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- Kazuyoshi TAKEDA, SEIKO EPSON
マルチノード高精度同期慣性計測システムへの主な要求事項は下記のとおり。 ① エプソン製IMU 200個以上をマイクロ秒オーダーで高精度同期する。 ② サンプリングレート500spsで最大10分間計測する。 ③ 破壊試験となる試験体に設置するので、堅牢なセンサ、通信手段、計測システムであること。 ④ 3Gの加速度印加で故障しないこと。 ⑤ 納期厳守のこと。(開発期間は4ヶ月) ⑥ 極めて高い信頼性があること。(試験体や試験環境の準備等、産官学共同で、年単位・数億円規模をかけて実験の準備をして、かつ、破壊試験のため再試験は不可能なため、計測の失敗は許されない) このように、大規模・高性能、かつ極めて高い信頼性を求められる計測システムを、4ヶ月という短期間で開発することを求められた。
大規模・高性能、かつ極めて高い信頼性を求められる計測システムを、ハードウエアから開発する場合、年単位での開発期間が必要となり、要求される納期に間に合わない。そこで、弊社内で計測や制御で多くの実績があり、高い信頼性をもった完成したハードウエアが用意され、かつ、大規模なシステム開発にも十分耐えうるアーキテクチャのNIソリューションを採用することにした。
Kazuyoshi TAKEDA - SEIKO EPSON
Mikimoto JIN - SEIKO EPSON
セイコーエプソン・センシング事業は、当社の基となる腕時計を支える水晶加工技術(QMEMS)を活かした超小型、高精度、高安定性、高信頼性のセンサを生み出し、社会インフラ維持への各種提案を行い、橋梁劣化モニタリングやビル振動モニタリングから、製造装置の故障予知保全など幅広く社会に貢献している。
(「QMEMS」は、安定・高精度などの優れた特性を持つ水晶素材である「QUARTZ」と、「MEMS」(微細加工技術)を組み合わせた造語でセイコーエプソンの登録商標である。セイコーエプソンでは半導体を素材としたMEMSに対して水晶素材をベースに精密微細加工を施し、小型・高性能を提供する水晶デバイスを「QMEMS」と呼んでいる。)
文部科学省委託事業 都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト -サブプロジェクト②:都市機能の維持・回復のための調査・研究-(平成24年度~28年度の5カ年計画) における鉄骨造高層建物崩壊余裕度定量化のための18層縮小試験体による、世界最大級の振動台実験において、構造ヘルスモニタリングの新たなアプローチとして、構造フレーム等の部材レベルの損傷推定を行うためのセンサに、エプソン製IMU(慣性運動情報計測器、エプソン製IMUについては5章をご確認ください)が清水建設技術研究所殿により採用され、IMU 200個以上を高精度同期させて計測する「マルチノード高精度同期慣性計測システム」を短期間で開発することとなった。(本システムは本サブプロジェクトにて、本実験を含めて3回の実験に使用される予定である。) (以下 http://www.toshikino.dpri.kyoto-u.ac.jp/Brochure_J_v1.pdf より引用、一部変更)
本サブプロジェクトは、東日本大震災から得られた二つの教訓-「想定を上回る地震動に対する対処」と「事業や生活の継続と速やかな回復」-に対し、以下の目標達成を目指している。
・高層ビル等都市の基盤をなす施設が完全に崩壊するまでの余裕度の定量化
・これら施設の地震直後の健全度を即時に評価し損傷を同定する仕組みの構築 (引用終わり)
関連サイト
・京都大学 都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト -サブプロジェクト②:都市機能の維持・回復のための調査・研究- ホームページ
http://www.toshikino.dpri.kyoto-u.ac.jp/
・清水建設技術研究所ホームページ
http://www.shimz.co.jp/theme/sit/
マルチノード高精度同期慣性計測システムへの主な要求事項は下記のとおり。
① エプソン製IMU 200個以上をマイクロ秒オーダーで高精度同期する。
② サンプリングレート500spsで最大10分間計測する。
③ 破壊試験となる試験体に設置するので、堅牢なセンサ、通信手段、計測システムであること。
④ 3Gの加速度印加で故障しないこと。
⑤ 納期厳守のこと。(開発期間は4ヶ月)
⑥ 極めて高い信頼性があること。(試験体や試験環境の準備等、産官学共同で、年単位・数億円規模をかけて実験の準備をして、かつ、破壊試験のため再試験は不可能なため、計測の失敗は許されない)
このように、大規模・高性能、かつ極めて高い信頼性を求められる計測システムを、4ヶ月という短期間で開発することを求められた。
大規模・高性能、かつ極めて高い信頼性を求められる計測システムを、ハードウエアから開発する場合、年単位での開発期間が必要となり、要求される納期に間に合わない。そこで、弊社内で計測や制御で多くの実績があり、高い信頼性をもった完成したハードウエアが用意され、かつ、大規模なシステム開発にも十分耐えうるアーキテクチャのNIソリューションを採用することにした。
