を表すシンボルは、抵抗値の単位でもあるΩです。目的に合わせて適切なレンジとモードを選択してください。OLと表示された場合、その読み取り値は計測機の限界を超えている、つまり測定できるレンジを超えていることを意味します。前に説明したように、オフセットヌルを使用することで測定の読み取り値を改善することができます。

 

図4:抵抗測定では一般的に、抵抗や他のコンポーネントを測定する

DMMによるその他計測

以上の機能に加えて、多くのDMMはダイオードテストと導通テストという2種類の測定機能を備えています。

 

 

導通テスト

導通テストは、2点が電気的に接続されていることを確認するときに便利です。これはワイヤ断線、プリント基板 (PCB) の配線、はんだ付け接点のトラブルシューティングで特に役立ちます。導通テストでは、どこにプローブをあてているかを的確に監視することが欠かせません。ほとんどのDMMには閉回路を検出したときに音で知らせる機能があり、プローブから目を離す必要がありません。そのため、導通テスト機能のシンボルは音波のような形になっています。

 

図5.導通テストは、2点が電気的に接続されていることを確認するときに有用

 

導通テストは機能的に抵抗測定と似ており、同じようにテスト対象のデバイスに電源が投入されていないことが前提条件となります。まずプローブの先端同士をこすり合わせてビープ音が鳴ることを確認し、すべてが確実に接続されていることを確認するとよいでしょう。ビープ音がしない場合、プローブがしっかり接続されているかどうか、DMMのバッテリー容量が十分か、正しいモードでテストしているかどうかを確認します。さらにユーザマニュアルを調べて、ビープ音を鳴らすために必要な抵抗値レベルを判断します。これはDMMのモデルによって異なります。

大容量コンデンサが組み込まれた回路をテストすると、ビープ音が短く鳴った後で無音になります。その理由は、DMMが回路に電圧をかけると、それがコンデンサに蓄電されるため、その間、回路が閉回路であると誤認されるからです。

 

 

ダイオードテスト

ダイオードテストでは、ダイオードの順電圧降下が電圧として表示されます。この機能を表すシンボルは、その名の通りダイオードです。

 

図6.ダイオードテストでは、ダイオードの順電圧降下が電圧として表示される

DMMはダイオードに微小な電流を流し、2本のテストリード間で発生する電圧降下を測定します。ダイオードの測定では、正極プローブをダイオードの陽極に、負極プローブを陰極にあてます。通常、シリコンの電圧読み取り値は約0.7 Vですが、0.5~0.9 Vの範囲であれば、ダイオードは正常に動作していると見なされます。ゲルマニウムダイオードの場合、0.3 V前後が一般的です。

 

図7.通常、正極プローブをダイオードの陽極に、負極プローブを陰極にあててテストするただし、陽極と陰極を入れ替えて確認できることもある

次に、プローブを入れ替えて、負極プローブをを陽極に、正極プローブを陰極にあてます。ダイオードが正常であれば、マルチメータはOLと表示し、開回路があることを知らせます。

ダイオードが不良の場合、短絡または開放の問題が生じている可能性があります。ダイオードで開放が発生している場合、順方向と逆方向の両方のバイアスでOLと表示されます。これは、電流がゼロになっており、開回路と同じ状態になっているからです。ダイオードで短絡が発生している場合、ダイオードの両端の電圧降下がなくなるため、0 Vと表示されます。

ノイズ除去パラメータ

測定する際は、常にノイズを考慮することが重要です。計測器の動作と、測定に関連するノイズをよく理解するには、さらに2つのパラメータを知っておく必要があります。

ノーマルモード除去比 (NMRR) とは、2つの入力端子間に現れるノイズ、つまり測定対象の信号に混在しているノイズを除去するDMMの能力を表します。こうしたノイズのほとんどは、ライン周波数とその高調波です。NMRRは多くの場合、50 Hzまたは60 Hzの電源ノイズを除去するための能力を示すために使用され、指定の周波数のみ有効です。また、DC測定の際にも役立ちます。ノーマルモードノイズは、シールドまたはフィルタ処理を利用して軽減することもできます。

コモンモード除去比 (CMRR) は、ノイズの多い環境で侵入するノイズなど、両方の入力端子でよく見られるノイズを除去するDMMの能力を表します。通常、コモンモード除去比はノーマルモードノイズほど深刻ではありません。

NMRRとCMRRは一般的に50 Hzと60 Hzでの性能が示されますが、CMRRはしばしばDC値での性能も示されます。NMRRとCMRRの典型的な値は、それぞれ80 dBと120 dBです。

DMM測定ヒント

  • DMMの表示桁数は分解能と無関係ですが、表示して読み取ることができる有効桁数を判断するために役立ちます。 
  • ほとんどの用途で、インピーダンスを高めることで電圧計測の確度を改善できます。
  • 波高因子が大きくなるとピークが鋭くなり、高確度のAC測定が難しくなります。
  • オフセットヌルを使用することで、DC電圧または抵抗を測定する際に、接続部とワイヤによって生じる誤差を排除できます。
  • オートゼロは、計測器内部のオフセットを補正するために使用します。
  • 電流測定では、DMMを回路中に挿入するために回路を開く必要があります。 
  • 電流測定モードの最中に誤って電圧を測定すると、ヒューズが切れる可能性があります。
  • 抵抗測定導通テストは、回路に電源が投入されていないときに実施する必要があります。
  • ノーマルモード除去比 (NMRR) は、2つの入力端子間に現れるノイズを除去するDMMの能力を表します。
  • コモンモード除去比 (CMRR) は、ノイズの多い環境で侵入するノイズなど、両方の入力端子でよく見られるノイズを除去するDMMの能力を表します。