路面形状計測・評価システム

岡田 裕行 氏 /株式会社フジエンジニアリング  ・ 松本 剛也 氏/ 西日本高速道路エンジニアリング関西株式会社,

"本システム導入によって、路面形状計測従来手法比べて、コスト80%削減した。"

- 岡田 裕行 氏 /株式会社フジエンジニアリング  ・ 松本 剛也 氏/ 西日本高速道路エンジニアリング関西株式会社,

課題:

従来の路面形状計測はプロフィルメーター(3mあるいは8m)を用いて実施されてきたが、効率的にデータ収集を行うことは難しかった。その為以下の問題を解決する必要があった。高速移動下(80km/h)での測定、効率的なデータ収集、正確な位置情報の取得、従来の計測との整合性。

ソリューション:

路面形状計測・評価システムは、データ集録システムと分析システムがうまく連携することで成立

 

 

【背景】

高速道路を維持管理していく上で、舗装路面の平坦性は利用者の走行快適性、舗装の維持補修計画、沿道環境に影響を与える重要な要因であり、評価に要する統一的な指標が求められていた。この中で、指標の一つである1989年世界銀行が提案した国際ラフネス指数(IRI)が近年注目されており、このIRIをより効率的、かつ適切に計測できる技術の実現が望まれていた。

 

上記のような背景のもと、我々は非接触センサーを活用して、高速走行下でも計測が可能となる路面形状計測・評価システムの開発を行った。

 

 

 

 

 

【課題】

従来の路面形状計測は図 1に示すようなプロフィルメーター(3mあるいは8m)を用いて実施されてきた。しかし、プロフィルメーターは人力で牽引して測定することから、以下のような問題があり、効率的であるデータ収集を行うことは難しかった。

  • 測定には必ず交通規制が必要である
  • 人力で牽引するため長距離計測が困難である
  • 出力データが紙ベースであることから、その後の分析に手間を要する

 

なお、紙データからデジタルデータに変換するには、デジタイザ等を用いて路面形状の座標化を行っており、分析までに時間を要するほか、データ変換時に作業誤差が入るなどの問題があった。

 

このため、今回のシステムでは上記の問題を含めて、以下のような問題を解決する必要があった。

  • 高速移動下(80km/h)での測定
  • 効率的なデータ収集
  • 正確な位置情報の取得
  • 従来の計測との整合性

 

 

【ソリューション】

1、システム構成

路面形状計測・評価システムは、データ集録システムと分析システムがうまく連携することで成立している。各システムの概要は、次のとおりである。

 

(1) データ集録システム(ハードウェア)

データ集録システムは、レーザー変位計、加速度計、非接触距離計、GPS等のセンサーとNI製のハードで構成されている。センサー設置位置ならびに計測車の外観を図 2に示す。

 

システム構成は図3に示すとおりであり、大きく変位計測と加速度計測とGPS計測に分けられる。

 

これらの計測はそれぞれが異なる目的で実施されているが、すべてを同時に制御・計測する必要があった。このため、ハードの制御は統一したプラットフォームで開発することが不可欠となり、NI製のハードウェアと計測・制御に特化したLabVIEWの採用に至った。

  • 変位計測
    変位計測は、IRIを算出する上で等距離計測が必須条件であった。このため、10mmピッチのパルス出力される非接触距離計を採用し、トリガー計測が可能なNI 9205+cDAQ-9172を採用した。
  • 加速度計測
    加速度計測は車内スペースに限りがあるため、アンプなどを設置する余裕がなかった。このため、センサーにアンプが内蔵されているIEPE型加速度センサーを採用し、制御には最もコンパクトな測定器であるUSB-9234を採用した。
  • GPS計測
    GPSからのシリアル出力フォーマット(NMEA-0183)の取得・分析には、LabVIEWのシリアル通信モジュールを活用した。

 

 

(2) データ集録システム(ソフトウェア)

ハードの制御およびデータ集録は、LabVIEWを用いている。専用ソフトウェアの外観を図 4に示す。

 