① CompactRIOを用いた分散処理システムとする。
サブコントローラとして、1台のCompactRIOに最大48個のIMUを接続し、CompactRIOのFPGA回路による高速処理で48ノードx 6軸のセンサデータを同時に500spsで収集できるシステムを構築した。
本システムでは5台のサブコントローラで、最大240個のIMUを接続できる。また、サブコントローラの台数を増やすことで更に接続IMU数を増やすことが可能で、拡張性の高いシステムとなっている。
また、IMUへの配線上、CompactRIOを振動試験体上に設置することになったが、堅牢なCompactRIOにより5Gの加速度印加での動作保証をすることができた。
② CompactRIOとIMUはCANインタフェースで接続する。
少ない配線でIMUを接続できる、高精度同期を実現できる、外部からの衝撃やノイズに対する耐性が高い、という理由から、CompactRIOとIMUはCANインタフェースで接続した。
③ CompactRIO間の同期はパルス信号により行う。
CompactRIO間の同期は、遅延やジッタ要素の小さいパルス信号とした。
また、離れた位置に配置されるCompactRIO間を低損失で接続するために光ケーブルで接続した。
④ マスターコントローラ(PC)とサブコントローラ(CompactRIO)はイーサネットで接続する。
マスターコントローラとサブコントローラは1対多の接続であり、計測ルームに設置されるマスターコントローラと試験体に設置されるサブコントローラ間は数十メートル離れているので、それに適したイーサネットで接続することにした。
⑤ イーサネット接続が切れてもサブコントローラが自立して計測を継続できるようにした。
試験体倒壊時に最も破断が懸念されるのが試験体から外部に接続されるイーサネットケーブルである。本システムは計測が開始されると、マスターコントローラからの指示なしで各サブコントローラは自立して計測し、計測データをサブコントローラ内の不揮発メモリに保存するようにし、イーサネットケーブルが破断しても計測を継続して計測データが保存されるようにした。
図4-1にハードウエア構成を示す。
① マスターコントローラ(PC)とサブコントローラ(CompactRIO-9082)5台をイーサネットで接続する。
② サブコントローラに2ポート高速CANモジュール(NI 9853)を4台接続し、各CANポートに、IMUに供給させる電源を合流させる回路を介して、IMUを最大6個接続する。
③ サブコントローラは1台の同期マスタと、その他の同期スレーブで構成され、同期マスタは4chディジタルI/Oモジュール(NI 9402)から同期信号を出力し、同期スレーブは同モジュールでそれを入力する。同期信号は経路の途中で電信号-光信号変換回路により光信号に変換される。
図4-2に計測時のソフトウエア処理シーケンスを示す。
① マスターコントローラのLabVIEWが、各サブコントローラRTOSに計測開始コマンドを送信する。
② 同期マスタRTOSはFPGAを起動し、FPGAはサンプリング間隔(1/500sps = 2msec)で同期信号を送信する。
③ 各サブコントローラのFPGAは同期信号に同期して各CANポートに計測同期メッセージを出力する。
④ 各IMUは計測同期メッセージに同期して計測データを出力する。
⑤ 各サブコントローラのFPGAはサンプリング間隔内に計測データを受信し、まとめてRTOSに送信する。
⑥ RTOSはFPGAからのデータをIMU毎にファイルに保存する。
⑦ サブコントローラは計測時間経過時に自動的に計測終了し、マスターコントローラに終了を通知する。
⑧ マスターコントローラは全サブコントローラからの計測終了メッセージを受信後、それぞれのサブコントローラから計測データを回収する。
5. エプソン製IMUによる高精度・高安定計測 本事例で紹介している計測システムの卓越した性能の実現には、NIの計測システムだけでなく、エプソン製IMUが不可欠だった。近年、産業・工業分野において、各種センサは、製品への組み込みを容易にするために精度や安定性を高めながら、さらなる小型化と低消費電力の実現が求められている。水晶デバイス業界をリードしているセイコーエプソンは、自社の強みである水晶微細加工技術QMEMSを用いた水晶ジャイロ(角速度)センサと、GPSなど位置情報デバイスで培った半導体技術やノウハウを融合させるという独自のアプローチでIMUを開発し、世界最小クラスの外形サイズ(24x24x10mm)と低消費電力(30mA:動作電源電圧3.3V時)を実現しながら、高精度・高安定の計測性能を持つ、IMUを商品化している。エプソン製IMUの市場ポジショニングを図5-1に示す。
このIMUは、高精度・高安定の3軸ジャイロセンサと3軸加速度センサを組み合わせた6軸センサを搭載し、角速度の計測性能においては角度ランダムウォーク性能0.2deg/√hr、ジャイロバイアス安定性6deg/hを実現している。また、このIMUをIP67相当の防水・防塵性能をもつケースでパッケージし、CANopen準拠の通信プロトコルを搭載したIMUセンサユニットも商品化した。図5-2にエプソン製IMUセンサユニットM-G550PCの外観を示す。
