​バイオ​マス​ガス​燃料​対応​エンジン​の​計測​制御​システム​の開発

「多数​の​入出力​信号​に対して​ソフトウェア​による​柔軟​な​設定​や​操作​が可能ある​という​メリット​を​生​かし​て、​所望​の​システム​を​構築​でき​ま​した。これにより実験負担軽減だけなく、​計測​から​解析​まで​の​すべて​を​LabVIEW​で​行える​ため、​効率​が​向上​しま​した」

- Go Tomatsu, The University of Tokyo, Department of Mechanical Engineering

課題:

燃料中のガス成分の差異がバイオマス燃料対応エンジンの運転状態に及ぼす影響を解析、評価したい。

ソリューション:

NI LabVIEWソフトウェアとPXIハードウェアを使用して、エンジンおよび模擬​バイオ​マス​ガス​燃料​生成​装置​の​各​入出力​を測定する。

作成​者:

Go Tomatsu - The University of Tokyo, Department of Mechanical Engineering
東京大学大学院 工学系研究科・機械工学専攻・金子研究室 - 戸松 豪氏

 

バイオ​マス​ガス​と​は​有機物​の​発酵​や​熱​分解​など​により​生成​さ​れる​ガス​で​あり、​メタン (CH4)、​水素 (H2)、​一酸化​炭素 (CO) ​など​の​可燃性​ガス​と​二酸化炭素 (CO2)、​窒素 (N2) ​など​の​不燃​性​ガス​が​混合​して含まれます。その混合割合は、原料となるバイオマス資源の種類やガス化方式などによって異なるうえ、ガス化炉の温度変化にともない時々刻々と変化します。さらに、バイオマス​ガス​は非常に​低​発熱​量の​ガス (H2、​CO) ​や​不燃​ガス (CO2、​N2) ​を​多く​含む​ため、都市​ガス​など​と​比べ​て​発熱​量​が​小さく、これがエンジン​の​運転に際して問題となることがあります。

 

このようなバイオマスガス燃料に対応したエンジンを開発するには、燃料の発熱量やガス成分の差異がエンジンの運転状態に与える影響を正しく把握することが必要です。そこで本研究では、バイオマスガス燃料対応エンジン開発の第一段階として、複数のガス成分を任意の割合で混合した模擬バイオマスガス燃料を用いてのエンジン運転実験により、模擬バイオマスガス燃料の燃焼解析を行いました。 

 

エンジン運転実験では、模擬バイオマスガス燃料生成装置から得られる模擬バイオマスガス燃料がエンジンに供給され、データが計測されます。

 

 

 

これらの装置を用いたエンジン運転実験では、計測信号の同期および実験中の機械操作の効率化の2点が主な課題となります。

 

計測

燃料中のガス成分の差異がエンジンの運転状態に及ぼす影響を解析、評価するために、エンジン運転中の燃料流量や空気流量、エンジン各点の温度、圧力など、多数のデータを計測します。この際​に​エンジン​クランク​の​動き​と​同期​し​て​計測すると、後​の​解析が容易になります。圧力​など​の​変化​の​早い​信号​は​クランク​角​1​度​毎​ (エンジン​定​格​回転​数​1500 rpm時に​9000 Hz) でサンプリングし、​温度​など​の​変化​の​比較的​遅い​信号​は​クランク​一​回転​毎​で​サンプリング​​する​など、サンプル​レート​の​設定​も​柔軟​に​行​う必要があります。また、センサ​の​アンプ​によって​出力​電圧​の​レンジ​が​異なる​ので、​精度​よく​計測​する​ため​には、チャンネル​毎​に​レンジ​を​設定します。

 

エンジン​運転​制御

​エンジン​起動​時には、​クラッチ​を​つなぎ、​セルモータを回転させて、​燃料​供給​開始​と同時に​クラッチ​を切る、という操作が必要となります。また、運転​中​に​は、​スロットル、​マス​フロー​コントローラ、​スパーク​プラグ​といった​アクチュエータ​の​操作​により、​あらかじめ​設定​した​実験​条件​と​なる​よう​に、​空気​流量、​燃料​流量、​点火​時期​を​調節​する​こと​が​必要です。実験​中​に​エンジン​運転​状態​を​監視​し​ながら​複数​の​機器​を​操作​するため、​実験​者​へ​の​負担​が​大​きく、操作の​効率​化​が​望​ま​れます。  

 