本ソフトウェアは走行中の操作となることから、できる限り入力項目を簡素化し、操作に伴う煩雑性を軽減させることに主眼を置いて開発したものである。

 

具体的には、計測者に必要とされる作業は、予めリスト化された路線より計測対象路線を選択し、走行位置、計測開始地点(スタートキロポスト)を入力するのみとし、あとは目標とした地点(スタートキロポスト)を通過した際に、計測開始させるだけとなる。

 

なお、スタート地点に間違いがあったとしても、分析ソフトウェアにて修正可能とすることで、現場で生じるミスや誤操作に対して柔軟に対応するように設計した。

 

 

(3) 分析システム(ソフトウェア)

上記のシステムで集録されたデータは、図 5に示す分析ソフトウェアを用いて分析・評価を行う。ソフトウェアの役割としては、位置補正、IRIの計算、データ(IRI、路面形状、加速度)のアプトプットが主な機能となる。なかでも、距離補正は長距離計測に伴って生じる距離誤差(非接触距離計の累積誤差や高速道路の位置情報の一部延長や短縮区間の影響)が無視できないことから重要なものとなっている。

 

なお、本ソフトウェアはデータ集録ソフトウェアとは異なり、LabWindows/CVIを用いて構築している。

 

その理由としては、次のようなものが挙げられる。

  • イベント処理の実装が簡単である。
  • LabVIEWで作成したアルゴリズムの移植が簡単である。
  • Cベースであることから、LabVIEWに精通していない技術者もコーディングできる。

 

 

2、 結果

路面形状計測・評価システムの導入によって得られた結果は以下のとおりである。

 

2-1  課題の解決

本システムの採用によって、以下の課題を解決することができた。

(1) 高速移動下(80km/h)での測定

非接触距離計とNI 9205+cDAQ-9172に用いたトリガー計測によって、高速移動下(80km/h)でも10mmピッチでの路面データ(路面プロファイル)が取得可能となった。

 

(2) 効率的なデータ収集

本システムの採用によって、データがデジタル化され、計測後すぐに分析にとりかかれるようになった。また、計測時のデータ保存先から評価方法までをシステム化することにより、効率的なデータ収集が実現したほか、作業者による作業誤差が軽減し、データの再現性・信頼性が向上した。

 

(3) 正確な位置情報の取得

非接触距離計の採用により、距離誤差0.5%以内の正確な累積距離情報が取得可能となった。さらに、分析ソフトウェアを活用することで、現場に応じた柔軟な距離修正を実現した。

 

(4) 従来の計測との整合性

本システムで得られた路面形状は、JHS248-20051に規定されている精度(3mプロフィルメーターによる路面形状に対して±30%以内)を満足しており、従来の計測との整合性を確認した。

 

2-2  導入による効果

本システムは、従来の計測方法では決して実現しなかったデータを効率的に収集する手段を提供できたことにより、その導入に伴う効果は大きい。

 

 現状では、以下のような効果が認められる。

  • 本システムの導入によって、路面形状計測は従来の手法に比べて、コストで80%削減された。
  • さらに、計測実施へのコスト(規制費も含む)が大幅に低減できたことで、定期的な計測(モニタリング)が実現した。今後、路面データのさらなる蓄積によって効率的な舗装管理に繋がることで、さらなるコスト削減が期待できる。
  • 路面状況モニタリングの実現は、沿道環境へ及ぼす影響(振動、騒音、低周波音など)との関連性や舗装の補修計画立案を評価する指標の一つとなり、具体的な対策の提案や解析へのフィードバックなど問題解決に活用される場面が急増している。(導入以後、10案件以上で活用している)

 

 1 NEXCO試験方法 第2編 アスファルト舗装関係試験方法 路面性状計測車による路面のIRI測定方法 pp39~40

 

著者情報:

岡田 裕行 氏 /株式会社フジエンジニアリング  ・ 松本 剛也 氏/ 西日本高速道路エンジニアリング関西株式会社
Japan

図1  8mプロフィルメーター
図 2  測定車の外観
図 3  システム構成図
図 4  データ集録ソフトウェア
図 5 分析ソフトウェア