本IMUは、産業・工業分野における慣性運動の解析・制御、モーション解析・制御、移動体制御、振動制御・安定化、ナビゲーションシステムなどの用途に適している。小型・軽量・低消費電力化により、従来のIMUよりも組み込む製品の設計自由度を高め、さらにはこれまで難しかった、よりさまざまな産業・工業分野の製品への組み込みも可能となった。
本実験では、コンシューマ向けセンサでは実現困難な高精度・高安定なセンサ性能が要求され、かつ、試験体に200個規模で設置するので、小型・低消費電力、取り扱いのしやすさ、配線のしやすさ、通信の信頼性が求められる。エプソン製IMUはこれらの要求に対して最適なソリューションを提供できる。
エプソン製IMUの詳細については以下のサイトを参照してください。
http://www.epson.jp/products/sensing_system/index.htm
NIソリューションの導入により、下記の効果があった。
① 大規模かつ高精度、高信頼性を要求されるシステムを短期間に開発することができた。
高い信頼性をもった完成したハードウエアが用意されているNIソリューション、及び、手厚い教育体制、ソフト開発サポート体制により、LabVIEW初心者が1人・4ヶ月間で、PCとCompactRIOのソフトウエアを開発してシステムを完成させることができた。(システム開発は、ハードウエア開発1人、ソフトウエア開発1人、評価担当1人の計3人体制で行った)
特に、親身で手厚い教育・ソフト開発サポートは、他社に類をみないものと考える。これらがなければ、とても4ヶ月間でシステムを完成させることはできなかった。
もし、NIソリューションを活用せず、ハードウエアから開発した場合は、システム完成までに2~3年の期間、億単位の開発費がかかったものと推定する。
② CompactRIOの高い処理能力により、各IMUへのCAN同期メッセージの同期精度約3.5usecを実現することができた。また、1つのCompactRIOで最大48個のIMUの6軸センサ(計288)の計測データを500spsでサンプリングし、約6Mbit/sec のデータを受信・変換・ファイル保存できるシステムを実現できた。
これはCompactRIOのFPGA性能によるところが大きい。またFPGA回路を短期間で開発できたのは、LabVIEWの共通環境でFPGA回路開発ができるNIソリューションによるところが大きい。
③ CompactRIOの高い信頼性により、3日間の振動実験を通して、152個のIMUを500spsで、計測データ欠損なく、システムのトラブルなく、計測を完了することができた。
また、振動実験の最後に試験体を破壊し、その際にイーサネットケーブルが破断したが、CompactRIOは自立で最後まで計測を実施し、CompactRIO回収後に計測データを無事に取り出すことができた。
また、今回構築したシステムにより、文部科学省委託事業 都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト -サブプロジェクト②:都市機能の維持・回復のための調査・研究- における鉄骨造⾼層建物崩壊余裕度定量化のための18層縮小試験体を用いた、世界最大級の振動台実験での、清水建設技術研究所殿による構造ヘルスモニタリング研究に貢献することができた。この研究により、都市の基盤施設の地震直後の健全度を即時に評価し、事業や生活の速やかな回復につなげる仕組みの構築が期待される。
図6-1に、この実験においての、振動台に設置された試験体、及びエプソン製IMU、サブコントローラを示す。試験体は18層で、各層に8個、合計152個のエプソン製IMUが設置され、また、数層に1台、合計5台のCompactRIOを含むサブコントローラが設置された。
図6-2に、振動試験により最終的に倒壊させた試験体を示す。このような状態となっても本システムは計測を継続した。
図6-3に本システムによって計測されたデータ例と、清水建設技術研究所殿によって算出された損傷判定結果の例を示す。縦方向が層であり,試験体のY1構面とY2構面の損傷の分布を白色部が「損傷なし」、灰色部が「損傷あり」の様に示している。本判定結果は試験体の梁端フランジの破断位置と概ね対応しており、試験体内の損傷位置の分布を推定できる可能性があることが示された。
NIソリューションを採用することで、大規模かつ高精度で信頼性の高いシステムを短期間に完成させることができた。
今後の展望としては、このシステムをベースに下記の機能を拡充させ、建築構造物の計測で、より使いやすいシステムとしていきたい。
① 計測中のリアルタイム計測データ表示、及び、計測後の計測データ回収処理時間短縮
② IMU設置自由度の向上(通信可能なセンサケーブル長の拡大)
③ 他のエプソン製QMEMSセンサ(振動計、傾斜計)の接続
④ 無線通信によるシステム制御機能
Kazuyoshi TAKEDA
SEIKO EPSON
Japan