模擬​バイオ​マス​ガス​生成

​7​台​の​マス​フロー​コントローラ​により、ボンベ​から​供給​さ​れる​6​種類​の​ガス (CH4、​C2H4、​H2、​CO、​CO2、​N2) と都市​ガス​13A​の流量をそれぞれ独立に監視、制御します。任意の混合割合で模擬​バイオ​マス​ガス​を​生成し、同時に7台のコントローラを操作する必要があるため、操作は煩雑になります。

 

システム構成

7台のコントローラを同時に操作するため、NI製品を使用してエンジン​計測​装置​と模擬​バイオ​マス​ガス​燃料​生成​装置​の​各​入出力を一元化し、エンジン​計測​制御​システム​と模擬​バイオ​マス​ガス​燃料​生成​システム​を​構築します。いずれのシステムにおいても、ソフトウェア​の​開発​に​はLabVIEWを使用します。

 

​エンジン​計測​制御​システム​に​は​、NI PXI-8176コントローラ、PXI-6071Eアナログ入力マルチファンクションデータ収集 (DAQ) モジュール、PXI-6733高速アナログ出力モジュール、PXI-6602タイミングおよびデジタルI/Oモジュールを使用します。計測用にはPXI-6071Eを使用して、ロータリエンコーダからの信号を基に、センサ​から​の​出力​をクランク角度毎にサンプリングします。運転​制御​用​に​はPXI-6733モジュールを使用して、​クラッチ、​セル​モータ、​スロットル、​マス​フロー​コントローラ​など​の​アクチュエータ​操作を行います。また、PXI-6602を使用して​点火​信号​の生成​を​行います。エンジン運転中に操作する各機器からの入出力信号はNI製ハードウェアに一元化されます。このように、エンジン​の​運転と​計測を​PC​ベース​で行える​システム​を​構築​しました。

 

模擬​バイオ​マス​ガス​生成​システム​の開発に​は、市販のデスクトップPCとPXIシャーシ​、PXI-6031Eアナログ入力マルチファンクションDAQモジュール、PXI-6733モジュールを使用しました。PXI-6733から入力される電圧により各ガス成分の流量を制御し、PXI-6031Eにより実際の流量を計測します。こうして、PCで7台のマスフローコントローラを同時に操作し、​7​種類​の​各​ガス​成分を任意の混合割合に制御できるシステムを構築することができました。

 

結果

計測に関しては、エンジンクランクの動きと同期したサンプリングが可能になりました。また、チャンネル​毎​の​サンプル​レート​や​計測​レンジを​ソフトウェア​により​容易​に​設定​できるようになりました。テストを​PC​のみ​で​行う​こと​が​可能​になり、実験​時​の​機器​​操作が簡素化されました。​

 

さらに、計測​した​データ​の​解析​に​も​LabVIEW​を​使用しました。​実験​から​解析​までのすべてをLabVIEWを使用して行うことができたため、複数​の​プログラミング​言語​を​習得​する​必要​がなくなり、​その​分​の​時間​を​短縮​できました。

 

 

 

エンジン計測制御これらのデータをもとに、図2 (b) に示す解析プログラムを用いて、エンジン性能 (出力、熱効率、出力の変動係数など) や、燃焼特性 (燃焼開始時期、燃焼期間など) を解析します。

 

 

 

まとめ

LabVIEWを使用して、バイオマスガス燃料対応エンジンの計測制御システムを構築できました。多数​の​入出力​信号​に対して​ソフトウェア​による​柔軟​な​設定​や​操作​が​可能​で​ある​という​メリット​を​生​かして、​所望​の​システム​を​構築​でき​ま​した。これにより実験時の負担が軽減されただけでなく、​計測​から​解析​まで​の​すべて​を​LabVIEW​で​行える​ため、​効率​が​向上​しま​した。最後​に、​今後​バイオ​マス​ガス​燃料​対応​エンジン​の​制御​システム​を​試作​する​場合でも​、この新しいシステム​は​ソフトウェア​の​変更​のみで利用できるため、開発​効率​の​更​なる​向上​が​期待​できます。

 

著者​情報:

Go Tomatsu
The University of Tokyo, Department of Mechanical Engineering

図1. 実験装置の概念図
図4. 解析
図2 (a) は エンジン​計測​制御​用​プログラムを示しています。エンジン始動シーケンスを自動で行った後、アクチュエータ​を​手動​制御​し​て​実験​条件​に​合わせ、エンジン​の​運転​データ​を​計測​します。
図2 (b). 7種類のガスの流量をそれぞれ監視する